22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

カテゴリ:サッカー > 観戦

3年前のチェルシー戦よりもはるかに落ち着かない空気に満ち溢れていた国立競技場。その64,922人の大観衆を前に川崎の選手は最後まで戦う姿勢を貫きました。

川崎にとってこの試合最大のトピックは、ジェジエウの実戦復帰でしょう。45分間のプレータイムの中で持ち味のスピードとパワーを存分に発揮しました。頼れるセンターバックの帰還は、残りのシーズンに向けての大いなる好材料です。

パリと川崎の立場は当然異なり、シーズン前でありなおかつ指揮官が変わって新体制となった前者と、シーズン中であり、先週末の試合が中止になって比較的フレッシュな状態の後者という違いがまずあります。

それゆえ代表組不在ながら、現状のベストメンバーで臨んだ川崎の方が機動力では優位に立てました。早速、立ち上がりから家長昭博、マルシーニョ、そしてレアンドロ・ダミアンがハイプレスを見せます。

とはいえ主導権自体は個の力で上回るパリに握られてしまいます。細かい局面局面で後手を踏む格好となり、たとえばトップ下のリオネル・メッシにはアンカーの橘田健人が翻弄させられました。

そうした劣勢の中でも川崎は選手達がおなじみのプレーを随所に披露します。チャナティップ・ソングラシンは低い姿勢のドリブルでボールをキープし、レアンドロ・ダミアンはジャンルイジ・ドンナルンマのポジションを見てロングシュートを放ちました。

チームとしては相手3バックの横、アクラフ・ハキミの裏のスペースを活用。マルシーニョを走らせる攻撃に活路を見出そうとします。残念ながらこの形で枠をとらえた際どいフィニッシュには至りません。

決定力ではパリが勝り、メッシに右足での先制弾を許します。シュートは登里享平に当たってコースが変わったため、ネイマールやキリアン・エンバペ相手に再三好セーブを見せていたチョン・ソンリョンも及びませんでした。

2失点目もメッシが司令塔となって生まれます。いずれのゴールもウイングバックが絡んでいたため、パリとしては新しいやり方が一つの形になったと言えます。

後半は両チームともメンバーが大幅に変わり、パリは60分過ぎまでに主力がごっそり抜けました。ただ、ベンチメンバー主体となったことで機動力は上がり、川崎のボール保持時は人につく守備をしていました。

川崎は84分にコーナーキックの流れで瀬古樹のアシストから山村和也が1点を返し、残り時間も手を緩めることなく同点に追い付くべくプレーを続けました。

加えて最後は高井幸大、永長鷹虎もピッチに立ち、このゲームを経験することができました。スコアの上では負けましたが、真剣勝負ではないとはいえ川崎が得るものは多かったはずです。


ワールドカップ予選の重圧から解放され、パラグアイに快勝した日本。ようやく優勝経験国であり真の強豪であるブラジルとの対戦を迎えました。

ブラジル戦というと親善試合であっても勝ったことがなく、毎回いいようにやられていた日本ですが、新しい国立競技場での初戦はいつになく全員守備で耐えていました。

例えば、ビニシウス・ジュニオールと対峙した長友佑都は、本職の山根視来を差し置いての右サイドバック起用に応える働きを見せました。

ただ、主に伊東純也にボールを預けて攻め、コーナーキックを獲得するまではできるものの、セットプレーでの得点の可能性は低く、マルキーニョス、エデル・ミリトンがセンターで構えるボックスの中には簡単に入らせてもらえません。

実際、シュートストップに優れたアリソンが慌てたのは、前田大然の猛烈なプレスを受けた時だけでした。日本は最後までブラジルゴールを脅かすことができずに終わります。

一方のブラジルは25分頃からギアを上げ、ネイマールの強烈なミドルシュートが権田修一を襲ったのをきっかけに怒涛の攻撃を仕掛けました。

そこからハーフタイムまでは日本陣内でプレーが続き、実質4-2-4のアグレッシブなブラジルにほぼ一方的に攻められました。ネイマールに対してはファウルでしか止められないのです。

しかし、森保一監督は劣勢の中でも強気の姿勢を貫こうとします。ハーフタイム明けには攻守に気の利いたプレーのできる原口元気を下げて、鎌田大地を投入します。

以降も前田、三笘薫、堂安律、さらに柴崎岳と山根をピッチに送り出しました。

その中で三笘は持ち味を出すべく果敢にドリブルで仕掛けていきます。それでもチアゴ・シウバが入ったことで右サイドバックにポジションを移したミリトンに完璧に封じられました。

結局、ややペースの落ちかけていたブラジルにPKを献上。ネイマールのスローな動作からのキックに沈みました。日本にとっての歴史的初勝利はまたもお預けとなります。

ワールドカップでベスト8に進みたいのであれば、強豪相手の勝利が必須です。とりわけ今年の大会はドイツ、スペインと同居しているのですからなおさらです。

現実はと言えば、日本のシュートはわずかに4本。最多が遠藤航の2本という結果ですから、悲願達成の可能性を感じられる内容ではありませんでした。

後半のアディショナルタイムの使い方にしても、最低でも1点が欲しいはずなのに後方でボールを動かすばかりで攻めの姿勢を感じられません。結果、時間を浪費してタイムアップを迎えてしまいます。

どんな相手でも守ろうと思えば守れる、ただし得点は取れないというのでは以前からの日本と変わりません。一皮むけるにはまだまだ時間がかかりそうです。


新しい国立競技場での決戦は、クラブ初のタイトルがかかっているとはいえ勝者のメンタリティを備えた選手を擁する神戸と、クラブとして20ものタイトルを獲得している鹿島の激突となりました。

序盤は鹿島が押し込んでいたものの、それを凌ぐと神戸が主導権を握ります。鹿島のトップの選手は神戸の最終ラインと飯倉大樹のボール回しに圧力をかけないため、ビルドアップがスムーズに進んでしまいます。

そこから左ハーフスペースを主戦場にするアンドレス・イニエスタに預けてスイッチが入る格好になっており、背番号8のボールキープ力、展開力の高さで鹿島を大きく上回ります。クォン・スンテの立ち位置を見てロングシュートを放ったりもしました。

最初は右ウイングに構えていたルーカス・ポドルスキも次第に左にポジションを変えます。そこに酒井高徳が絡んでの攻撃が神戸にとっては主体となっていました。

先制点は鹿島ゴール前で酒井とポドルスキがともにボールに迫り、ポドルスキが蹴り込んだクロスをクォン・スンテが弾くも犬飼智也に当たったことで生まれました。

流れをつかんだ神戸は左偏重になりすぎないように右からの攻撃にも重きを置き、時折イニエスタが山口蛍とポジションを変えるなどしており、追加点は西大伍のクロスに藤本憲明が合わせて決まります。

試合はここから鹿島がどう逆襲を仕掛けるかが注目され、大岩剛監督は後半開始から動きました。土居聖真をハーフタイム明けに、山本脩斗を後半8分に送り込みます。

ただ、この日の鹿島は選手のコンディション不良が一部で伝えられており、実際、プレーの精彩を欠いていました。シンプルなロングパス、サイドチェンジがミスになり、タッチラインを割るシーンが目立ちました。

そうなると大きな展開を求めるのではなく中央を打開しにかかりますが、5-4-1で守る神戸の守備を崩すことができずにつかまってしまいます。イニエスタの相手のコースを消す動きも巧みでしたが、山口、西といった日本代表クラスの選手が汗かき役となって奮闘しました。

終盤に入りようやくサイドを大きく使った攻撃で神戸陣内深い位置まで入ってクロスを入れるところまでできるようになりましたが、フィニッシュワークに迫力を欠き、決定機が生まれません。鹿島らしいしぶとさ、憎らしさが表に出てこないまま時間が過ぎていきます。

試合が終わりに近づくと、勝利を確信したトルステン・フィンク監督はイニエスタを下げ、さらにポドルスキを下げて代わりに現役最後の試合となるダビド・ビジャを投入します。

後半のシュート数が2本にとどまった神戸でしたが逃げ切りに成功。天皇杯のタイトルを獲得するとともにAFCチャンピオンズリーグ出場権をも得ることとなりました。神戸はタイトルを取ったことでクラブとして見える景色が変わっていくでしょうし、野望に向かって大きな一歩を踏み出すことができました。


小林悠がボールを懐に収め、シュートを放って決めるまでの一連の動作はスローモーションのように見えました。それほどまでに完璧なシチュエーションであり、決定的なゴールだったはずです。

残り時間は2分とアディショナルタイム。勝利を確信した川崎サポーターの声には喜びの色が混ざっていました。相手陣内でのプレーが多かったものの、鈴木武蔵、チャナティップ・ソングラシン、ジェイ・ボスロイドを中心としたカウンターに幾度も冷や汗をかいた戦いを90分で終わらせられる間際まで来たのです。

ところが夏場以降のリーグ戦で低迷する川崎は試合巧者ではなく、後半のほぼラストプレーでコーナーキックから深井一希の同点弾を食らってしまいます。時間帯は大きく違いますが、スコアの推移は先日のガンバ大阪戦と同じです。

それまでの間に時計の針を進めることは可能でした。まず小林が得点する前から長谷川竜也がピッチに入ろうとスタンバイしており、その計画通りに交代を行い、一旦ピッチ上の選手たちの気持ちを落ち着かせることもできました。

実際には鬼木達監督はゴールが決まったことで長谷川投入を見送り、結局、同点に追い付かれたあとの延長頭にあらためて阿部浩之と代えることにします。

また札幌陣内のコーナーフラッグ付近で得た川崎のフリーキックでは、ボールを受ける家長昭博がオフサイドポジションにいたため、あっさり札幌にボールを明け渡すこととなりました。

こうした小さな判断ミスの積み重ねが、延長、PKまでもつれた原因となります。

そこからも川崎にとってはまさかの展開が続きます。VARにより、谷口彰悟のファウルが警告から退場の判定に変わって10人での戦いを余儀なくされ、そのときに与えたフリーキックを福森晃斗に沈められてリードを許してしまいました。

以降、流れの中では札幌優位で、ピッチの幅を広く使った相手に対して守勢に回る時間が多かった中、数的不利を挽回できるセットプレーで小林が同点ゴールを叩き込んで、PK方式で決着をつけることにするまではよかったものの、今度は4人目の車屋紳太郎が痛恨のクロスバー直撃。絶体絶命のピンチに陥ります。

それでも川崎サポーターを背にゴールを守った新井章太が、5人目、6人目をストップ。クラブとしても自虐的になっていたルヴァンカップ決勝の負の歴史にピリオドを打ちました。

現実的には今季獲得可能な主要タイトルはルヴァンカップしかないと考えられる中、これをしっかり勝ち取れたのは昨季、一昨季のリーグ王者だからこそと言えます。

もっとも、これほどまでの激闘を制した勢いで今後続く過密日程での難敵との対戦を乗り切れれば、ひょっとするとリーグ戦においても新たな光が見えるかもしれません。


互いに現時点で選択できるベストの11人を送り込んでぶつかった一戦でした。

前半キックオフの笛が鳴る前の両者の立ち位置は、横浜も高いライン設定をしてはいたものの、シティのそれはさらに圧縮された10人のフィールドプレーヤーの並んでいる姿でした。こうした小さな差の積み重ねがシティの順当な勝利につながっていったとも考えられます。

シティの攻撃を支えたのは、ケビン・デ・ブライネでした。負傷に悩まされる期間が短くなれば、今シーズンもさらなる貢献が期待できるトッププレーヤーですが、この日の立ち上がりは決して万全とは言えないピッチコンディションに悩まされていたようでした。

それでもすぐにアジャストして、本来の持ち味を発揮。1ゴール1アシストの結果を残しました。

先制点は一見リスキーかつ脆弱なようで容易には大惨事に至らない朴一圭のところを狙って生まれます。クラウディオ・ブラボが流れの中でボールを保持している際、一気に横浜ゴールめがけて蹴ってしまうことも可能なほど朴一圭は高いポジションをとっていました。

さすがにそこまで大胆な選択はしなかったものの、前線のベルナルド・シウバを経由して、デ・ブライネに任せる形をとります。デ・ブライネは右足を切りに来た畠中槙之輔の逆をとり、左足で強烈なシュートを叩き込みました。左右両方を遜色なく使いこなせるがゆえのプレーで、切り返した瞬間に畠中はもうどうすることもできませんでした。

シティの2点目もデ・ブライネがドリブルスタートと見せかけてスルーパスを通し、ラヒーム・スターリングが朴一圭との1対1を冷静に対処して奪いました。このゴールが入る前にハーフウェイライン付近からのリスタートを起点にシティのライン間を突かれた波状攻撃で遠藤渓太の同点弾を許していたため、プレミア王者は再び勝ち越しに成功します。

その後のデ・ブライネはピッチを退く時間が近くなるころには左ウイングの位置でゆったりと歩くなど疲れの色が隠せなくなっていましたが、それまでは中盤で急激に速度を変えたドリブルを披露したりと随所で好プレーを見せました。

親善試合ではありましたが、ペップ・グアルディオラ監督は後半15分まで選手交代を見合わせました。そこで下げたのはベテランのダビド・シルバと、得点欲しさにやや強引な個人プレーに走りがちだったレロイ・サネの2人だけでした。代わりにイルカイ・ギュンドアン、フィル・フォーデンを送り込み、戦力は落としません。

リバプールとのコミュニティシールドを約1週間後に控える中、後半30分以降、ようやくデ・ブライネをはじめ主力が下がって代わりに多くの背番号の重たい選手が出てきました。それでも後半アディショナルタイムに1点を決めて試合を決定づけます。

横浜は序盤になかなかペナルティボックスに入れず苦労していて、三好康児がカイル・ウォーカーとの1対1で難なく負けるなどしましたが、1点取れたことで選手全員が場の空気にも慣れ、周囲をきちんと見られるようになってきて、複数の選手が動いて空いているところにボールが出るようになりました。

またウイングの仲川輝人と遠藤にシティのサイドバックよりもさらに外側のポジションをとらせ、彼らを生かした効果的な攻撃もできるようになります。

ただ、いかんせんフィニッシュの精度が足りず、ゴールの枠の中に蹴り込めば得点という決定機を3、4回つくりながらブラボの好守もあって決められませんでした。あのあたりのコントロール、冷静さが高まっていれば、このフレンドリーマッチはどうなっていたかわかりません。

同じ方向を進んでいると言われる両チームですが、横浜には現体制、アンジェ・ポステコグルー監督のもとでのタイトル獲得がもう一歩先へと進むために必要なのかもしれません。


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