22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

カテゴリ:サッカー > 観戦

大崎玲央の裏――。

両ウイングがタッチライン際まで広がる横浜は、右サイドバックに起用されている背番号25の背後を執拗に狙っていました。台所事情の苦しい神戸の吉田孝行監督が西大伍をより攻撃に絡める右サイドハーフに使ったため、大崎はその後方、最終ラインのサイドを任されます。

可変式のシステムというわけではなく、純粋な4バックを敷いており、攻撃時にはセンターバックを残して高い位置をとることを求められるサイドバックで、上下動の繰り返しに苦しむ大崎は格好の餌食となりました。

横浜の先制点は左ウイングの遠藤渓太が抜け出し、大崎は首を上げた状態で追いかけるのを途中であきらめざるを得なくなります。遠藤のパスを受けたマルコス・ジュニオールは、ゴールにパスを送るようにボールを押し込みました。

2点目も同じサイドから生まれます。上がってきたティーラトン・ブンマタンがファーに入れたクロスを李忠成が難なく決めました。大崎は腕を伸ばしてつかんででもティーラトンをつかまえようとしましたがかないません。

大崎に代えて渡部博文を入れたのは残り10分となってから、それも最後の交代枠でした。もはや時すでに遅し、です。渡部に代わっても状況は改善することなく、またしても神戸は右サイドを突かれ、三好康児にとどめを刺されました。

李、三好を入れた横浜のアンジェ・ポステコグルー監督の采配が次々当たるのに対し、神戸の交代策ははまらず、橋本和に代えて小川慶治朗を右サイドハーフとして送り込んでからは西が左サイドバックにまわることになりました。ボランチでのプレー経験もある西ですが、いつもとは反対の景色を見ながらのプレーはどこか窮屈そうでした。それまでは相手陣内でのダビド・ビジャとの連携に活路を見いだせそうだっただけに、もったいないコンバートになりました。

結果、アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキを欠くなか、アウェイで現実的な策をとることなくとにもかくにも果敢に前に出ようとした神戸は、横浜が神戸につき合って中盤にぽっかりスペースができ、互いに相手ゴールへと行き来するオープンな展開になった後半の序盤に得点を奪うことができず、ウェリントンが後半アディショナルタイムに一矢報いるのが精一杯。あえなく返り討ちに合った格好で、この泥沼から抜け出す方法がわからないまま試合を終えることとなりました。

これで15位に落ちた神戸。前日にサンフレッチェ広島を下した17位のサガン鳥栖との勝ち点差はなくなり、J2降格圏にさらに近付いてしまいました。


神戸はフアン・マヌエル・リージョ監督との契約を解除し、吉田孝行新監督がチームを率いることとなったため、これまで前監督のもとで築き上げられた非日常の空間がリセットされてしまいました。加えてリズムを変えられるアンドレス・イニエスタが不在だったことも大きく影響して、体制の変化は色濃くピッチ上に反映されました。

とりわけ前半はボールをきっちりつないで独特のリズムを刻むのではなく、ウェリントンを生かすべく放り込みを多用。違った形をとったとしても、ダビド・ビジャが離脱中にもかかわらず最終ラインの裏を狙ったボールを入れるくらいでした。

対するホームの浦和は、エヴェルトンがときどき前線でプレッシャーをかけに出ていくものの、基本的には新体制の戦い方を様子見するように5-4-1のブロックを敷いて自陣に構えます。相手が大きなサイドチェンジをしても動ぜず、決して無理はしません。

幸いなことに大崎玲央が痛恨のミスを犯し、そのボールを拾った興梠慎三がダンクレーに倒されてPKを獲得。興梠みずから沈めて開始10分であっさり先制に成功します。

その後はコーナーキックのこぼれ球を武藤雄樹がシュートに結び付け、キム・スンギュにセーブされる場面がありましたが、流れの中でいい形はつくれず、戦い方を変えないまま時間は流れていきました。

エンドが変わると神戸がこれまでの記憶を手繰り寄せるようにつなぐ意識を強めていきます。西大伍がハーフスペースにポジションをとることが多くなり、そこから二度ほどチャンスをつくりました。ルーカス・ポドルスキも西の近くでボールを受けようとします。また逆サイドでは成長著しい古橋亨梧が個の力で突破を試みます。

ただ、やはり指揮官が変わったことによって神戸のよさは削がれたままとなり、あと一歩のところで得点が奪えません。ゴールに立ちはだかる西川周作のファインセーブの連発もありました。

浦和は防戦一方となりながらも引き続きプレースタイルを変えないで我慢強く守り続けます。ボールを奪った際、カウンターを要求するサポーターの声がそこかしこから上がってスタジアムが騒がしくなっても、とどめを刺す逆襲は繰り出しきれませんでした。

それでも逃げ切ったホームチームはリーグ戦での本拠初勝利を挙げます。アジア王者の風格を感じさせる、とまではいかなかったものの、とりあえず最低限の結果を残すことができました。

逆に90分で浦和の倍以上の12本のシュートを放った神戸は、勝ち点1さえとることができずに終わりました。主力の戦列復帰に可能性をかけるにしても、選手交代がほとんど奏功しなかった事実を踏まえると、新たな船出は目的とすべき行き先が見えない状態に陥ったかのようです。


3点を奪った前半の東京の充実ぶりは申し分ないものでした。内容でもスコアの上でも鹿島を圧倒。鹿島はどことなくリズムが悪く、レオ・シルバの憎らしいほどの意表をついたパスも奏功せず、ミスをしてタッチラインにボールを数回出してしまった小田逸稀は、前半アディショナルタイムに交代となりました。

ホームの東京は相手を待ち構えることなく、序盤から前へ前へと積極的な姿勢、球際の激しさを見せます。高萩洋次郎がゴールラインを割りそうなボールを引き取ったことで永井謙佑の先制点が生まれ、サイドハーフというよりトップ下に近いポジションをとることの多かった久保建英は自陣から一見なにげなく見える浮き球のボールを前方に繰り出し、ディエゴ・オリヴェイラの2ゴールに結び付けました。

余裕の持てるリードをして迎えた後半、鹿島が攻勢に出てくることは想像できたはずながら、東京は試合がまだ0対0であるかのような戦いをしてしまいました。必死になって1点を取りに行こうとして、それが裏目に出ます。

対する鹿島は安部裕葵が入ったことで、左サイドが活性化。安部、そして後方の安西幸輝のコンビと久保、室屋成がマッチアップする形となり、このサイドでは鹿島がやや優位に立ちます。

さらに前半は消えていた伊藤翔も同じサイドに流れて援護にまわり、東京のゴール付近では3対2の局面をつくって、安西がななめに走ってペナルティエリアに侵入するなどして攪乱します。

追いかける立場にありながらも冷静にプレーを続けた鹿島は、後半10分にレオ・シルバのすばらしいミドルシュートが決まり、俄然勢いが出ます。鹿島サポーターは一丸となって声量を上げ、すぐ前にいる東京の守備陣にプレッシャーをかけ続けます。

ホームスタジアムでありながらその空気に東京の選手はのまれかけました。中途半端なカウンターでフィニッシュまで到達せず、ハットトリックの可能性のあったディエゴ・オリヴェイラの馬力を生かした攻めも不発。直後の鹿島の逆襲のスタート時に即時奪回する動きはほとんどなく、全体が自陣の低い位置に下がっており、ときには最終ラインが6枚になるという状態でした。

それでも林彰洋が最後の砦となってファインセーブを披露し、ときには時間を稼ぐプレーをすることでチームを落ち着かせるなどしてそれ以上の失点は防ぎました。2点目を奪われていたら、試合の流れは完全に鹿島に移ったことでしょう。

後半はゴールを予感させるシュート自体がほとんどなかった東京ですが、前半のリードによって無敗を継続しました。次節は勝ち点で並び、得失点のわずかな差で首位に立つサンフレッチェ広島とのアウェイゲームを戦います。


昨シーズンのこの大会では試合の入りが悪く、セレッソ大阪に敗れた川崎は今回、決定機こそ決して多くはなかったものの見違えるほどの充実ぶりを披露しました。

立ち上がりはミドルゾーンでゆっくりとパス交換を続けていましたが、少しずつギアを上げて浦和陣内に攻め込みます。中村憲剛を中心に中盤の5人は自分のポジションにとらわれることなく流動的に動き、なおかつそれによる渋滞や混乱はありません。右サイドをスタートポジションにした小林悠と新加入のレアンドロ・ダミアンの関係性も良好でした。

またボールを失ったあとの切り替えもすばやく、2、3人が猛然とボールホルダーに襲いかかることでリーグ王者が試合のペースを握ります。こうして5-3-2のぶれない守りで構える浦和との我慢比べが続きました。

前半、川崎の中でとりわけ光っていたのが昨シーズンのMVP、家長昭博です。当たり負けしない強さ、ボールキープ時の安定感があり、味方は安心してボールを預けられました。

得点は後半7分、レアンドロ・ダミアンのボックス内での鮮やかなシュートによってもたらされます。早くも結果を出せた新参者は喜びを爆発させ、両手で髭をつくるパフォーマンスを披露したあと、小林と『ドラゴンボール』のフュージョンをやってみせました。

背番号9はゴールのみならず守備での貢献も目立ちました。大きなストライドを生かしたスプリントでファーストディフェンダーとしての役割を果たしており、これまでその役目を先頭切ってやっていた中村らがそれに続く形ができています。相手選手とフィジカルコンタクトがあった際のリアクションの大きさがやや気になるくらいで、それ以外はチームへのフィット感を含めて頼もしさを感じました。

試合は残り20分になるまで鬼木達監督が動かなかったのに対し、浦和のオズワルト・オリヴェイラ監督はハーフタイムで新加入のエヴェルトンと杉本健勇を下げるなど早めに選手交代に踏み切りました。勝ちに執着するというよりはリーグ開幕前の観客を入れてのゲームをこなすという位置づけが色濃く見られました。

5人まで交代できるレギュレーションも影響し、終盤は途中投入の選手が自身のアピールに熱心になる代表チームの親善試合のような空気になりました。浦和が最後にパワープレー気味にボールを放り込みましたが、結局それ以上スコアが動くことはありませんでした。

1対0で終えた川崎は初めてシャーレではなくカップを獲得することができました。テレビ放送の都合上、準優勝チーム、審判団より先に表彰された選手たちは、ビッグイヤーを模したような銀色のカップを前にして笑みがこぼれました。

準備万端。そう思わせる王者の戦いぶりでした。


連敗中の神戸を率いることとなった林健太郎暫定監督は、4-3-3ではなく浦和に合わせるような形で5-3-2のシステムを採用。最終ライン5枚でディフェンシブサードのレーンを埋めて壁をつくり、中盤はアンカーを置く3枚の形を維持。前線はウェリントン、長沢駿とフィジカルにすぐれた選手を配しました。

しかしこの形が機能したとは言いがたい結果となりました。まず前半23分、浦和サポーターの煽る声に呼応したかのように青木拓矢にミドルを叩き込まれ、前半42分には柏木陽介のやさしいラストパスに泥臭く飛び込んだ興梠慎三に追加点を奪われます。

ここまではともかく、いただけなかったのは3失点目でした。右ウイングバックを務めた高橋峻希が自陣ペナルティエリア内で中途半端なパスを出してしまい、それを武藤雄樹に奪われてループシュートを決められたのです。ボックスの中は神戸の方が数的優位に立っていて、パスコースが確保されていたにもかかわらず、痛恨のミスでとどめを刺されました。

林暫定監督は直後に長沢に代えて古橋亨梧を投入して、4バックに戻しました。それでも守備の修正は効かず、後半31分に長澤和輝が柏木陽介のクロスに合わせて浦和のリードはさらに広がりました。

守備が崩壊した神戸は、攻撃にも迫力がありません。ウイングバックを置く形をとったためか重心が低く、浦和の守備時における安定した5-4-1の形を攻略する糸口をなかなか見つけられません。相手コーナーキックの際に2枚をハーフウェイライン付近に攻め残すなど、攻撃しようとする意思は見せていましたが、それが形になることはありませんでした。

ビルドアップのパスは最終ラインの選手が浦和陣内に入っても相手の4枚の中盤の前で回すばかりで、ときどきサイドに展開して前進するものの、パスサッカーに固執しているためか、そこから2トップの高さを生かそうとはほとんどしませんでした。それゆえ途中で長沢を下げて、ルーカス・ポドルスキをトップ下に据えたのでしょう。

アンドレス・イニエスタが負傷していなければ任されたであろうポジションについたポドルスキは、視野の広さを見せて大きなサイドチェンジなどを繰り出しはしましたが、シュートに直結するラストパスや左足を鋭く振り抜く強烈なシュートは出ませんでした。トップ下で攻撃により専念できるようになってもそれは変わりません。

結局、90分間で神戸が放ったシュートはわずかに4本。リードを広げながらもフリーキックのチャンスですばやく前線に走り、クイックリスタートをしなかった味方に怒りをあらわにする柏木のような存在はおらず、終盤に槙野智章が持ち上がって決定的なシュートを放つ機会が訪れるほど、浦和の守備陣にとってはイージーな完封ゲームになりました。

果たしてこの危機的状況を、大きな驚きをもって迎えられたフアン・マヌエル・リージョ新監督はどのようにして立て直すのでしょうか。


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