22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

カテゴリ:サッカー > 観戦

120分戦ってもスコアはまったく動きませんでした。しかし、カップファイナルならではの緊張感の高さを保った一戦でした。

川崎にとっては我慢を強いられるゲームでした。特に前半は柏に押し込まれ、川崎はハーフタイム前の瀬古樹のミドル1本しかシュートを打てずに終わります。

チョン・ソンリョンのゴールキックをはじめ、ロングボールの多くを柏にキープされました。
またビルドアップ時も細谷真大と山田康太が、両センターバックに強くプレッシャーをかけてくるため前進が難しく、中盤から前の選手が効果的にボールに触れる機会が増えません。

押し込まれるならば跳ね返す攻撃を仕掛けたいのですが、単独でもカウンターを完結させられるマルシーニョはベンチにもいませんでした。

ただ、公式戦で完封勝ちを続けるチームは、継続して育まれた自信を持って守ります。

後半になると、橘田健人を筆頭に個人の打開で柏陣内に入っていきました。再開早々には幸先よくゴール前でフリーキックを得ますが、脇坂泰斗のシュートは枠を外れます。

枠内シュートは途中投入の遠野大弥によるものが初めてでした。川崎はたびたびポケット近辺まで進みますが、肝心のフィニッシュまで持ち込めません。

逆に柏には再三センターバックの背後を突かれ、ピンチを招きます。マテウス・サヴィオと細谷による攻めは脅威でした。ただ、シュートやその手前のボールコントロールが完璧ではないために事なきを得ます。

後半と同じエンドで再開した延長前半には最大の危機を迎えるも、細谷のシュートはチョン・ソンリョンが体を張って防ぎました。

この延長前半は家長昭博を中盤に下げて、遠野を右ウイングにしますが、大きな変化を生むことがなく得点も奪えません。

同後半にはそれを元に戻し、最後の交代として小林悠に代わってバフェティンビ・ゴミスがトップに入ります。

ラスト15分は山根視来のクロスからチャンスをつくり、ゴミスがそれに合わせます。枠をとらえたヘッドは松本健太に阻まれました。こぼれ球には家長が詰めるも実りません。

延長でも決着がつかないため、どちらに転んでもおかしくないPK戦で優勝チームを決めることとなります。先攻は川崎です。

2人目の瀬川祐輔のPKが止められましたが、やり直しとなり成功するなど、一喜一憂の激しいPK戦となります。

柏の4人目、仙頭啓矢のキックが枠を叩き、5人目のゴミスが決めれば優勝となるはずが松本に止められ、続く登里享平も止められますが、直後の片山瑛一もボールがバーを叩きました。

このままもつれにもつれ、10人目はチョン・ソンリョンが担当。厳しいコースに蹴り込みます。柏は同様に松本がキッカーを務めました。

チョン・ソンリョンはまだ一度もPKを止めていませんでしたが、このシュートは完璧にストップ。長い戦いに終止符を打ちました。

前回の優勝はコロナ禍の特別なレギュレーションで、参加チームも限定された上に準決勝からの参加でした。今回はシーズンを通して勝ち抜いての制覇です。

この大会を取れなければ、2シーズン連続の無冠となり、来秋からのAFCチャンピオンズリーグエリートへの出場も叶いません。

鬼木達監督が就任後、2021年シーズンまでは常に何かしらのタイトルを取っていただけに、空白期間を続けるわけにはいきませんでした。

こうした強烈なプレッシャーから解放された選手達の中には涙する者もいました。今季からのキャプテン、橘田健人もその一人です。この日も持ち前の激しさで相手ボールを狩るべく走り回りました。

公式戦はあと1試合、アウェイの蔚山現代戦が残っていますが、すでにAFCチャンピオンズリーグのベスト16入りは決めていますので、負傷者、退場者の続出した厳しいシーズンをいい形で締めくくれたと言っていいでしょう。



是が非でも取りたいタイトルのために力を尽くした川崎が、4-2で勝利して決勝進出を果たしました。

試合の入りは順調でした。ボールの循環がスムーズで、早々にコーナーキックを獲得。脇坂泰斗のキックに山村和也が合わせて先制します。

幸先のいいスタートを切れたことで、しばらくは余裕を持ってゲームを進められました。中央から攻める形もできていて、脇坂のスルーパスに反応したマルシーニョが村上昌謙に倒されてPKを得ます。

ところがレアンドロ・ダミアンが村上にPKを阻まれると、ムードが一変しました。福岡が活気を取り戻したのです。

ピッチの幅を使った攻めを見せていた福岡は、登里享平のスローインのボールを奪って流れるような崩しを披露。最後は金森健志のシュートで同点に追い付きます。

公式戦では負け試合の多い今シーズンだけに、会場となったホームスタジアムに淀んだ空気が漂い始めました。

ハーフタイムでの切り替えがうまくいかずに後半の入りも悪く、福岡ペースで始まりました。ここで逆転を許していたら、川崎は立ち直れなかったでしょう。

この悪い流れを引き戻したのが家長昭博でした。ここ2試合は温存ではない理由で欠場した模様ですが、大事なこの一戦には間に合った背番号41。ボールをキープし、保持する時間を増やしてチームを安定させました。

落ち着いてきたところで橘田健人のミドルが炸裂。奈良竜樹に当たって入ったとはいえ、先日の蔚山現代戦に続く豪快な一撃でした。再びリードできたことで空気も変わります。

70分、福岡のコーナーキックからの攻撃を守り切るとチョン・ソンリョンがロングキック。中央に正確に蹴り出されたボールにマルシーニョが追い付き、飛び出しが中途半端になった村上の前でループシュートを放ちます。ボールは転々としながらゴールに入りました。

試合を決定づける3点目が入り、ベンチメンバーを中心に得点したマルシーニョに駆け寄る一方、貴重なアシストをしたチョン・ソンリョンを讃えに行くメンバーもいました。

とどめは脇坂のコーナーキックに合わせたレアンドロ・ダミアンの叩き付けるヘディングでした。苦しいシーズンを送っていて、PK失敗もあっただけに喜びを爆発させ、思わずユニフォームを脱いでしまいました。

高井幸大を入れて3-5-2に変え、逃げ切りをするはずが終了間際に失点したのは今後への反省点ですが、ともあれ勝ち上がりこそが最も大事な試合を90分で勝ち切りました。

決勝は2ヵ月後の12月9日。先に進出を決めた柏レイソルとの対戦です。










冷たい雨の降る中でホーム初勝利を目指し、後半になってから奮起したものの、前半の不出来が尾を引いて敗れてしまいました。

この日はセンターバックの一角に高井幸大を、右ウイングには永長鷹虎を起用。家長昭博をトップに据えた4-3-3でスタートしました。

川崎はビルドアップによる丁寧な組み立ては控えめにすることで、ショートカウンターを食らっての不用意な失点を防ごうとします。

しかし9分、相手陣内で永長のパスを米本拓司に引っ掛けられると名古屋がカウンターを発動。一気に攻められキャスパー・ユンカーに先制されます。

取られたら取り返す勢いが欲しいところですが、前半の川崎はまたしてもボックスに踏み込む回数が少なく、5-2-3で構える名古屋守備陣を崩せません。

クロスを上げては簡単に跳ね返され、ミドルどころかシュート自体も少ないまま45分が経過します。

途中、宮代大聖がファウルを受けた後、右で苦労していた永長を左、家長を右に変え、右サイドでの山根視来、脇坂泰斗との連携に期待する動きもありましたが変わりません。

残り1分のアディショナルタイムで小塚和季がマテウス・カストロにファウルを犯すと、マテウス自らフリーキックを叩き込み、点差は2に広がります。せめて1点ビハインドでロッカールームに戻りたかった場面だっただけに痛恨の失点です。

後半も形勢が変わらない中、鬼木達監督が60分にもならないタイミングで大胆な4枚替えを行おうとします。それを知ってか、ピッチにいるプレーヤーが鋭い攻めで中央を攻略。宮代が決めて1点差としました。

追い付く可能性が出たため、4人同時交代はひとまず取り止めになりますが、同じメンバーを2人ずつ段階的に呼んで交代が行われます。

74分に佐々木旭とジョアン・シミッチが入った際には3バックにシステムを変更。おそらく4枚替えした際には実行したであろう変化をピッチに施します。

川崎は得点を奪うために果敢に攻め、宮代、シミッチが際どいシュートを放つも、ミッチェル・ランゲラックに阻まれました。

終盤は高井が前線に上がっていき、コーナーキックの機会もあったのですが、守備固めを進める名古屋相手に同点にさえ追い付くことなくタイムアップとなりました。

今シーズンの出来を考えると、無得点に終わらなかった点は辛うじてポジティブにとらえられるとはいえ、様々な梃入れが勝ち点に結び付かない点は無視できません。難題を抱えたまま次節もホームで戦います。


残りはトータルで約1時間。早くも交代カードを切らざるを得ないシチュエーションになりました。そこで複数のポジションをこなせて、なおかつ運動量が豊富な橘田健人をピッチに残したのには大きな意味がありました。

鬼木達監督は登里享平を下げて、緑色のユニフォームを着た丹野研太を送り込みます。橘田は左サイドバックを任されました。

ハーフタイム明けにはこれまた苦渋の決断と思われる交代が行われます。攻撃のキーになる脇坂泰斗に代わって車屋紳太郎が入り、橘田は再び中盤にポジションを戻しました。

しかし、橘田が前に出やすい位置になったことで、61分にはゴールライン付近で森重真人からボールを奪い、マルシーニョのゴールにつなげることができました。

こうして攻め手の見つかりにくい苦しい状況で活路を見出したのです。

29分にチョン・ソンリョンがアダイウトンへのファウルで一発退場となり、この日も厳しいゲームになりました。ただ、その時点ですでに脇坂が鮮やかなミドルを叩き込んで先制していたように、90分を通して常に先手をとれていたため、数的不利にも耐えられました。

とはいえ、10人になってからハーフタイムまではいつもの戦い方を捨てざるを得なくなったために修正が難しく、東京に押し込まれてしまいます。相手には裏抜けを試みる選手も多く、マルシーニョが最終ラインに吸収されそうな位置まで下がる事態に陥りました。それでも防戦一方ながら前半はゼロに抑えられました。

後半、メンバーを代えて守備重視にシフトし、戦い方が整理されたものの、立ち上がりと勝ち越し後にアダイウトンにゴールを許してしまいます。2失点目はダイナミックに揺さぶられた末のものでした。

アウェイチームが得点を奪う作業は困難を極めましたが、再び追い付かれた直後に車屋の鋭いクロスがオウンゴールを誘発。三度リードを奪います。

その後、80分にマルシーニョを下げて山村和也を入れ、ジェジエウと谷口彰悟の間に立たせた5バックに変更します。4点目を狙うより、確実な逃げ切りを目指し、東京陣内深くに進んだ際には家長と知念慶を中心にボールキープをして時計を進めました。

川崎は全員が最後まで懸命にピッチのあらゆるところで体を張り、多摩川クラシコを制してディフェンディングチャンピオンの意地を見せました。

しかし、タイムアップ後、別会場で勝利した横浜F・マリノスの優勝が決まって、鬼木体制では初の無冠に終わりました。

ジェジエウが7月半ばまで戦列に戻れないハンデを背負いながらの今シーズン。すべての公式戦が終わって振り返ると、ここ数シーズンとは違って新戦力の突き上げ、底上げが乏しかったことが結果的にF・マリノスとの勝ち点差、得失点差につながったと言えるかもしれません。

今までの蓄積を生かして勝負強さを随所に見せたものの、連戦になると勝ち点を伸ばせませんでした。過密日程を乗り切るだけの戦力が揃っていたとは言えないでしょう。

また、新型コロナウイルスの影響は例年以上に大きく、7月下旬はフィールドプレーヤーの離脱が続出して試合開催が危ぶまれるほどでした。

こうした中、昨シーズン終盤はベンチ外も珍しくなかったジョアン・シミッチの奮闘は、チームを大いに助けてくれました。チームトップタイの12ゴールを記録したベテランの家長の働きは言うまでもないでしょう。

とにもかくにも今シーズンの結果を真摯に受け止め、来シーズンの王座奪還、タイトル獲得に向けて前進するほかありません。


3年前のチェルシー戦よりもはるかに落ち着かない空気に満ち溢れていた国立競技場。その64,922人の大観衆を前に川崎の選手は最後まで戦う姿勢を貫きました。

川崎にとってこの試合最大のトピックは、ジェジエウの実戦復帰でしょう。45分間のプレータイムの中で持ち味のスピードとパワーを存分に発揮しました。頼れるセンターバックの帰還は、残りのシーズンに向けての大いなる好材料です。

パリと川崎の立場は当然異なり、シーズン前でありなおかつ指揮官が変わって新体制となった前者と、シーズン中であり、先週末の試合が中止になって比較的フレッシュな状態の後者という違いがまずあります。

それゆえ代表組不在ながら、現状のベストメンバーで臨んだ川崎の方が機動力では優位に立てました。早速、立ち上がりから家長昭博、マルシーニョ、そしてレアンドロ・ダミアンがハイプレスを見せます。

とはいえ主導権自体は個の力で上回るパリに握られてしまいます。細かい局面局面で後手を踏む格好となり、たとえばトップ下のリオネル・メッシにはアンカーの橘田健人が翻弄させられました。

そうした劣勢の中でも川崎は選手達がおなじみのプレーを随所に披露します。チャナティップ・ソングラシンは低い姿勢のドリブルでボールをキープし、レアンドロ・ダミアンはジャンルイジ・ドンナルンマのポジションを見てロングシュートを放ちました。

チームとしては相手3バックの横、アクラフ・ハキミの裏のスペースを活用。マルシーニョを走らせる攻撃に活路を見出そうとします。残念ながらこの形で枠をとらえた際どいフィニッシュには至りません。

決定力ではパリが勝り、メッシに右足での先制弾を許します。シュートは登里享平に当たってコースが変わったため、ネイマールやキリアン・エンバペ相手に再三好セーブを見せていたチョン・ソンリョンも及びませんでした。

2失点目もメッシが司令塔となって生まれます。いずれのゴールもウイングバックが絡んでいたため、パリとしては新しいやり方が一つの形になったと言えます。

後半は両チームともメンバーが大幅に変わり、パリは60分過ぎまでに主力がごっそり抜けました。ただ、ベンチメンバー主体となったことで機動力は上がり、川崎のボール保持時は人につく守備をしていました。

川崎は84分にコーナーキックの流れで瀬古樹のアシストから山村和也が1点を返し、残り時間も手を緩めることなく同点に追い付くべくプレーを続けました。

加えて最後は高井幸大、永長鷹虎もピッチに立ち、このゲームを経験することができました。スコアの上では負けましたが、真剣勝負ではないとはいえ川崎が得るものは多かったはずです。


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