22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

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「高橋陽一初の自叙伝」としてrepicbookから発行されました。「初回シリーズ」第1巻の表紙に使われた大空翼の絵が同書の表紙にも使われていますが、「通巻100巻」を突破した単行本を出している集英社は「協力」の立場にとどまっています。

この本では著者の幼少期の話からスタートして、マンガ家を志し『キャプテン翼』の連載を始めるまでの日々が克明に描かれています。プロのマンガ家になるべくとにかくひたすらに、まっすぐに突き進む姿はピッチで輝く翼のようです。

子どもにも読めるようにほとんどの漢字にはふりがながついていて、読み進めていてわからなくならないように同じ内容を繰り返す部分もあり、さらには読者に語りかける箇所も随所に見られます。

こうした配慮は4度目となるアニメ版『キャプテン翼』が春から新たにスタートしたので、そこから興味を持った読者でも楽しめるようにという考えからだと想像します。発行時期からして子どもたちの読書感想文に使ってもらいたいという意図もあるかもしれません。

必然的に『キャプテン翼』に関するエピソードは新作アニメの初回放送が終わっている小学生編の初期の話が中心となります。「『週刊少年ジャンプ』の連載を勝ち取るには3話分のネームをつくり、編集部の連載会議でOKをもらわなければならない」ということで、この3話作成にあたっての裏話などが詳しく記されています。

ほかには当時のオフサイドのルールを理解するのに大変役立った、武蔵FCによるオフサイド・トラップを作品に導入した点についても触れられています。

ただ、『つくり方』とタイトルでうたっている割に、作品に関する具体的なエピソードは決して多くありません。15年前に集英社から出た『キャプテン翼3109日全記録』での「スペシャル対談 乙武洋匡×高橋陽一」で出てきたような話を多く期待していると肩透かしを食らいます。

文庫版最終巻のあとがきでも触れられている「ワールドユース編」の「ショックだった打ち切り」の話は出てくるものの、「初回シリーズ」の中学生編や第1回フランス国際Jr.ユース大会、そして「ROAD TO 2002」から続く翼がバルセロナに移籍してからの話はあまり載っていません。

なので欲を言えば、『つくり方』を知る上でストーリーやキャラクターの裏話をもっと掲載してもらえれば、往年のファンがより深く楽しめたはずです。

たとえば最初は映画版のオリジナルキャラとして出てきたカール・ハインツ・シュナイダーやカルロス・サンターナが原作にも登場した流れとか、立花兄弟のスカイラブハリケーンや、数年前に企画で中村憲剛と大久保嘉人が実際に挑戦した肖俊光の反動蹴速迅砲といった独創的な必殺技が生まれた過程、あるいは中学生編の終盤に中沢早苗をめぐって神田幸志と対決した経緯などを詳しく知ることができれば、『つくり方』がいろいろと垣間見えて満足の一冊となったでしょう。

とはいえ「多くの学びがあった海外取材」でブラジルとドイツに行ったことが印象的だったと振り返っていることで、これまで翼を擁する日本が世界大会を制するために決勝で立ちはだかったのが両国だったこと、「ライジングサン」のマドリッド五輪予選グループ、ブラジル対ドイツが第42話から第58話までがっつりと描かれたことは当然の流れだったのだとわかります。もちろん両国とも現実の世界でもサッカー大国であることは間違いないのですが。

全編を通して著者のマンガに対するまっすぐな姿勢が貫かれていて、また人柄のよさ、温厚さも感じられ、読後感は非常にさわやかです。現在『グランドジャンプ』では「ライジングサン」が休載中で、単行本の第10巻も第9巻の巻末予告によれば「2019年初春発売予定!!」ですが、10月以降もぶれないテイストで物語が続いていくことを予感させます。


最近出たばかりのマルティ・パラルナウ著、羽中田昌+羽中田まゆみ訳の本です。位置づけとしては、ペップ・グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンとの監督契約を結ぶまでの半生を記した『知られざるペップ・グアルディオラ サッカーを進化させた若き名将の肖像』(グイレム・バラゲ著、田邊雅之監訳、フロムワン、2014)の続きのようなものとなります。

ただし両者には決定的な違いがあります。それは『シーズン中は、チーム内で見たことは一切口外しないこと』を条件に「自由にチームに出入りできる」ことでした。すなわち、2013―2014シーズンにバイエルンの完全密着取材を許されたのちに書かれた一冊なのです。そして時には前職のバルセロナ時代のエピソードを絡めつつ進行していきます。

詳細について触れるのは極力控えますが、戦うためにサッカーにひたすら没頭するグアルディオラ監督が何を考え、何を意図しているのかを見聞きしつつ、さらにバイエルンの選手・関係者への取材を踏まえ、ドイツ王者がトレーニングや試合を通じてどのような手ごたえを得て、進化を遂げているのかを知ることができるのです。

またおそらく密着できたことによって、一般的に言われるペップの志向するサッカーについての誤解や間違いに気づかされることもありました。これは大変意義のある話です。

そして、特に興味深かったのは、大敗したチャンピオンズリーグ(CL)準決勝のレアル・マドリー戦のくだりでしょうか。この時チームで起こっていたできごとを知るに、敗因を納得することができました。

こうした事実を知るにつれ、今シーズンのペップとバイエルンについても同じような作品を読んでみたくなります。とりわけ逆境に立たされたCL準々決勝のポルト戦、そして先日行われたばかりの同準決勝バルセロナ戦についてだけでも知りたくなって仕方ありません。
さらに欲を言えば、ペップの目指す究極のサッカーとはどんなものなのかというのも聞いてみたいものです。

429ページとなかなかに分厚い本ですが、一気に読み進められる一冊です。

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