22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

サッカー

花道 ――天皇杯決勝 ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ

新しい国立競技場での決戦は、クラブ初のタイトルがかかっているとはいえ勝者のメンタリティを備えた選手を擁する神戸と、クラブとして20ものタイトルを獲得している鹿島の激突となりました。

序盤は鹿島が押し込んでいたものの、それを凌ぐと神戸が主導権を握ります。鹿島のトップの選手は神戸の最終ラインと飯倉大樹のボール回しに圧力をかけないため、ビルドアップがスムーズに進んでしまいます。

そこから左ハーフスペースを主戦場にするアンドレス・イニエスタに預けてスイッチが入る格好になっており、背番号8のボールキープ力、展開力の高さで鹿島を大きく上回ります。クォン・スンテの立ち位置を見てロングシュートを放ったりもしました。

最初は右ウイングに構えていたルーカス・ポドルスキも次第に左にポジションを変えます。そこに酒井高徳が絡んでの攻撃が神戸にとっては主体となっていました。

先制点は鹿島ゴール前で酒井とポドルスキがともにボールに迫り、ポドルスキが蹴り込んだクロスをクォン・スンテが弾くも犬飼智也に当たったことで生まれました。

流れをつかんだ神戸は左偏重になりすぎないように右からの攻撃にも重きを置き、時折イニエスタが山口蛍とポジションを変えるなどしており、追加点は西大伍のクロスに藤本憲明が合わせて決まります。

試合はここから鹿島がどう逆襲を仕掛けるかが注目され、大岩剛監督は後半開始から動きました。土居聖真をハーフタイム明けに、山本脩斗を後半8分に送り込みます。

ただ、この日の鹿島は選手のコンディション不良が一部で伝えられており、実際、プレーの精彩を欠いていました。シンプルなロングパス、サイドチェンジがミスになり、タッチラインを割るシーンが目立ちました。

そうなると大きな展開を求めるのではなく中央を打開しにかかりますが、5-4-1で守る神戸の守備を崩すことができずにつかまってしまいます。イニエスタの相手のコースを消す動きも巧みでしたが、山口、西といった日本代表クラスの選手が汗かき役となって奮闘しました。

終盤に入りようやくサイドを大きく使った攻撃で神戸陣内深い位置まで入ってクロスを入れるところまでできるようになりましたが、フィニッシュワークに迫力を欠き、決定機が生まれません。鹿島らしいしぶとさ、憎らしさが表に出てこないまま時間が過ぎていきます。

試合が終わりに近づくと、勝利を確信したトルステン・フィンク監督はイニエスタを下げ、さらにポドルスキを下げて代わりに現役最後の試合となるダビド・ビジャを投入します。

後半のシュート数が2本にとどまった神戸でしたが逃げ切りに成功。天皇杯のタイトルを獲得するとともにAFCチャンピオンズリーグ出場権をも得ることとなりました。神戸はタイトルを取ったことでクラブとして見える景色が変わっていくでしょうし、野望に向かって大きな一歩を踏み出すことができました。


兆候 ――J1リーグ 北海道コンサドーレ札幌対川崎フロンターレ

前節、相手のプレッシャーに怯まされた経験を踏まえ、立ち上がりの川崎はいつもとはやや趣の違ったサッカーを披露しました。

通常はボールを握り、出し入れを繰り返して相手を動かし、穴を探る方法をとりますが、今シーズンはそれでは攻略できないチームも多々出てきました。そこで3位浮上のためには最低限勝たなければならないこともあり、テンポを上げて縦方向にすばやくボールを動かして前進しました。

ゴールに向かう強い姿勢が実り、開始1分足らずで右サイドを崩して小林悠が先制点を奪い、前半13分にはク・ソンユンの裏をかいて脇坂泰斗がフリーキックを直接沈めました。

その勢いには新たな戦い方を表現しているようにも見えましたが、急激にやり方を変えた形なので長続きはしません。

次第にホームの札幌がポゼッションを高めると、川崎はそれを受ける形となり、逆襲に転じる際もカウンターを除いてボール回しの速度、方向は普段のそれに変わりました。よりアグレッシブなスタイルは90分続けられないということかもしれません。

それでも1点差で迎えた後半に小林、大島僚太、家長昭博のうち誰かが決定機をものにしていれば、試合を楽に進められたはずです。

結局、チョン・ソンリョン、谷口彰悟を中心とした守備陣の奮闘もあって後半は失点することなく、川崎が最終節を逃げ切って勝利しました。残念ながら3位の鹿島アントラーズが勝ったため、4位でのフィニッシュとなりました。

AFCチャンピオンズリーグ出場権は、天皇杯で鹿島が優勝した場合のみ得られることとなり、わずかながら可能性を残す形となります。

優勝した横浜F・マリノスに力の差を見せつけられた中で、覇権奪回のためには序盤に見せた戦い方を継続的に行うことが必要になりそうです。チームとしては若手の成長といった収穫もあったシーズンになりましたが、来シーズン以降はチーム編成をはじめ、全体としての変化が求められます。


懸案 ――J1リーグ 川崎フロンターレ対横浜F・マリノス

ホーム最終戦であり、3連覇の可能性を打ち砕いたライバルを直接叩ける機会を得た川崎でしたが、最終ラインを高く保ち、激しく圧力をかける横浜の前に完敗を喫しました。

横浜は守から攻、攻から守の両方のトランジションが非常に速く、とりわけ前線のマルコス・ジュニオール、マテウス、エリキといった外国籍選手と仲川輝人がディフェンディングチャンピオンを執拗に襲います。

序盤の圧力は相当に強かったため、その勢いに飲まれて前半8分に仲川の先制ゴールを許しました。

川崎がいつものように余裕をもってボールを動かせるまでにはキックオフから15分ほどかかり、そこから少しずつ自分たちのペースを取り戻していきます。

ただ、大島僚太のファーストシュートをはじめ、枠をとらえるシュートはほとんどなく、朴一圭を慌てさせるほどの決定機はありません。相手の高いDFラインの背後を狙った攻撃も奏功しませんでした。

このまま前半を折り返しての後半、またしても立ち上がりに失点してしまいます。中央にポジションをとった松原健のスルーパスで一気に局面を打開され、エリキに決められました。

この2失点に共通するのは、川崎がシーズンを通して悩みの種となっていた右サイドバックを突かれていた点です。この日は現段階での最適解と言える守田英正が務めましたが、先制された際は縦パスを受けたマテウスとの1対1のぶつかり合いで勝つことができず、パワーとスピードを生かした突破を許してラストパスを入れられ、2失点目は背後からスルーパスを受けに走るエリキを阻止できませんでした。

それ以外の場面ではチョン・ソンリョン、谷口彰悟も失点を防ぐ働きを見せたものの、結果的にさらに2点を奪われてしまいます。ゴール前での好プレーがなければ、屈辱的な大量失点で敗れていたかもしれません。

勝利を求めた鬼木達監督はこの日、早目の交代策をとりました。長谷川竜也でサイドを活性化させ、中央を攻略できずにサイドからのクロスが増えていたところにレアンドロ・ダミアンを送り込んで小林悠との2トップを形成。前線のターゲットを増やしました。

采配が実って長谷川のファーサイドへの浮き球のボールをレアンドロ・ダミアンが合わせて1点を返すことはできました。しかし、さらなるゴールは生まれません。

横浜戦の前には今シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場チームとの連戦にすべて勝って波に乗っていたはずの川崎でした。それでも優勝に向けて邁進する横浜には屈してしまいました。

3位の鹿島アントラーズが敗れたため、リーグ戦でのACL出場権獲得の可能性は残ったものの、鹿島が最終節で引き分け以上だった場合には勝利を収めても勝ち点で及ばないという状況に追い込まれました。

苦しかったシーズンの最後を勝利で飾る。他力が必要な最低限の目標達成のためには、それ以外に進む道はありません。


達磨 ――キリンチャレンジカップ 日本代表対ベネズエラ代表

4失点を食らった前半は、シュートを打たれる前に勝負がつくシーンばかりで無抵抗に近い形で終わりました。

ポジションにはついているものの準備がまるで整っていない状態で、室屋成がジェフェルソン・ソテルドにクロスを上げられ、サロモン・ロンドンに決められてあっさり先制を許したところから悪夢の45分は始まります。

2失点目は日本の選手は揃っていながら、中央に固まっていたため大外に立つベネズエラの選手がフリーになっており、そこが気になってしまったのか注意力が散漫になり、最終的には簡単に中を破られて失点しました。

ロンドンのハットトリックとなる3失点目は、中盤でボールをダイレクトでかつ広く動かされた時点で勝負ありでした。振り回された日本守備陣はなすすべなくゴールを許します。

その5分後にもソテルドに決められ、試合はほぼ決まってしまいました。

この試合に向かうにあたり森保一監督は、疲労を考慮して吉田麻也、南野拓実ら海外組の主力を使い続けることをやめ、来月に迫るE-1サッカー選手権を視野に入れたメンバー選考を行いました。

そしてコパ・アメリカで若手を支えて軸になった柴崎岳、中島翔哉、そして川島永嗣をスタメンで起用。うまく選手を融合させてこれからの戦いに備えるはずでした。

その目論見が崩されての大量失点。親善試合とはいえあらゆる意味での準備不足は否めません。

後半はメンバーを代え、陣形をコンパクトにしてスペースを消し、中島の守備の負担を減らすべくトップ下に配するなどいくつかの修正を施したことでいたずらに失点を重ねることはなくなりました。

選手もプレッシャーを激しくかけるようになり、余裕をもってペースを落とし、前半ほどの圧力をかけてこないベネズエラとは対照的なプレーが続きました。

それでも奪えたのは相手に当たってコースが変わって決まった山口蛍の1点のみ。左サイドに流れた永井謙佑の見事な判断によるアシストから生まれたものでした。

45分を通じて積極性は見せていたものの、ペナルティエリアにいい形で入れたシーンは少なく、入れたとしても最後のところの球際で負けてしまっていました。

メンバーに変化の乏しかった先日のキルギス戦は内容含めて新鮮さに欠ける試合でしたが、選手を入れ替えたこの日はさらに収穫の乏しい一戦となりました。前半から後半のような戦いができていれば、もっと得るものはあったはずです。

この試合を踏まえ、おそらく国内組で編成されるであろうE-1で、韓国との戦いが避けられない大会でどれほど立て直すことができるのか。指揮官の手腕が問われることとなります。


意義 ――MS&ADカップ 日本女子代表(なでしこジャパン)対南アフリカ女子代表

日本にとって厄介だったのが、前半は岩渕真奈をマンマーク気味に見ていたアンカーのマーメロ・マクハバヌと最前線でスピードを生かした攻撃を仕掛けるクレツィナー・クガトラナくらいであったことを考えると、果たして十分な結果を残せたのかどうかは大きな疑問として残ります。

リーグ戦が終わったばかりの選手が大半で、ホームでのフレンドリーマッチに多くを求めるのは酷かもしれません。それでも得点に対する貪欲さ、ビルドアップやディフェンスにおける集中に物足りなさがありました。

得点は対格差を生かしたセットプレーからの熊谷紗希の待望の代表初得点と菅澤優衣香が相手DFのタイミングを外す形で放ったゴールにとどまりました。

後半はルーズボールをかなりの確率で日本が拾えていた割に、そこからフィニッシュへのつくりが甘くなり、攻撃が途中で止まるシーンが多く見られました。

個では左サイドにスタートポジションを置かれても縦横無尽に動き、攻撃の活性化を図ろうとした長谷川唯や、ハーフタイム明けからの投入でその長谷川とのコンビネーションからチャンスを生み出した籾木結花のプレーが光っていました。ただ、そんな彼女たちでさえ消えている時間があり、南アフリカを圧倒したとは言えません。

相手にはシュートを後半の2本しか打たれていません。それは日本の守備が完璧だったから、ではなく両者の力量差によるものでした。2本のうち1本は土光真代のミスがきっかけです。これはクガトラナのシュートがポストを叩いたために失点を免れます。

力の差があるにもかかわらず、その差の大きさを披露しきれなかった点は課題として挙げられます。目標の高さを踏まえると、果たしてこのマッチメイクが適切だったのかということにまで考えが及んでしまいます。

12月には身近なライバルとのE-1サッカー選手権に臨み、おそらく来年3月にはどこかの国際大会にエントリーするであろうなでしこジャパン。チームの成長のためにはこうした場を生かすほかなさそうです。


ギャラリー
  • 曖昧 ――FUJI XEROX SUPER CUP 川崎フロンターレ対セレッソ大阪
  • 動揺 ――ルヴァンカップ決勝 セレッソ大阪対川崎フロンターレ