激闘の末、最終的に黄金のトロフィーを手に入れたものの、アルゼンチンは二度にわたって試合を振り出しに戻されました。一度目は2点差を終盤のわずか1分間のうちに、もう一度目は延長終了間際に。いずれもキリアン・エンバペのゴールでした。

序盤からクリーンな獰猛さを持って飛ばしたアルゼンチンは、前回王者を圧倒。予想以上にフランスが一方的に攻め立てられる展開でした。アルゼンチンはその勢いを殺さないうちに2点を奪ってみせます。

ここで大きな役割を果たしたのが、スタメン復帰したアンヘル・ディ・マリアでした。代表での最後の戦いに臨んだ背番号11は、左ウイングでプレーし、決定的な仕事をします。

対戦相手に応じて様々な形で戦ってきたアルゼンチンはこの日、ディ・マリアが左、リオネル・メッシが右をスタートポジションにしました。これが突破力を持ったウスマン・デンベレとエンバペの両ウイングを抑制する形となります。

しかし、ディ・マリアがベンチに下がるとチームの勢いも徐々に失われていきます。ディ・マリアの出場はおそらく当初から限定的だったのでしょうが、耐えるにはまだ30分程残っていました。

早めにDFを入れて5バックにして逃げ切る手もあったはずですが、リオネル・スカローニ監督はそうしませんでした。前半のうちにデンベレとオリビエ・ジルーが下がったため、守備固めをしなくとも2-0で終わらせられると思ったのかもしれません。

それを打ち破ったのがエンバペでした。しなやかな振りの右足で得点を重ね、同点に追い付いたのです。特に2点目はメッシが中盤でキングスレイ・コマンにボールを奪われたのをきっかけとするゴールで、アルゼンチンには大きなダメージを与えるものでした。

延長に入り、ラウタロ・マルティネスのシュートのこぼれをメッシが右足で押し込み、今度こそ間違いなくアルゼンチンの優勝かというシチュエーションでも、フランスの背番号10が襲い掛かりました。自らのプレーでハンドを誘発し、獲得したPKを沈めて、おなじみのゴールパフォーマンスを披露します。決勝では56年ぶり2人目のハットトリック達成です。

前回大会での対戦と同じようになった両者の打ち合いは、3-3で120分が終了。PK戦で決着をつけることとなりました。エミリアーノ・マルティネスの好セーブもあり、4人全員が成功したアルゼンチンが、ディエゴ・マラドーナを擁した1986年以来、通算3回目の世界制覇を成し遂げたのです。

前回優勝から20年後の2006年から始まったメッシのワールドカップを巡る旅は、5大会目にして大団円を迎えました。仲間達に囲まれて、高々とトロフィーを掲げる姿は神々しく、いつも以上に輝いて見えました。