本大会前までお試し程度にしか採用しておらず、ドイツ戦、コスタリカ戦では途中から用いた3-4-2-1を最初から使って臨んだ日本。果たしてスペイン相手に歴史的な逆転劇を演じてみせました。

付け焼き刃とはいえ幸いだったのは、指揮官がこの形での戦い方を熟知していたことかもしれません。

前半は耐える時間が長く、右ウイングバックの伊東純也はほとんど前に出られませんでした。前線も前田大然がセルヒオ・ブスケツのマークを捨てた際に行う単独プレスでは、ロドリとパウ・トーレスに簡単に剝がされてしまいます。

対するスペインはアルバロ・モラタを起用した利点を生かし、セサル・アスピリクエタがクロスを入れ、モラタが合わせて先制しました。

ただ、ドイツに比べるとボール保持を重視するチームゆえに、前半はそれ以外に再三ポケットを取られはしたものの決定的なチャンスはあまりつくらせませんでした。

懸念材料は3バック全員がイエローカードをもらってしまったことでした。数的不利に陥れば、得点の可能性は著しく下がります。

しかし、負ければカタールから去らなくてはならない日本は、後半頭に長友佑都、久保建英を下げて三笘薫、堂安律を送り込みます。この采配が吉と出ます。

48分、三笘、前田のハイプレスが呼び水となり、伊東も前に出てアレハンドロ・バルデに競り勝つと、こぼれ球を収めた堂安が豪快に同点弾を叩き込みました。

これでスペインは堂安の左足を警戒するようになり、2点目への伏線となります。

同点からわずか3分後、権田修一のロングキックが始まりでした。伊東がこれを収め、田中碧、堂安とつながり、堂安は右足でクロスを入れます。ファーに流れたボールを三笘が懸命に足を伸ばして折り返し、最後は田中が腿で合わせてゴールネットを揺さぶりました。

三笘のアシストの時点でボールがゴールラインを割っていたかどうかが検証対象になるも、VARを通してラインを完全には割っていなかったと判定され、得点が認められます。

残りは30分以上ありました。それでも日本は前半以上に辛抱強く守りました。3バックの左でワールドカップ初出場の谷口彰悟のプレーも普段通りの安定感があり、パス出しも正確でした。

他会場の結果次第では敗退するリスクもあったスペインは、57分にマルコ・アセンシオとフェラン・トーレス、68分にはジョルディ・アルバとアンス・ファティを投入。攻撃の活性化を図ります。

対する日本はコンディションが心配される冨安健洋、遠藤航を入れてまで守備の安定化を進めました。

終盤のスペインの攻撃には権田の好守、フェラン・トーレスが詰める中でのこぼれ球に対する吉田麻也の対応が光りました。時間が経つにつれ全体として日本の方が足が動けており、相手はリズムが崩れていきます。

7分のアディショナルタイムを賢く過ごし、退場者も出さずに勝ち点3を獲得。コスタリカ戦を落としながら、優勝経験国であるドイツ、スペインにいずれも逆転勝ちを収めてグループ首位での突破を果たしました。望外の結果です。

次の対戦相手はクロアチア。前回大会のファイナリストであり、日本がワールドカップの舞台ではゴールを奪ったことのない相手ですが、失うものはない日本。ベスト16の壁を今度こそ乗り越えるために挑みます。