残りはトータルで約1時間。早くも交代カードを切らざるを得ないシチュエーションになりました。そこで複数のポジションをこなせて、なおかつ運動量が豊富な橘田健人をピッチに残したのには大きな意味がありました。

鬼木達監督は登里享平を下げて、緑色のユニフォームを着た丹野研太を送り込みます。橘田は左サイドバックを任されました。

ハーフタイム明けにはこれまた苦渋の決断と思われる交代が行われます。攻撃のキーになる脇坂泰斗に代わって車屋紳太郎が入り、橘田は再び中盤にポジションを戻しました。

しかし、橘田が前に出やすい位置になったことで、61分にはゴールライン付近で森重真人からボールを奪い、マルシーニョのゴールにつなげることができました。

こうして攻め手の見つかりにくい苦しい状況で活路を見出したのです。

29分にチョン・ソンリョンがアダイウトンへのファウルで一発退場となり、この日も厳しいゲームになりました。ただ、その時点ですでに脇坂が鮮やかなミドルを叩き込んで先制していたように、90分を通して常に先手をとれていたため、数的不利にも耐えられました。

とはいえ、10人になってからハーフタイムまではいつもの戦い方を捨てざるを得なくなったために修正が難しく、東京に押し込まれてしまいます。相手には裏抜けを試みる選手も多く、マルシーニョが最終ラインに吸収されそうな位置まで下がる事態に陥りました。それでも防戦一方ながら前半はゼロに抑えられました。

後半、メンバーを代えて守備重視にシフトし、戦い方が整理されたものの、立ち上がりと勝ち越し後にアダイウトンにゴールを許してしまいます。2失点目はダイナミックに揺さぶられた末のものでした。

アウェイチームが得点を奪う作業は困難を極めましたが、再び追い付かれた直後に車屋の鋭いクロスがオウンゴールを誘発。三度リードを奪います。

その後、80分にマルシーニョを下げて山村和也を入れ、ジェジエウと谷口彰悟の間に立たせた5バックに変更します。4点目を狙うより、確実な逃げ切りを目指し、東京陣内深くに進んだ際には家長と知念慶を中心にボールキープをして時計を進めました。

川崎は全員が最後まで懸命にピッチのあらゆるところで体を張り、多摩川クラシコを制してディフェンディングチャンピオンの意地を見せました。

しかし、タイムアップ後、別会場で勝利した横浜F・マリノスの優勝が決まって、鬼木体制では初の無冠に終わりました。

ジェジエウが7月半ばまで戦列に戻れないハンデを背負いながらの今シーズン。すべての公式戦が終わって振り返ると、ここ数シーズンとは違って新戦力の突き上げ、底上げが乏しかったことが結果的にF・マリノスとの勝ち点差、得失点差につながったと言えるかもしれません。

今までの蓄積を生かして勝負強さを随所に見せたものの、連戦になると勝ち点を伸ばせませんでした。過密日程を乗り切るだけの戦力が揃っていたとは言えないでしょう。

また、新型コロナウイルスの影響は例年以上に大きく、7月下旬はフィールドプレーヤーの離脱が続出して試合開催が危ぶまれるほどでした。

こうした中、昨シーズン終盤はベンチ外も珍しくなかったジョアン・シミッチの奮闘は、チームを大いに助けてくれました。チームトップタイの12ゴールを記録したベテランの家長の働きは言うまでもないでしょう。

とにもかくにも今シーズンの結果を真摯に受け止め、来シーズンの王座奪還、タイトル獲得に向けて前進するほかありません。