歴史が、変わりました。

アジアカップ決勝でこれまで一度も負けたことのなかった日本が、国を挙げて育成、強化を進めるカタールに敗れ、次のワールドカップホスト国に新調されたカップが手渡されました。

4バックで戦った準決勝のUAE戦の立ち上がりとは異なり、日本相手に3バックを採用して慎重に入ったカタール。それでもアルマエズ・アリ、アクラム・アフィフによるスピードあるカウンターを武器として備えていたため、対する日本も比較的慎重に守りを意識した戦いで臨みました。

にもかかわらず前半12分、アクラム・アフィフのやわらかい浮き球を受けたアルマエズ・アリにリフティングからのオーバーヘッドを決められてしまいます。

加えて前半20分の段階でこの日は守備に意欲的だった柴崎岳が警告を受けてしまい、まだ十分に時間がある中で無理ができなくなりました。遠藤航の負傷によって組まれた柴崎と塩谷司のコンビは連携の熟成度が高くはなく、また塩谷の攻撃への関与が少ないこともあって柴崎が相手にミスを狙われていたとも考えられます。

劣勢が続く中、カタールに追加点を奪われてさらに追い込まれます。前半27分、累積警告のため準決勝に出られずフレッシュな状態だったアブドゥラジズ・ハティムのミドルシュートが決まったのです。前にいたのは吉田麻也でしたが、直前にそばを走るアルマエズ・アリに一瞬気をとられて動きが止まり、ハティムに寄せきることができませんでした。

追いかける日本はサイドを突こうにもウイングバックも下がって5枚で守る最終ラインを破るのは容易ではなく、ペナルティボックスの中で決定的なチャンスをつくることができません。逆に前半35分にはその両ウイングバックもゴール前に迫ってきて、失点を重ねかねないピンチを招きました。

後半に入ると気持ちを切り替えた日本の選手は縦への鋭いパスを繰り出すようになり、少しずつゴールのにおいが漂いつつあったものの、UAE戦で好セーブを連発したサード・アルシーブを脅かすまでには至りません。

流れが変わったのは、セットプレー時に吉田との接触でブーアッラーム・フーヒーがピッチを去ってからでした。ユーティリティプレーヤーで安定感のあるフーヒーがいなくなったことで、カタールの中央のディフェンスが少しばかり弱体化しました。

そこで直後に入った武藤嘉紀が、得点を決めたウズベキスタン戦のようにサイドからのクロスに合わせる要員として送り込まれ、役割を果たそうとします。

こうしてクロスを意識させつつ中央に人数をかけてこじ開けたのが、逆襲の一歩となるはずだった南野拓実の今大会初ゴールでした。攻撃面でいいところが出ていなかった塩谷の縦パスを大迫が落とし、背番号9がアルシーブの牙城を崩しました。

一旦は2点ビハインドをひっくり返せるムードになりかけましたが、カウンターからコーナーキックを与えてしまい、そこで吉田がハンドのファウル。権田修一が倒れたあとにセットされたボールを蹴ったアクラム・アフィフにより再び2点差とされます。

悔やまれるのはコーナーキックに至ったカウンター時、ハティムがレフティであることはわかっていたはずなのに柴崎が反対の右足の方を切ってしまい、最後は左に持ち替えられてシュートを打たれてしまった場面です。柴崎は懸命に足を延ばして枠の外に逃がしたとはいえ、対応が甘かったと言わざるを得ません。

残された時間は10分を切っており、追い付くことさえ難しくなりました。この大会は22人を起用した総力戦ではありましたが、ジョーカーとして脚光を浴びた選手はいませんでした。切る手札がなければ状況打開の可能性は低く、森保一監督は塩谷を下げて伊東純也を入れるという不慣れな緊急対応をとることとなりました。

前線の人数を増やす日本に対してカタールはより一層守備を固め、得点ランキングトップのアルマエズ・アリもセットプレーではなくとも自陣サイド深くまで下がって守備に奔走しました。

最後は相手に巧みに時間を使われてしまい、5分のアディショナルタイムを有効活用することができませんでした。1対3。言い訳のできない敗戦です。

試合を通していえば、遠藤不在が大きく影響しました。攻守において柴崎をフォローする形で働いていた選手が出られなくなり、同じポジションを本職とする青山敏弘も大会途中でチームから離脱。そもそも大会前からセンターハーフの人材不足は懸念されていて、それが露呈したとも言えます。

結果としてカタールに勝者のメンタリティが植えつけられることとなった今大会。日本同様に今夏のコパ・アメリカを経験するカタールは、ワールドカップ開催を経て今後大きな脅威となりえます。