まさか、4年に一度しか開催されないワールドカップを目の前にして、選手とのコミュニケーションの問題、そして信頼関係が少し薄れたという一方的な主張だけをきっかけにチームが崩壊してしまうとは思いませんでした。

会見によれば、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は公平な競争を促していました。周囲がパニックになるような若手の抜擢。それに応えた選手――これは例を挙げるなら浅野拓磨と井手口陽介でしょう。その一方でオーストラリアに完璧な勝利を収め、困難な予選突破を果たしたにもかかわらずがっかりしていたというベンチの2選手。その2人は以前は試合によく出ていたといいます。

会見では選手を名指しで批判しない主義のハリルホジッチ前監督は、決して個人名を挙げることはしませんでした。しかしそのうちの1人は前監督が絶賛した2016年6月のブルガリア戦の大勝で前半に2得点を記録した選手である可能性があります。

チームの結果よりも個人のそれを重んじる選手がチームスポーツであるサッカーで、それも世界に向けて自身の「プロモーション」ともなるワールドカップの大舞台できちんと役割を果たせるのでしょうか。はなはだ疑問です。

このような選手がいる一方で、監督解任後に感謝のメッセージを寄せた選手が15人ほどいたといいます。たとえば吉田麻也のパートナーとなるべく昌子源からポジションを奪い、主力として存在感を増してきていた槙野智章は今回の決定に落胆しているということでした。

結局のところ選手と監督とのコミュニケーションの問題はそれほど大きなものだったのか、という疑問は拭えません。不満がある選手といっても、前監督の知るところではたったの1人か2人にすぎないのです。

そんな中で選手ではなく、日本サッカー協会とハリルホジッチ前監督のコミュニケーションに問題があったことはうかがい知ることができました。筆頭は今年3月、ハリルホジッチ前監督が呼んだにもかかわらず、遠征先のベルギーに行かなかった田嶋幸三会長です。『Number』最新号のインタビューでは会長はハリルホジッチ前監督に呼ばれていたとは話していませんでした。

また同インタビューで田嶋会長は日韓戦の重要性を説いたと言っていますが、ニュアンスとしてはそれがきちんと伝わっていなかったかのような口ぶりでした。しかしハリルホジッチ前監督はそのことを重々承知していたと話しました。この件では確実にコミュニケーションがとれていたはずなのに、どこがずれていたのでしょうか。

考えられるのは、自国開催のE-1サッカー選手権で優勝のかかった試合にもかかわらず、1対4の逆転負けを喫し、さらにハリルホジッチ前監督が韓国の方が強かったといったような極めてまっとうなコメントを残したのをどうにも許しがたい方たちが存在したということでしょう。

とはいえあの大会はグループステージの対戦相手が決まったワールドカップを控える中の調整段階、さらに言えば選手選考をするための試合にすぎず、所詮はハリルホジッチ前監督のいうところの「Bチーム」で臨んだ戦いです。

加えて言えば、あのときは国内組による編成とはいえ、槙野智章をはじめ浦和レッズの選手がアジア王者としてクラブワールドカップに出場するため出られない状況でした。

そうした点を考慮しないで、本当の「Aチーム」で韓国に敗れたことで結果的に解任につながったパウロ・ロベルト・ファルカンや加茂周と同じような見方、判断をするのは間違っています。

また当時の西野朗技術委員長との関係も深いものではないことがわかりました。「よかった」というくらいで、まともな会話も少ないような関係でコミュニケーションがとれていた、とろうとしていたとは言えません。

結果が重要なはずのサッカー界における不可解な、奇妙な理由での契約解除。熊本に心を寄せている、日本代表を応援する気持ちは変わらないという誠実なハリルホジッチ前監督でさえいまだに納得ができていない、だから来日して会見を開いて話をしたというのですから、納得できる要素はまるでありません。不協和音が鳴り響く中、オールジャパンという謎のキーワードで結集した新体制での日本代表をあたたかく見守る気にはなれません。