最後の笛が鳴り響くと、川崎の選手が1人、また1人とピッチに倒れ込みました。しかしそれは前節、大宮アルディージャ戦で江坂任に逆転弾を食らった直後にディフェンス陣が次々と座り込んだ時とは対照的な光景でした。痛恨のダウンではなく、喜びや安堵にあふれたものだったのです。

苦労する羽目になったきっかけは、新井章太の負傷交代でした。予期せぬアクシデントによってJ1デビューの高木駿がゴールを守ることになり、それを突こうとマリノスが攻めに勢いを持ち始めました。前半の川崎はボールを転がしながら、時折浮き球を繰り出しては相手の裏をかくなどして中盤を制圧していましたが、それができなくなっていきました。

さらに新井の治療などに時間がかかったため、後半のアディショナルタイムが9分あったのも誤算でした。そこで後半51分には中町公祐、53分には齋藤学にドリブルで粘られて伊藤翔にゴールを許す結果となり、2点のリードはなくなってしまいました。最初の失点を喫する直前、49分の中村憲剛のシュートがゴールの角をヒットしたのが悔やまれる展開になったのです。あれが決まっていれば、マリノスの選手達の心が先に折れていたでしょう。

川崎にとっては大宮戦の悪夢が再来したような状況でしたが、最後まであきらめなかった結果、中村のコーナーキックをエドゥアルドが触り、流れたボールを拾った田坂祐介がクロスを上げ、小林悠が勝ち越しゴールを奪ったのです。それは後半55分のことでした。

引き分けのまま終わっていれば、2試合続けて勝ち切れないことになり、チームのムードも停滞しかねませんでしたが、出場停止やケガで主力3人を欠く正念場を勝ち切る強さを川崎は持っていました。これでチャンピオンシップ出場が決定、年間首位の座もキープすることができました。今後に繋がる劇的で大きな一勝となりました。