国民の期待を背負い、大観衆の前で金メダル獲得を義務付けられたプレッシャーゆえか、あらゆる面でどこかちぐはぐだった南アフリカ戦、イラク戦のプレーが嘘のように、ブラジルは準決勝の舞台でホンジュラスを相手に圧倒的な力の差を見せつけました。尻上がりで調子を上げている点を含めて、サッカー王国の風格を感じさせる試合でした。

セレソンを6対0の大勝に導いたのは、やはりエースのネイマールでした。開始直後、ジョニー・パラシオスからボールを奪って、ルイス・ロペスと交錯しながらわずか15秒でゴールを陥れ、できるだけ無失点の時間帯を長くしたかったはずのホンジュラスのゲームプランをあっさりと、そして見事に崩しました。

キャプテンマークを巻いた背番号10はもちろん執拗なつぶしにあいましたが、そんな中でも冷静さを保って、スルーパスとコーナーキックでガブリエル・ジェズスとマルキーニョスのゴールをアシスト。最後はルアンが倒されて得たPKをきっちり決めて、試合を気持ちよく終わらせました。

このように攻撃に目が行きがちですが、初戦こそ危なっかしい場面がいくつかあったものの、5試合を通じて無失点という守備陣も評価しなければなりません。この試合もオーバーエイジのマルキーニョスを中心に、ホンジュラス得意のカウンターを封じるなど、固いディフェンスでゴールを許しませんでした。

また、圧勝ゆえにロジェリオ・ミカーリ監督の采配には余裕がありました。リードを4点に広げ、後半に入って二枚替えをして意気込んでいたホンジュラスの心を折ったところで、センターバックのロドリゴ・カイオを下げてルアン・ガルシアを投入。その後は決勝を見据えてガブリエル・ジェズス、レナト・アウグストを引っ込めて、フェリペ・アンデルソン、ラフィーニャを送り込みました。

攻撃、守備、采配。すべてがうまくいった90分でしたが、悲願の金メダル獲得の懸かった決勝はそうはいかないでしょう。何しろ相手は、試合を重ねるごとに安定感を増しつつあるドイツです。ただ、ワールドカップの借りはワールドカップでしか返せないとはいえ、フル代表がドイツに味わわされたホームでの2年前の屈辱から少しでも立ち直るための絶好の機会が訪れたのは間違いありません。