22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2021年08月

不運な判定でした。遠藤航とアレクシス・ベガの接触がバムラク・テッセマ主審によってPKと判定され、VARの介入もあったものの、エリアの中か外かという部分においても極めて慎重さが求められる瞬間にもかかわらずオンフィールドレビューはなく、試合は淡々と進んで失点を喫しました。

グループステージをすべて先制して勝ってきた日本は、ノックアウトステージに突入してからゴールがなく、早い時間に追い詰められてしまいました。その上、先制されてから10分と経たないうちにフリーキックからホアン・バスケスに追加点を許します。バスケスのそばにいたのは遠藤でした。

追いかけるこの日の日本には焦りの色が濃く出ます。シュートの多くはペナルティボックスの外からで、枠内に飛んでもギジェルモ・オチョアが難なく防げるコースにしか行きません。シュートを打つ際にはフリーの状態なので打ちたい気持ちはわからないでもないですが、もう一歩、二歩全体で踏み込んでゴールの可能性を広げられれば、というシーンが数多くありました。

ただ、逆にボックスの中に攻め入ったときには、人数をかけたもののシュートに至らないケースがあり、決定機をつくれないまま時間ばかりが過ぎていきました。

ハーフタイム明けに相馬勇紀に代えて旗手怜央を送り込みますが、58分にコーナーキックからベガに決められてしまいます。またしてもリスタートからの失点です。直前にディエゴ・ライネスが負傷し、ピッチを去るまでに時間が空いたことも原因の一つだったかもしれません。

残りは30分ほどしかなく、苦しくなった日本。その中で躍動したのが途中出場の三笘薫でした。三笘は普段、川崎フロンターレで見せているプレーをそのままピッチで表現しました。78分、左からボックスで仕掛けて反撃ののろしを上げる1点を奪ったのです。

準々決勝のニュージーランド戦での三笘は好調時ほどのプレーではなかったとはいえ、コンディションは回復傾向にあると思われました。加えてこの日のプレーを見るに準決勝のスペイン戦でベンチ外だった点には疑問を抱かざるを得ません。

おそらくユーティリティプレーヤーの多くをスタメン起用させなければならず、18人全体のバランスを考慮した上で、森保一監督が決断したのでしょうが……。

この日の最後の交代は遠藤に代えて三好康児でした。そして板倉滉をアンカーに堂安律と三好をインサイドハーフとして置く形に変更します。遠藤を下げてこの形にするつもりであったのならば、田中碧を残して一列上げ、やり慣れたインサイドハーフを任せることもできたはずです。

攻撃に大きく舵を切った日本ですが、不慣れな形では強引な攻めしかできず、終盤はメキシコがボールキープを始めたこともあり、さらなる追撃のゴールを決めることはできませんでした。久保建英からボックス手前付近でフリーの旗手へのパスを選択したフリーキックも、旗手のフィニッシュは枠を外れていきます。

結局、PK戦を除くとノックアウトステージに入ってからはほとんどいいところなく大会を去ることとなりました。早期敗退しないで6試合戦えたことは経験、財産になるでしょうが、勝ち切れない戦いを繰り返していては一歩先の段階に進めません。新たな扉を開くまでにはまだまだ時間がかかりそうです。


一瞬、まさに一瞬でした。

スペインのスローインからのリスタートということもあって油断したのか、マルコ・アセンシオに左足でシュートを打てる時間とスペースを与えてしまったのです。ラファ・ミルの決定的なシュートを二度にわたって阻んだ谷晃生も届かないコースにボールは飛んでいき、ゴールネットを揺さぶりました。

吉田麻也とミケル・メリノの交錯であわやPKかというシーンも、VARによって正当なタックルと認められるなど、日本はギリギリのところでピンチを凌いできました。それでも及びませんでした。

スペインは有観客での壮行試合となったキリンチャレンジカップの対戦時とは明らかに違う、強い圧力をかけてきました。パススピードも速く、中盤をあっという間に切り裂かれたシーンは一度や二度ではありません。

それゆえ日本はサイドアタッカーに中央から流れた久保建英を絡めたカウンターに活路を見出すほかなく、30分過ぎまではそうした攻撃すら形になりませんでした。

加えて前半は日本陣内でのビルドアップ時に簡単に相手にボールを取られる場面が目立ち、冨安健洋の出場停止による不在を嘆かざるを得ませんでした。

時間が経つにつれて日本のミスは改善されてきたものの、最後の相手ボックス内での仕事を120分間ほとんどさせてもらえません。延長後半に相馬勇紀が倒されて得たフリーキックでスクランブルを発生させても、ウナイ・シモンのところまでボールが届かなかったのです。それだけスペインの体を張ったコースを切る守備が申し分なかったということです。

最大の絶好機になりかけた後半アディショナルタイムの堂安律のカウンターは、警告を辞さないマルティン・スビメンディにユニフォームを引っ張られて止められています。

攻撃で効果的な役割を果たしていた堂安と久保は、延長開始時にフレッシュな前田大然、三好康児と代わりました。堂安はこれまでも終盤でベンチに下がっていましたが、久保はリードをしていた3戦目のフランス戦以外ではフル出場を果たしていただけにこの決断は意外でした。

リードされて残り時間が少なくなってからは橋岡大樹を最終ラインに入れて、吉田を最前線に置いたパワープレーを試みます。結果的に吉田がファーストディフェンダーとしてプレスをかけにいかなければならず、苦しい状況は変わりませんでした。

それでもボールキープに長けたスペインから必死でボールを奪い、コーナーキックを獲得するも実らず、金メダルへの道は閉ざされてしまいます。日本はモチベーションの維持が難しいとされる3位決定戦に回ることとなりました。単なる順位づけではない、オリンピックならではのブロンズメダルマッチ、ということで切り替えができるかどうかが問われます。


互いに譲らない一戦はPK戦までもつれ、日本はキッカー全員が成功させた中で集中していた谷晃生のビッグセーブがチームを準決勝へと導いてくれました。勝利が決まるとフィールドプレーヤーが殊勲の谷のもとに駆け寄りました。

ニュージーランドは5-3-2でスタート。2トップのベン・ウェインとクリス・ウッドが日本の最終ラインにプレッシャーをかけてくる一方で、中盤は真ん中に選手が集まるため、サイドに加えてアンカーのジョー・ベルの脇にスペースが生まれます。ビルドアップで最初の守備ラインを突破できれば、堂安律や久保建英がそのエリアに落ちてボールを受けられました。

ただ、最終ラインは5枚だったことから最後のところで崩すのが難しく、崩せたとしてもシュートが枠に飛ばず、決定機にはなりません。

後半早々にキャプテンのウィンストン・リードが左膝の負傷でカラム・マッコワットと交代し、ニュージーランドは4-3-1-2にシステムを変更。日本にとっては苦労していたアタッキングサードの攻略がしやすくなるかに思われましたが、それ以上にロングボール主体で攻めてきたニュージーランドがつないで攻めるようになり、トップ下に入ったマッコワットにかき回されだしました。

森保一監督は、中山雄太と上田綺世を入れ、左サイドバックを務めていた旗手怜央を一列上げて攻守両面のてこ入れを行います。それでも失点こそしないものの深い位置まで入れずにミドルシュートが多くなったため得点も奪えず、次第に疲労の色が濃くなり、89分には冨安健洋が大会通算2枚目のイエローカードをもらってしまいます。そしてスコアレスのまま延長戦に突入しました。

4バックの相手に対してより強く深く攻め入るべく、三笘薫がピッチに送り込まれたのは延長前半の頭からでした。中盤でタフな仕事をしていた田中碧を下げて、勝ち上がれば次はセンターバックでの起用が濃厚な板倉滉も同時に入ります。

その延長前半には日本のボックス内でウッドが結果的にスルーした形になったボールが、途中投入のエライジャ・ジャストにフリーの形で渡ってしまうも、ジャストがバランスを崩してシュートを打てなかったため最悪の事態は回避できました。

以降は両者決め手を欠いてPK戦に突入。ニュージーランドの2人目リベラト・カカーチェのキックを谷が止め、3人目のクレートン・ルイスも外したため、日本が勝ち抜けました。


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