22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2021年05月

横浜FC戦、湘南ベルマーレ戦と勝ち点は獲得しながらもスッキリしない試合が続いていました。そういう中でこの試合の前半の出来はすばらしいものでした。

コンパクトに守備陣形を保つ鹿島に対し、ミドルレンジのパスを多く使い、ショートパスはタッチ数を少なくして素早くボールを動かし揺さぶりをかけました。

鹿島を翻弄する中で19分には山根視来のグラウンダーのボールをレアンドロ・ダミアンが合わせて先制します。その後、追加点こそ奪えませんでしたが、リードした状態でハーフタイムを迎えました。

ところが後半、鹿島が戦い方を変えてきます。守備ブロックを敷いて待つのではなく、アグレッシブに前線からプレッシャーをかけ始めました。ホームチームはボール回しに余裕がなくなり、前半のようなプレーができなくなります。

挙句、ジョアン・シミッチの脇に立つ荒木遼太郎にパスが通り、最終的に上田綺世に同点弾を決められてしまいます。常本佳吾との1対1を制することができなかった三笘薫に代えて、長谷川竜也を投入する直前のことでした。またしても選手交代の前にゴールを許してしまいました。

失点シーンと同じ失敗を防ぐべく、田中碧をシミッチのそばに立たせつつ、キープ力とフィジカルの強さを誇る家長昭博を中盤に下げ、運動量豊富な旗手怜央をウイングに出しました。

勝利が欲しい川崎でしたが、攻め急ぐ傾向があって深い位置までボールを運ぶ前にラストパスを入れており、得点が奪えません。

引き分け濃厚の空気が漂う終盤、鬼木達監督は車屋紳太郎と知念慶を投入。さらにアディショナルタイムには小林悠を送り込みます。

すると小林投入の1分後、長谷川のクロスに知念が競ったところ町田浩樹の頭に当たり、ボールが小林のもとにこぼれます。小林は体をひねりながら左足でゴールネットにボールを突き刺しました。土壇場での勝ち越しです。

終始ペースを握ったわけではありませんが、苦しい時間を凌いで劇的に勝ち切る、結果を出すというのはチームに勢いと自信をもたらします。少なくともここ数試合のもやもやは解消されます。

これで鬼木監督は最速でのJ1通算100勝を達成。見事な采配で開幕からの無敗記録も20に伸びました。


64分に投入されたフェルナンジーニョにコンディションの問題は感じられませんでした。プレミアリーグ最終節のエバートン戦では右サイドに流れ、セルヒオ・アグエロに完璧なクロスを入れた背番号25は、しかしスタメンではありませんでした。

フェルナンジーニョが本来いるはずのポジションを任されたのはイルカイ・ギュンドアンでした。パリ・サンジェルマンとの激闘を終えた直後のリーグでのチェルシー戦、決勝の前哨戦となったゲームのようにインサイドハーフにFWの選手を置くほど大胆ではないものの、ペップ・グアルディオラ監督はスタートから勝負に出ました。

後方の配置は実質3枚で、オレクサンドル・ジンチェンコをギュンドアンの近くに立たせます。こうした変化は観客のボルテージも上がっていた開始直後こそ効果を発揮し、シティが普段からしばしば見せるエデルソンからのロングキックで、この日スタメン起用となったラヒーム・スターリングがチャンスをつくりだしもしました。

ただ、徐々にチェルシーが冷静さを取り戻し、カウンターを軸に攻撃を繰り出しました。42分のカイ・ハバーツの決勝点も後方からの一気の攻めが実った形です。

ハバーツがシュートを打つ直前にボックスのわずかに外に出たエデルソンの手にボールが当たったかに見えましたが、お咎めはありませんでした。チェルシーのゴールが認められたのです。

シティにとって不運だったのは、ケビン・デ・ブライネの負傷離脱です。アントニオ・リュディガーと衝突して顔を痛め、まだ30分残っていましたが無念の交代となりました。攻撃を司る背番号17に代わって入ったのは、ガブリエウ・ジェズスでした。

グアルディオラ監督は、3人目の交代カードとしてシティでのラストゲームとなるアグエロをチョイス。ジェズスと並べて得点力を求めました。

とにかく1点が必要だったシティ。しかし、チェルシーの守備は堅牢で、特にエンゴロ・カンテが中盤でにらみを利かせており、相手陣内深いところまで思うように入り込めません。それはチアゴ・シウバが悔しさを抱えながら前半のうちに負傷で交代した後も変わりませんでした。

結局、シティは90分を通じて7本のシュートしか打てず、ブロックされることなく枠内に飛んだのも1本のみ。オフェンシブに出て押し切る策ははまらず、悲願の優勝は成し遂げられませんでした。


湘南の強烈なプレッシャーに怯まず、主導権を握るまでに30分かかりました。谷口彰悟の縦に入れたボールを脇坂泰斗が広げ、遠野大弥がクロスを入れて小林悠が頭で合わせる。この一連の流れをつくるまではずっと苦しんでいました。

そこから15分間は川崎ペースで試合を運んでいたものの、湘南の方がハーフタイム明けにギアを入れ替えてきました。ウェリントンを軸にした波状攻撃を受ける格好となり、56分、山田直輝に押し込まれてしまいました。

直前には流れの悪さを解消すべく交代選手を用意していましたが、投入は失点後となってしまいます。これは前の横浜FC戦と同様で、相手からリズムを奪い返すための選手交代のタイミングがピタリとはまりません。

両ウイングと脇坂に代えて家長昭博、三笘薫、そして橘田健人がピッチに入り、流れを引き戻しました。さらに64分、ジョアン・シミッチを下げてレアンドロ・ダミアンを投入。小林悠を右サイドに移し、家長をインサイドハーフに配します。

空中戦に強い、明確なターゲットがいるため、川崎はハイボールを多用するようになります。左サイドバックの旗手怜央の放り込みにレアンドロ・ダミアンが合わせた場面は、VARの結果、谷晃生へのファウルをとられて得点は認められません。

鬼木達監督は最後の交代カードとしてジェジエウを選択。小林を下げて、旗手、家長を前のポジションにずらしました。是が非でも得点を取りたいという強い意思が感じられます。

怒涛の交代策が実り、82分に山根視来のパスを受けたレアンドロ・ダミアンがオーバーヘッドで同点弾を奪いました。負け、という最悪の結果は回避することとなります。

終盤は一進一退の攻防となって勝ち越し点は取れず、湘南と勝ち点1を分け合う結果となりました。

失点後の戦いぶりは、この試合を落としたら優勝を逃してしまうかのようなものでした。無敗を続けているがゆえの意地、執念を見せたと言えばそうですが、長いシーズンを考え、先々を見据えたときにここまでなりふり構わず行く必要があったのかどうかは少々疑問です。

この結果が果たしてどう生きるのか。次は相馬直樹監督のもと、回復傾向にある鹿島アントラーズとの決戦です。


新たな連戦のスタートとなるこの試合は、1点ずつ地道に積み上げて勝ち点3を獲得しました。

横浜FCの最終ラインは比較的高く、川崎の選手がたびたびオフサイドにかかりましたが、三笘薫や登里享平が相手陣内の深い位置まで進入を試みてラインを下げにかかります。

そうした中で田中碧が縦に鋭く刺したボールを家長昭博が落とし、三笘がドリブルを始めてファウルをもらいます。これで得たPKを家長が冷静に沈めました。飲水タイム前に先制できたことでチームは落ち着きます。

28分にはレアンドロ・ダミアンの激しい追い込みをきっかけにしてボールを奪い、三笘が生かしたボールを田中がキープしてペナルティアークから蹴り込みます。川崎の本領が発揮され、田中は待望の今シーズン初ゴールをマークしました。

そのまま危なげなく前半を終えると、後半立ち上がりには田中の中盤での力強い突破を起点に山根視来とのコンビネーションで横浜FC守備陣を混乱させ、最後は山根のクロスに三笘が合わせてリードを3点に広げます。ドリブルで魅せることよりも得点に貪欲な背番号18が4戦連発という結果を残しました。

スコア、そして試合展開からしてベンチが早めに動いても問題なさそうな状況でした。実際、鬼木達監督は60分を目処としてベンチに復帰した脇坂泰斗、そして先日J1通算300試合出場を果たした小林悠の投入準備を進めます。

2人の投入は谷口彰悟に競り勝ったクレーベにゴールを喫した後になりましたが、旗手怜央とレアンドロ・ダミアンに代わって残り30分の中盤から前線の活性化を託されます。

順当な交代策に見えたものの、川崎は失点前後からプレーに精彩を欠き始めました。逆に横浜FCはクレーベ狙いのクロスという明確な攻め手を見出し、果敢に攻めてきます。川崎はクロスの出しどころをうまくつぶせずにいました。

幸いそれ以上の失点は許さずに終わりますが、78分に遠野大弥、長谷川竜也が入っても劇的な変化は訪れなかったため、無敗を続ける首位チームにしては無難な戦いになってしまいました。11日後にアウェイで再戦が予定されている点を考えるとあまり望ましい内容ではありません。

主力の戦線離脱が多くはないだけに、もう少しゴールをとは言わないまでもチャンスをつくることはできたのではないかというゲームでした。


4日前のベガルタ仙台戦での試合運びの失敗をどう生かせるか。川崎にとっては真価が問われる一戦となりました。対戦相手は昨シーズンのホームゲームで完敗を喫した札幌です。相手にとって不足はなく、インサイドハーフの一角に小塚和季が入った以外は、いわゆるベストの陣容で臨みました。

前半はミッドウィークに試合がなかった札幌の運動量が勝り、川崎は激しいプレッシャーにさらされます。時間が経過しても流れをつかみきれず、三笘がボックスの中で倒れたもののPKにならなかったため、珍しく主審に詰め寄る場面もありました。

守備面では自陣での致命的なミスこそありませんでしたが、長いボールを効果的に使う札幌に複数の決定機をつくられてしまいました。

そこで鬼木達監督は、ハーフタイム明けにつなぎ役として貢献していた小塚を下げて、田中碧をピッチに送り込みます。ベンチスタートだったのはおそらく前の試合で負傷した足の具合が万全ではないからだと思われますが、45分という限られた時間の中で躍動します。

川崎は再開後すぐさま先制しました。田中碧が起点となり、レアンドロ・ダミアンがサイドに散らすと、家長昭博がクロスを入れます。それを旗手怜央が当ててスピードを殺し、最後は三笘薫がゴールに蹴り込みました。

その後は福森晃斗の強烈なフリーキックをチョン・ソンリョンが防いで難を逃れ、ジェジエウ、谷口彰悟、ジョアン・シミッチの適確なプレーで失点を許しません。

1点差のまま試合は推移。こうなるとあとはゲームの終わらせ方が問題になります。

ベンチは堅実な采配をします。登里享平、三笘の順に下げてそれぞれ車屋紳太郎、長谷川竜也と代えました。センターバックでのプレーが増えた車屋を左サイドバックに配して守備面の強化を図り、三笘とは違ったキャラクターの長谷川が攻守で気の利いたプレーを見せます。

最後はピッチを動き回った旗手とレアンドロ・ダミアンに代えて、橘田健人、小林悠を入れました。前線の運動量を落とさずに逃げ切りにかかります。

点差を踏まえたプレーでチームを助けたのは家長でした。札幌陣内のコーナーフラッグ付近で体を張ってボールをキープします。家長の強さ、ゲームの流れを読む力が際立つシーンでした。

ボール保持を第一に考え、チャンスのときは怯まずゴールを狙う。その意識がチーム全体で共有され、小林の追加点が生まれました。田中碧の強い縦パスに抜け出し、菅野孝憲との1対1を冷静に制しました。

理想的な試合運びで勝利をつかみ、シーズンをまたいで無敗記録を更新しました。


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