残り15分を切ったあたりからのガンバの攻撃は脅威でした。宮本恒靖監督は74分に藤春廣輝、山本悠樹に代えて福田湧矢、渡邉千真を投入。パトリックと宇佐美貴史は残したままで、得点を取ることに強くフォーカスした戦いを選択しました。

完全に押し込まれた川崎は、それでも必死で耐えます。ジェジエウ、谷口彰悟がエアバトルを制し、チョン・ソンリョンが好判断で危機を回避。まだコンディションが十分に戻り切っていない車屋紳太郎も短い時間で懸命のディフェンスをします。

それまでは川崎が主導権を握っていました。いつも通り、かつ準決勝と同じ11人を揃えた川崎に対して、ガンバは前回対戦で見せつけられた破壊力を警戒してか、3バックを採用して臨みました。守備時はパトリックが前線に一枚残る5-4-1のブロックを敷きます。引き気味の相手に対して、川崎は遠慮なく攻めに出ます。

特に前半の飲水タイムを挟んだ後はガンバの中盤の選手をミドルゾーン深い位置まで押し込むことに成功し、安定したビルドアップから圧倒しました。ただ、ゴール前のスペースは消されており、レアンドロ・ダミアンに多くボールを集めるも、シュートは枠を外れるか、枠内でも東口順昭の正面にしか飛びません。

後半、ガンバが前線からプレッシャーをかけるようになります。川崎にとってはセンターバックからのビルドアップが難しくなりますが、その分スペースはできます。加えて相手の前線には宇佐美が出てきて2トップの形になり、中盤は実質3人しかいない状態になり、川崎は前半よりも攻めやすくなりました。まるでリードしているかのようにマイペースでボールを動かして隙をうかがいます。

こうして55分に準決勝よりもコンディションが目に見えて上がってきた大島僚太、さらにはレアンドロ・ダミアンが相手に詰め寄られながら必死につないだボールを三笘薫が生かしてフィニッシュ。中央を破って先制します。

その後、ガンバがメンバーを代えずに4-4-2にシステムを変更。真っ向勝負となり、川崎としては望ましい展開になります。2点目を奪うのは時間の問題かと思われましたが、そこで宮本監督が動いたのです。

鬼木達監督はガンバベンチが動いた5分後、前線の鮮度を上げるべく三笘、レアンドロ・ダミアンを下げて長谷川竜也、小林悠を送り込みました。さらに86分には不慣れな左サイドバックを務めた旗手怜央に代えて車屋を入れます。

交代の機会は90分の中ではあと1回となりました。猛攻を凌ぐために指揮官が呼んだのは、脇坂泰斗でした。負傷明け間もない大島に代えての投入です。この日が現役最後の試合となる中村憲剛ではありませんでした。

勝負に徹した結果、終盤での同点弾を食らうことなく虎の子の1点を守って逃げ切り、川崎は初めて天皇杯を手にすることとなりました。表彰式ではキャプテンの谷口からカップを譲り受けた中村憲剛が高々と掲げて大会は幕を閉じました。