22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2020年12月

相手DFが寄せてくる中、足裏でのファーストタッチでボールをコントロールしてからの三笘薫のシュート、ペナルティエリア手前という直接狙うには難しい位置から鮮やかにねじ込んだ田中碧のフリーキック。いずれもすばらしいフィニッシュで2ゴールを奪って勝利した川崎。そのどちらにも絡んだのが背番号10、大島僚太でした。

動きを見る限りはまだ100%のコンディションにないように感じられますが、スタメンで出られるまでに回復した大島は重要な場面で決定的な仕事をしました。三笘のゴールをお膳立てし、追加点に結び付くフリーキックを獲得したのです。それ以外でも家長昭博のジャンピングボレーにつながる絶妙なパスを繰り出しました。

その大島をフォローする役割を果たしたのが、田中碧と守田英正でした。一緒に中盤を任された2人は、相手を外しつつバランスをとりながら広範囲を動き回って好守両面でチームを支えました。

そして同じく復帰組となるのが車屋紳太郎です。この日の先発は難しかったため、登里享平が離脱している中、最初は旗手怜央が左サイドバックを担当しますが、リーグ戦ほどのパフォーマンスができなかった旗手に代わって67分に登場してからは本職ならではの安定したプレーを披露しました。

J3を制した秋田が堅実に守っていたため、現時点での最強布陣によるJ1王者の圧倒的な強さ、貫禄を披露するには至らず、2点目を取るのも83分までかかってしまいました。ゆえに試合の行方が決まってからの投入が予定されていたと思われる中村憲剛の出番も短くなりました。

とはいえ、ノックアウト方式の天皇杯。どういう形であれ勝つことが重要です。タイトルのためには勝ち続けなければ意味がない大会ですから、決勝のガンバ大阪戦も同じように戦っていくしかありません。

大島、車屋の復帰、そして危なげなくシュート1本に抑えて公式戦では1ヵ月ぶりに完封した守備陣。国内でまだ獲得していないタイトルに向けての好材料は揃っています。


苦労した試合でした。特に前半は柏の術中にはまり、思うようなプレーができませんでした。

ボールホルダーに高い位置から激しいプレッシャーをかけられ、奪われると中距離のパスに威力と精度を備えているクリスティアーノ、そしてマイケル・オルンガを生かしたカウンターを発動させられました。

前回対戦では仕事をさせず、前半だけで退いたオルンガは、今回大きな脅威となって立ちはだかります。守田英正のパスが甘くなるとかっさらわれ、チョン・ソンリョンはきわどいプレーを選択せざるを得なくなり、最終的に14分には柏陣内から一気の攻めでオルンガに仕留められます。

柏のプレスは落ちることなく続き、たびたびサイドチェンジを用いながら打開を図るものの得点を取れないままハーフタイムを迎えました。

後半頭からは家長昭博、三笘薫を投入。攻撃の意識を強めて臨むはずが、開始1分足らずでボックス内での守備対応の甘さから瀬川祐輔のゴールを許してしまいます。

それでも直後に田中碧のコーナーキックを家長が合わせて1点差に詰め寄ったことで流れを引き戻します。

柏は前半とはスタンスを変えており、プレッシャーの強度を維持するよりはブロックを敷いて構える戦いを選択。ビルドアップの難しさは緩和され、川崎はボール保持がしやすくなります。

また家長が適切な場所にポジションを移動し、ときには下がって受けるなどするため、前半はベンチからの指示を受けるほど積極的に出られなかった旗手怜央が前向きにプレーするようになりました。

戦局が変わり、ペースを握ったことで、結果的にキム・スンギュのミスを誘ってレアンドロ・ダミアンの同点弾が生まれ、同点での逃げ切りを図る柏になおも襲い掛かることで家長の逆転弾につながります。

終盤は三笘に得点を取らせようとする意図がチームから見えたものの実らず、逆にややバタバタしますが、クロスバーにも助けられて勝利を収めます。連勝が途絶えて以来初めてとなる2連勝を飾って、リーグ戦を締めくくることができました。


11分に興梠慎三にPKを決められ、ここ2試合の悪い流れを引きずるような立ち上がりとなりましたが、終わってみれば今シーズンの川崎らしい逆転勝利でタイムアップを迎えました。

前半は三笘薫を中心に攻めつつ、コーナーキックからジェジエウのヘディングで二度惜しい場面がありましたが無得点に終わり、ハーフタイムでの修正を余儀なくされました。後半になってからの川崎はセカンドボールへの意識が高くなってボール回収に成功する数が増え、また攻撃時には中盤の選手もより積極的にゴール前に顔を出すようになりました。

後者に関しては、前半は小林悠が孤立する場面が多く、サイドを使って浦和ゴールに近づいてもそこからの展開に苦しんでいました。加えて早い段階でリードしたことで浦和がブロックを形成し、押し込まれるとボックスの中に人数をかけて守っていたため、たとえクロスを上げたとしてもはね返されるばかりで、小林一人ではいかんともしがたい状況でした。

メンバー交代を行わず、意識づけの変化によって川崎は息を吹き返します。53分、アンカーとしてこの日はビルドアップ時にセンターバックの間にしきりに下りていた守田英正が、ペナルティエリアの手前から美しいシュートを放ち、同点に追い付きました。守田にとってはJ1初ゴールでした。

得点を取られたことで浦和は攻めに出ていくようになります。必然的にこれまでとはバランスが変わり、スペースが生まれやすくなるため、川崎の攻撃力が存分に発揮されていきます。

59分には三笘が新人選手の最多得点記録に並ぶゴールを奪います。山根視来のクロスが上がると小林が相手DFを引きつけたため、フリーの三笘は冷静にかつ丁寧に頭を合わせることができました。

とどめは中村憲剛のターンしながらの絶妙なラストパスから生まれます。小林は大事なボールを渡すまいと、橋岡大樹より一歩先にボールに触れるべく体を投げ出して合わせました。リーグ戦では現役最後のホームゲームとなるこの試合で、川崎のバンディエラは自身のクオリティの高さをピッチ上で表現してみせ、小林がそれに応えました。

残り時間は30分ほどありましたが、そこからの川崎はボール支配を強めます。強引な崩しが必要なくなったため、サイドで細かなパス回しを続けて浦和を焦らせます。

こうして危なげなく逃げ切りに成功し、チャンピオンチームの強さを見せつけました。


個々としては局面で奮闘していました。それでもチームとして、組織として川崎の強さを見せられたかというと疑問が残ります。

確かに鳥栖のパフォーマンスがよかったというのもありました。ビルドアップでは前の清水エスパルス同様に中盤の3人に厳しくつかれて手詰まりになりがちでした。ときどき脇坂泰斗や田中碧がセンターバックの横に下がってみせたものの、大きな変化を起こせません。

また三笘薫、家長昭博に訪れた決定機は朴一圭に阻まれました。その一方でボックスの中までボールを運びながら無駄に手数をかけてしまい、シュートを打つタイミングを逃す場面もいくつかありました。

結局、チャンスの多くはカウンターによるもので、崩し切って圧倒する形はあまりつくれませんでした。連動、連携の面では物足りなさがありました。

先制点はセットプレー、コーナーキックからの流れで残っていた谷口彰悟が挙げました。脇坂がボックスの手前で余裕をもってクロスを上げられる状態になり、完璧なボールが供給されました。

これが57分のことでした。それまでに得点を奪いきれなかったことが結果的に大きく響きます。

ベンチワークも後手に回りました。チーム状態がいい試合はスタメンを引っ張るケースも少なくないものの、この日は決してそうではなく、またミッドウィークに試合を控えている点を考えても、早目に動いてよかったはずですが、レアンドロ・ダミアンと長谷川竜也が送り込まれたのは67分でした。

最終的に終了間際にレンゾ・ロペスに同点弾を叩き込まれ、せっかくのリードを追い付かれてしまいます。清水戦より安定感を取り戻したジェジエウのクリアが不発に終わり、ゴール方向にボールを飛ばしてしまいました。

アウェイ2連戦はともに引き分け。連勝街道を走っていたころの面影は消えつつあります。

唯一の光明は、左サイドバックを務めた旗手怜央です。負傷による本職不在の危機的状況で任された背番号30は、絶妙なターンで相手をはがしたり、鋭すぎるクロスを小林悠に送ったり、さらにはコーナーキックのセカンドボールを強烈なミドルシュートで返したりと十分な働きを見せました。

リーグ戦は残り2試合。王者としての強さを取り戻すことができるでしょうか。


二度のビハインドを追い付いてみせました。後半アディショナルタイムには怒涛の攻撃で勝利をつかみにいきました。首位としての意地を感じさせるプレーもありましたが、優勝したチームが陥りがちな穴に川崎も落ちていました。

タイトル奪還を決めたガンバ大阪戦から、負傷と思しき車屋紳太郎と大島僚太を代えただけの11人を鬼木達監督は選択しました。順位は確定しても、貪欲に勝ち続ける姿勢がうかがえる人選でした。

序盤はヘナト・アウグストを中心とした清水の選手が川崎の中盤3枚にタイトについており、ボールは保持しているもののビルドアップで中盤につけることに苦労していました。

それでも田中碧、脇坂泰斗は中央にとどまるのではなく、適宜サイドに近い位置にポジションを移すことで相手を混乱させます。田中の同点弾は左サイドに大きく開いたところから、守田英正、レアンドロ・ダミアンと絡んで生まれました。

攻撃面の微調整はそれなりに効果を発揮しましたが、守備ではたびたび脆さを見せました。カルリーニョス・ジュニオの先制点は、ジェジエウのパスミスがきっかけでした。普段は頼れる背番号4はこの日、前につける中距離パスのほとんどがミスとなっており、後半は無難なパスを選択したものの、77分に山村和也と交代することとなります。

前半の清水には数々の決定機をつくられ、チョン・ソンリョンや谷口彰悟、ジェジエウが最後のところで堪えるシーンが目立ちます。それにも限界はあり、40分の相手フリーキックではカルリーニョス・ジュニオのハンドを主張すべく動きを止めたためにヘナト・アウグストに勝ち越しゴールを許しました。山根視来がクリアに走るも間に合いません。

悔しさを抱えていたであろう背番号13は、89分に試合を振り出しに戻す得点を奪います。味方が持ち場のサイドでボールを動かしている中、ボックスに入り込んで決めました。

同点に追い付いた要因としては、川崎を苦しめたヘナト・アウグストと竹内涼がともに83分にベンチに退いたことも挙げられます。中盤センターの強度に変化が生まれ、攻撃がしやすくなりました。

こうして勝ち点1は確保しましたが、川崎に限らず優勝した後の試合というのは、どこか気が緩んでしまうのか勝ち点を落としやすい傾向にあります。ここから悪い流れにはまり、天皇杯のパフォーマンスにも影響が出ないように気を引き締めなければなりません。


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