22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2020年10月

マテウス、金崎夢生といった明確な武器を持つ名古屋は決して簡単な相手ではありませんでした。それでも川崎は選手全員が攻守においてすばらしいプレーを見せ続けて完勝しました。

この日の鬼木達監督は三笘薫を最初から使うなど、現有戦力で出し惜しみのない、先手を取る意欲にあふれた11人を並べました。そして彼らが期待に応えます。

特に三笘は立ち上がりからドリブルで名古屋のDFを押し込む役割を果たし、川崎のペースをつかむのに大きく貢献しました。

次第にチーム全体が調子を上げていき、ペナルティボックスの幅で選手が密集しながらパスをつなぎ続ける芸当も披露。フィニッシュこそ決まりませんが、圧倒的な組織力、技術を発揮します。

結果として得点自体はすべてセットプレーを起点としていたものの、こうした流れの中での美しく鋭い崩しが少しずつ相手にダメージを与えていきました。

そして44分、キッカーを田中碧に変えたコーナーキックを谷口彰悟が当て、流れたボールを三笘が押し込み先制。57分には中村憲剛がフリーキックを直接狙わず、ジェジエウが合わせて加点。

さらに65分、ベンチに戻ろうとする阿部浩之と健闘を称え合ったあとにショートコーナーを使った中村が左足で浮き球を供給。再びジェジエウが合わせて試合を決定づけます。前節は自分達がメンバーを代えた直後に得点しましたが、今回は相手のメンバー交代の直後にゴールを奪ってみせました。

その後、交代で入った齋藤学、脇坂泰斗で決定機をつくるシーンもあり、タイムアップまで得点の可能性を感じさせました。

一方で守備、とりわけ重要なゴール前のそれに関しては、ファウルをもらう動きにも優れた金崎にはあまりタイトに張り付き過ぎないように努め、マテウスには突破を許すまいと最終ラインの選手が最後まで奮闘しました。山根視来は1対1でマテウスの阻止に成功し、結果的にマテウスのポジションを左サイドから右サイドに変えさせることとなりました。

この試合のパフォーマンスレベルの高さは、日程変更によって次の試合まで2週間近く空くことも影響しているかもしれません。いずれにしても、アウェイでやられた借りを返そうという気迫がこもったゲームでした。


互いにシュートを打ちあった試合は、開始2分、広島が茶島雄介のすばやいスローインから決定機をつくったように、川崎も最後まで集中を切らさずに得点を重ねて勝利をものにしました。

先制点は旗手怜央、三笘薫が入った直後でした。家長昭博がインサイドハーフにポジションを移し、広島としては配置の確認が必要とされる場面ではありましたが、その余裕を与える前に登里享平が森島司をはがして左サイドをドリブルで駆け上がります。登里は一度中央を確認してからレアンドロ・ダミアンへの完璧なクロスを入れます。背番号9はきっちりと頭を合わせてゴールネットを揺さぶりました。

後半アディショナルタイムの2点目もしかり。同点に追い付きたいとはやる気持ちを抑えられない広島に対し、家長が右サイドを持ち上がってファウルをもらいます。そのリスタートで広島陣内に人数をかけ、旗手が体勢を崩しながらマイナスのパスを出して三笘がフィニッシュ。ファーサイドは相手選手がおらず、がら空きでしたが、三笘はニアサイドを突いて打ちました。

そのほかにもチョン・ソンリョンからレアンドロ・ダミアンへの一気のパスで広島ゴールに迫るシーンが前半にありました。帰陣されて5-4-1のブロックで構えられると攻略が難しい中、相手が攻めた後を抜け目なく突いた形です。

松本大弥とエゼキエウが同時投入された73分から約10分間は広島に押し込まれ、前節のベガルタ仙台戦同様に苦しい終盤となりますが、小林悠投入で一旦流れを引き戻しました。

ただ、その小林がピッチに入ってすぐに接触のない場面で負傷。チームトップの12得点を挙げるエースの離脱は、レアンドロ・ダミアン、三笘薫という別の得点源を持っている川崎であっても、今後に向けての大きな不安材料と言えます。

ともあれ最後まで油断のできないゲームをクリーンシートで終えたことで、シーズン2回目となる10連勝を達成しました。次は前回の連勝を止められ、今シーズンのリーグ戦で唯一の黒星をつけられた相手、名古屋グランパスとの対戦です。


ルヴァンカップ準決勝敗退を引きずるような悪い流れをつくらないためには重要な一戦でした。それだけに1-0で逃げ切ったことは非常に大きかったと言えます。

この日の中盤には、インサイドハーフでの起用が増えていた田中碧が久しぶりにアンカーを任され、その前に大島僚太と中村憲剛が並びました。3人とも攻守両面での働きが申し分なくできることもあり、田中碧が前線に飛び出すシーンも見られました。

試合は時間の経過とともに川崎が主導権を握り、サイドで立て続けにショートパスをつないで仙台を翻弄します。ただ得点だけは遠く、大島が右サイドから繰り出した絶妙なパスに合わせた小林悠のシュートもヤクブ・スウォビィクとポストに阻まれました。

膠着状態が続き、先制点が生まれたのは41分でした。これまでおもしろいように突破できたドリブルが研究されつつある三笘薫が仕掛けると見せかけてスルーパスを出し、それを受けた小林がシュートをねじ込みました。

後半は決定機こそつくれるものの追加点は奪えません。ペナルティエリア手前からの中村のフリーキックも、車屋紳太郎のクロスに小林がセンターバックと駆け引きしながら合わせたシュートも枠に嫌われました。

鬼木達監督は67分に家長昭博、齋藤学を入れててこ入れを図ります。対する木山隆之監督は71分に田中渉とともに長沢駿を送り込みました。前線はアレクサンドレ・ゲデスと長沢の2枚が立つこととなり、そこからは仙台の流れに変わります。

三笘との勝負に勝ってきた柳貴博、そして道渕諒平が川崎の左サイド深くに進入。ゴール前にラストパスを供給します。幸い、フィニッシュの精度を欠いたために事なきを得ますが、いつ失点してもおかしくない時間が最後まで続きました。

終盤は中盤の3枚を田中碧、守田英正、下田北斗で構成しつつ苦しい時間帯を凌いだことで、2位以下の上位陣が直接対決でつぶし合う中、勝ち点3を上積みすることに成功しました。


セレッソはタフに守ってきました。川崎のビルドアップ開始時、センターバックにはプレッシャーをかけないものの、彼らのそばに立つ守田英正には奥埜博亮、ブルーノ・メンデスの2人がついてパスコースを消し、その先のインサイドハーフには藤田直之、レアンドロ・デサバトがつくという形をとります。そしてサイドバックにボールが出ると、サイドハーフが襲い掛かってきました。

川崎は積極的にライン間にボールを出し入れしながらも流れの中での攻略が難しい状況で、セットプレーに活路を見出します。

37分、脇坂泰斗のコーナーキックの流れでクリアされたボール。それに反応した登里享平は単に蹴り返したのではありませんでした。ハイボールの先には、右サイドでフリーの脇坂が待っていました。脇坂がダイレクトでゴール前に入れると、その先にいた小林悠を警戒した瀬古歩夢がボールに触れてオウンゴールとなります。

そこから2点目に至るまでは時間がかかってしまいました。大島僚太と三笘薫を投入したのは、ジェジエウと谷口彰悟の間に立った奥埜に同点弾を許した直後。ハーフタイム明けに一気にリードを広げたいはずが、セレッソに追い付かれてしまったのです。

同点になってからの巻き返しに奮起したのは、ベンチから投入された選手達でした。大島は攻撃面のコントロールのみならず、守備面でも大きく貢献。イエローカードをもらう結果にはなりましたが、キム・ジンヒョンにプレッシャーをかけてゴールを奪おうとするプレーは象徴的なシーンでした。

83分のレアンドロ・ダミアンの決勝点は、先制点同様にコーナーキックからでした。セカンドボールを豪快なシュートに変えた旗手怜央の一撃がキム・ジンヒョンを襲い、こぼれ球にレアンドロ・ダミアンが詰めました。

最後は左サイドを主戦場とする三笘が中央に絞り、山根視来が粘って送ったボールに合わせてだめ押しゴールを奪います。川崎が再びリードした直後に柿谷曜一朗をはじめ3人を同時に送り込んできたセレッソの戦意を削ぐ貴重な1点です。

この試合では守備陣の奮闘も見逃せません。常にギリギリの局面で阻止するプレーが光るジェジエウだけでなく、谷口、登里、守田も大事な場面で体を張り、自陣での危機的状況を足を伸ばして防ぎました。

今シーズン最大の山場と言える6ポイントマッチを制した川崎。残り13試合に対し、2位セレッソとの勝ち点差は14となりました。


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