22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2020年03月

とにかく失点をしない。苦手なサイド攻撃を封じたい――。狙いは様々あったでしょうが、センターバックタイプを最終ラインに4人並べて挑んだアメリカ戦は、3失点に終わりました。

自分たちのいい部分を出すというより、守備的な意識を強めたメンバー構成がチームの勢いを削いでしまいました。前半は相手が飛ばしてきたこともあり、ミス絡みでの失点を重ねます。

先制弾となるミーガン・ラピノのフリーキックを与えた原因は、左サイドハーフで起用された田中美南が自陣でのミスを挽回しようとして犯したファウルでした。

2失点目は山下杏也加が土光真代に向かって蹴ったボールが短く、ラピノにカットされたところから始まりました。ラピノはすばやくクリステン・プレスに預け、熊谷紗希と南萌華の間に立ったプレスは山下の頭上を越える軌道のシュートを放ちます。

南はサイドを走るトビン・ヒースが気になって詰めが甘くなり、ヒースを見るべき左サイドバックの三宅史織は中央への絞りが遅れてしまいました。ミスがきっかけのため難しい場面でしたが、もう一歩切り替えが早ければ、ブロックしきれたかもしれません。

同じような過ちを繰り返しつつも、選手は反撃の意思を見せました。後半頭から岩渕真奈が入るとそれが形に現れ始め、岩渕に引っ張られるように籾木結花もドリブルで密集に突っ込むようになり、杉田妃和はボール奪取能力の高さ、攻撃参加の意欲を見せだします。加えて最終ラインの熊谷から縦につけるボールもつながるようになりました。

前の2試合よりも相手ペナルティエリアへの進入が増え、アメリカの運動量が落ちて後ろ向きに走るようになったのも手伝って、流れの中から岩渕のゴールが生まれました。

その後、コーナーキックから失点はしたものの、大会初戦からこのサッカーができていれば、失いかけていたなでしこらしさを取り戻し、全敗という最悪の結果は避けられたかもしれません。

結果的にスペインの圧力に屈して及び腰になったことで、すべてのリズムが崩れてしまいました。オリンピックが短期決戦であることを考えると、今回と同じようなミスはできません。

最後の45分にかすかな希望を見出した大会ではありましたが、欧米の強豪への苦手意識はやはり払拭しきれませんでした。


残り時間7分での失点から立ち上がる力はありませんでした。残念ながらなでしこジャパンではかつてからパターン化している形でゴールを奪われたことによるショックは大きく、反撃できないままあっさりとタイムアップを迎えました。

エレン・ホワイトの得点につなげてしまった三宅史織のミスは、イングランドの狙い通りでした。前線の3人が日本のビルドアップのミスを予測。杉田妃和と両センターバックを追い詰めることでパスコースを限定させつつゴールへの道筋をつくります。日本はその罠にまんまと引っかかってしまいました。

前の試合のスペインと比較すると、パワーとフィジカルは脅威としてあったものの、プレッシャーの強度はやや落ちるイングランド。それだけに反省を生かして90分戦い抜かなければならなかったのですが、あと一歩足りませんでした。

無得点に終わった攻撃は、またしてもミドルレンジからのシュートが多くなりました。シュートで終わるのは悪くないとはいえ、怖さを与えられない時点で多用するのはあまり意味がありません。

それ以外では守備時は4-1-4-1で構えるイングランドに対して、サイドでボールを動かしてクロスを入れても高さのあるセンターバックにことごとくはね返され、中盤を飛ばして最終ラインの背後を狙ったパスもなかなか効果的な形になりませんでした。

後半途中から入った植木理子は、高倉麻子監督の指示があったのか、はたまたピッチサイドから見ていての自身の判断なのか、ペナルティボックスに入って攻撃を完結させる意識を持っていましたが、チーム全体には浸透しませんでした。

スタメンの大幅入れ替えは、疲労を考慮しての指揮官の決断にも見えましたし、守備陣を変えて、籾木結花、田中美南といった選手を最初から起用することで新たな化学反応を期待したようにも見えました。

ところが終わってみれば同じような結末。オリンピックのグループステージはよほどのことがなければ突破可能だとして、その先のメダルが見える戦いができているかといえば、まったく見えない状況です。


44分、清水梨紗の低く鋭いパスをダイレクトでループシュートにした岩渕真奈の判断、技術は見事でした。岩渕についていたアンドレア・ペレイラもローラ・ガジャルドも完全に裏をかかれました。劣勢に立たされる中での同点弾はチームを勇気づけるものとなります。

ただ、前回対戦と同様の狙いをもって戦うスペインを抑えることはできませんでした。日本のビルドアップにも容赦なく襲いかかり、即時奪回の意識が極めて高いことはわかっていたはずです。そうでなくても、この日ピッチでプレーしながら感じられたはず。それでもみすみす得点を許す形を繰り返してしまいました。

厳密に言えば、立ち上がりからスペインに比べてボールを持ったときの判断スピードに遅れがあり、どうにか前半を戦いながらその速さにアジャストしつつはありました。それをハーフタイム明けも続けられなかったことが結果的に大きな敗因となります。

交代枠が6人分あったことから高倉麻子監督が手当てを施し、最終ラインに宮川麻都、さらにはセンターバックに三宅史織を入れてもディフェンスは強化されませんでした。

脆弱なディフェンス陣を相手に2得点を奪った途中出場のルシア・ガルシアは、機敏なタイプのトップではありません。それでもアタッキングサードでのボールをめぐる競争においては爆発的なスプリントを見せました。彼女ほどの貪欲さが日本には足りませんでした。

攻撃面では岩渕のスーパーなプレー以外にチャンスがつくれなかったわけではありません。期待された田中美南にも味方がコースをつくる動きをしたことでシュートチャンスがめぐってきました。しかし、全体的には手詰まりな中でのミドルシュートが目立ち、セットプレーを除いてゴールの可能性の高いエリアまで進入してフィニッシュする形はほとんど見られませんでした。

また、なでしこジャパンが形として持っているサイドバックが絡んだ攻撃も、試合終盤になるまで披露できずにいました。前半に遠藤純が押し込まれた分、同じポジションを務めた宮川には期待がかかったはずですが、サイドを深くえぐるまでには至りません。

大半の時間、相手に思い通りのサッカーをさせてしまった日本。苦しいオリンピックイヤーの船出となりましたが、同じく初戦を落としたイングランドとの戦いでは頭と体をフル回転させて挑んでほしいものです。


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