新しい国立競技場での決戦は、クラブ初のタイトルがかかっているとはいえ勝者のメンタリティを備えた選手を擁する神戸と、クラブとして20ものタイトルを獲得している鹿島の激突となりました。

序盤は鹿島が押し込んでいたものの、それを凌ぐと神戸が主導権を握ります。鹿島のトップの選手は神戸の最終ラインと飯倉大樹のボール回しに圧力をかけないため、ビルドアップがスムーズに進んでしまいます。

そこから左ハーフスペースを主戦場にするアンドレス・イニエスタに預けてスイッチが入る格好になっており、背番号8のボールキープ力、展開力の高さで鹿島を大きく上回ります。クォン・スンテの立ち位置を見てロングシュートを放ったりもしました。

最初は右ウイングに構えていたルーカス・ポドルスキも次第に左にポジションを変えます。そこに酒井高徳が絡んでの攻撃が神戸にとっては主体となっていました。

先制点は鹿島ゴール前で酒井とポドルスキがともにボールに迫り、ポドルスキが蹴り込んだクロスをクォン・スンテが弾くも犬飼智也に当たったことで生まれました。

流れをつかんだ神戸は左偏重になりすぎないように右からの攻撃にも重きを置き、時折イニエスタが山口蛍とポジションを変えるなどしており、追加点は西大伍のクロスに藤本憲明が合わせて決まります。

試合はここから鹿島がどう逆襲を仕掛けるかが注目され、大岩剛監督は後半開始から動きました。土居聖真をハーフタイム明けに、山本脩斗を後半8分に送り込みます。

ただ、この日の鹿島は選手のコンディション不良が一部で伝えられており、実際、プレーの精彩を欠いていました。シンプルなロングパス、サイドチェンジがミスになり、タッチラインを割るシーンが目立ちました。

そうなると大きな展開を求めるのではなく中央を打開しにかかりますが、5-4-1で守る神戸の守備を崩すことができずにつかまってしまいます。イニエスタの相手のコースを消す動きも巧みでしたが、山口、西といった日本代表クラスの選手が汗かき役となって奮闘しました。

終盤に入りようやくサイドを大きく使った攻撃で神戸陣内深い位置まで入ってクロスを入れるところまでできるようになりましたが、フィニッシュワークに迫力を欠き、決定機が生まれません。鹿島らしいしぶとさ、憎らしさが表に出てこないまま時間が過ぎていきます。

試合が終わりに近づくと、勝利を確信したトルステン・フィンク監督はイニエスタを下げ、さらにポドルスキを下げて代わりに現役最後の試合となるダビド・ビジャを投入します。

後半のシュート数が2本にとどまった神戸でしたが逃げ切りに成功。天皇杯のタイトルを獲得するとともにAFCチャンピオンズリーグ出場権をも得ることとなりました。神戸はタイトルを取ったことでクラブとして見える景色が変わっていくでしょうし、野望に向かって大きな一歩を踏み出すことができました。