22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年11月

4失点を食らった前半は、シュートを打たれる前に勝負がつくシーンばかりで無抵抗に近い形で終わりました。

ポジションにはついているものの準備がまるで整っていない状態で、室屋成がジェフェルソン・ソテルドにクロスを上げられ、サロモン・ロンドンに決められてあっさり先制を許したところから悪夢の45分は始まります。

2失点目は日本の選手は揃っていながら、中央に固まっていたため大外に立つベネズエラの選手がフリーになっており、そこが気になってしまったのか注意力が散漫になり、最終的には簡単に中を破られて失点しました。

ロンドンのハットトリックとなる3失点目は、中盤でボールをダイレクトでかつ広く動かされた時点で勝負ありでした。振り回された日本守備陣はなすすべなくゴールを許します。

その5分後にもソテルドに決められ、試合はほぼ決まってしまいました。

この試合に向かうにあたり森保一監督は、疲労を考慮して吉田麻也、南野拓実ら海外組の主力を使い続けることをやめ、来月に迫るE-1サッカー選手権を視野に入れたメンバー選考を行いました。

そしてコパ・アメリカで若手を支えて軸になった柴崎岳、中島翔哉、そして川島永嗣をスタメンで起用。うまく選手を融合させてこれからの戦いに備えるはずでした。

その目論見が崩されての大量失点。親善試合とはいえあらゆる意味での準備不足は否めません。

後半はメンバーを代え、陣形をコンパクトにしてスペースを消し、中島の守備の負担を減らすべくトップ下に配するなどいくつかの修正を施したことでいたずらに失点を重ねることはなくなりました。

選手もプレッシャーを激しくかけるようになり、余裕をもってペースを落とし、前半ほどの圧力をかけてこないベネズエラとは対照的なプレーが続きました。

それでも奪えたのは相手に当たってコースが変わって決まった山口蛍の1点のみ。左サイドに流れた永井謙佑の見事な判断によるアシストから生まれたものでした。

45分を通じて積極性は見せていたものの、ペナルティエリアにいい形で入れたシーンは少なく、入れたとしても最後のところの球際で負けてしまっていました。

メンバーに変化の乏しかった先日のキルギス戦は内容含めて新鮮さに欠ける試合でしたが、選手を入れ替えたこの日はさらに収穫の乏しい一戦となりました。前半から後半のような戦いができていれば、もっと得るものはあったはずです。

この試合を踏まえ、おそらく国内組で編成されるであろうE-1で、韓国との戦いが避けられない大会でどれほど立て直すことができるのか。指揮官の手腕が問われることとなります。


日本にとって厄介だったのが、前半は岩渕真奈をマンマーク気味に見ていたアンカーのマーメロ・マクハバヌと最前線でスピードを生かした攻撃を仕掛けるクレツィナー・クガトラナくらいであったことを考えると、果たして十分な結果を残せたのかどうかは大きな疑問として残ります。

リーグ戦が終わったばかりの選手が大半で、ホームでのフレンドリーマッチに多くを求めるのは酷かもしれません。それでも得点に対する貪欲さ、ビルドアップやディフェンスにおける集中に物足りなさがありました。

得点は対格差を生かしたセットプレーからの熊谷紗希の待望の代表初得点と菅澤優衣香が相手DFのタイミングを外す形で放ったゴールにとどまりました。

後半はルーズボールをかなりの確率で日本が拾えていた割に、そこからフィニッシュへのつくりが甘くなり、攻撃が途中で止まるシーンが多く見られました。

個では左サイドにスタートポジションを置かれても縦横無尽に動き、攻撃の活性化を図ろうとした長谷川唯や、ハーフタイム明けからの投入でその長谷川とのコンビネーションからチャンスを生み出した籾木結花のプレーが光っていました。ただ、そんな彼女たちでさえ消えている時間があり、南アフリカを圧倒したとは言えません。

相手にはシュートを後半の2本しか打たれていません。それは日本の守備が完璧だったから、ではなく両者の力量差によるものでした。2本のうち1本は土光真代のミスがきっかけです。これはクガトラナのシュートがポストを叩いたために失点を免れます。

力の差があるにもかかわらず、その差の大きさを披露しきれなかった点は課題として挙げられます。目標の高さを踏まえると、果たしてこのマッチメイクが適切だったのかということにまで考えが及んでしまいます。

12月には身近なライバルとのE-1サッカー選手権に臨み、おそらく来年3月にはどこかの国際大会にエントリーするであろうなでしこジャパン。チームの成長のためにはこうした場を生かすほかなさそうです。


他会場も含め、結果次第ではAFCチャンピオンズリーグ出場権すら獲得できなくなってしまう状況下で、川崎はアウェイゲームながらすばらしい戦いを見せました。

鬼木達監督は現状で攻守両面においてベストのメンバーを選択。鹿島に比べて過密日程によるコンディションの問題はあるものの、万全の状態でキックオフを迎えます。

相手が首位を走るチームとあって選手たちの集中も高く、広島戦、浦和戦よりもさらにギアを上げてプレーを続けます。ワンタッチで一気に局面を打開する場面は多くなかった代わりに、短いレンジのパスを確実につないで隙をうかがいました。そうして最初の30分はペースを握ります。

ただ、ブエノを中心に永木亮太、レオ・シルバを含めた鹿島の後方6枚の守備は手堅く、容易には攻略させてもらえません。最近有効だったミドルシュートも打てませんでした。

するとそこから鹿島が圧倒し始めます。内田篤人、町田浩樹がペナルティエリア横まで運んでクロスを上げられるようになり、逆に川崎は大島僚太、守田英正がらしくないコントロールミスからピンチを招いてしまいます。

ハーフタイムを挟んで前後30分間、川崎はずっと劣勢に立たされました。それでも枠に助けられたり、絶体絶命の場面で車屋紳太郎がセルジーニョのシュートを阻むなどして我慢を続けました。

そうした中でつかんだ鹿島ゴール手前でのフリーキックを生かします。脇坂泰斗が下がったためキッカーを任された家長昭博のやわらかいボールを、巧みな動きで相手を外した山村和也がフリーでヘッド。待望の先制点を奪いました。

それから10分と経たないうちに決めたカウンターも鮮やかでした。阿部浩之が囲まれながらキープしてサイドに展開。流れの中で左サイドにいた守田が一気に前の小林悠へ。小林の安定した絶妙なトラップから持ち込んでのシュートはポストを叩いたものの、長谷川竜也が突っ込んでネットを揺らします。

残り20分を切って0対2。精神的に優位に立った川崎は、冷静に試合を進めます。タイトル争いをしているライバルのことを考えると是が非でも逆転したい鹿島をいなしてボールを保持。相手の焦燥感を煽ります。

前がかりの鹿島には押されていた時間帯ほどの脅威はなく、フレッシュな知念慶を入れて3点目を奪う姿勢を見せながら戦うことができ、露骨なボールキープをする必要性もありませんでした。

これで試練の3連戦は全勝でフィニッシュ。強いチームと対戦したからこそ出たハイパフォーマンスとも言えますが、同じ内容のプレーが夏場にできていればもう少し違った立場にいられたかもしれません。

また、勝つには勝ったものの、同時刻キックオフの試合でFC東京、横浜F・マリノスがともに勝ったため、2週間後、川崎がすでに消化済みの第32節で両者のどちらかが勝った場合、3連覇の望みは完全に絶たれてしまいます。

ディフェンディングチャンピオンとしては、どういう結果になったとしてもそのプライドにかけてホーム最終戦と今季最終戦で白星を獲得していくしかありません。


VARが導入されていたならば、柏木陽介のコーナーキックに対する守田英正のプレーはハンドとみなされ、浦和にPKが与えられていたはずです。ただ、川崎にとっては幸いなことに今シーズンのリーグ戦ではまだ使われておらず、同点にされるピンチを迎えることなく、後半33分にその守田のアシストから小林悠が見事に合わせて追加点を奪いました。

AFCチャンピオンズリーグ決勝を控え、メンバーを調整した浦和は5-4-1のブロックを形成。プレッシャーの開始位置も自陣に川崎の選手が入ってきてからというスタンスで来ました。

それでも3日前のサンフレッチェ広島同様、マギーニョのサイドを狙う意識は常に持っており、速く鋭いクロスを武器に持つ山中亮輔が襲いかかります。右サイドでつくっていた場合でも、ミドルゾーンでサイドチェンジを行い、最後は左で仕留める形を目指しました。

川崎はその対応に追われる形で家長昭博がしばしば戻らざるを得ない状況になったため、マギーニョは前半のみで交代。守田がそのポジションを埋め、大島僚太がセンターハーフに入りました。

それまでの間に脇坂泰斗が強烈な右足ミドルを決めて先制しており、パスで崩していくチームでありながら密集の中で放たれるミドルシュートが武器として機能しつつあります。

大島は珍しくなかなか試合に入ることができず、普段のような効果的なパスは少なかったものの、チーム全体の連動性は高く、得点を取るために攻めに出てきた浦和の逆を突いた攻撃で脅かします。

リードを広げてからの川崎は安定感がさらに増し、時間を有効に使っていきました。浦和は興梠慎三をも投入しましたが、背番号30に決定的なチャンスは訪れませんでした。

これで川崎は1試合消化が多い状態で無事に勝ち点3を獲得。順位に変動はありませんが、鹿島アントラーズ、横浜F・マリノスとの決戦を控える中で、少なからぬプレッシャーをかけることはできました。


優勝という最高の結果を得られたものの、試合運びにおいては反省点もあったルヴァンカップ決勝。1週間前の激闘をふまえて、川崎は勝利を手繰り寄せました。

家長昭博、車屋紳太郎、さらには谷口彰悟までも出場停止で欠く苦しい状況の中、こちらも勝ち点3が是が非でもほしい広島がマギーニョのサイドを突きながら果敢に攻めてきたこともあり、川崎はホームでありながら手堅く戦うスタンスをとりました。

それでもフェイスガードをつけた田中碧のミドルで先制点を奪います。枠に当たってからGKに当たり入るという形は、先週北海道コンサドーレ札幌の菅大輝に食らったシュートを思い出させるものでした。このリードを守ってハーフタイムを迎えます。

さらなる試練は後半にありました。広島が190cmのレアンドロ・ペレイラを投入。前線のターゲットを増やし、奈良竜樹、山村和也のコンビで守るゴール前でのハイボール勝負を仕掛けてきました。川崎はカウンターで応戦しようとしますが、完結できないで終わるばかりとなります。

苦しさが増す中、前半は相手選手を手玉に取っていた大島僚太が後半15分でピッチを離れ、中村憲剛に至っては接触した直後にみずからプレー続行不可能のサインを出すアクシデントで交代を余儀なくされました。二枚看板の不在という、攻守両面において大きな痛手を負います。

耐えて耐えて残り時間が少なくなってきた後半37分、マギーニョが痛恨のミスを犯し、得点を奪うタスクを託されていたレアンドロ・ペレイラに同点弾を決められてしまいました。それ以前にあった新井章太と中村のミス絡みのピンチはいずれも防げましたが、今回は止められませんでした。またしても引き分けか、そんな空気が漂い出します。

それを払拭したのもマギーニョでした。失点からわずか2分後、一気呵成の攻撃で自陣から駆け上がり、コースを突いたシュートを叩き込みました。

タイムアップまではチーム全員でこの1点を守りに入ります。相手陣内で確実にボールキープをして、アディショナルタイムには鬼木達監督が知念慶を小林悠に代える手を打ち、札幌戦の二の舞にならないように時間を稼ぎました。

川崎はまさに一体となって勝ち点3の獲得に成功します。1試合消化の多い広島と勝ち点で並び、得失点差で上に立つことができました。上位3チームはいずれも勝利を収めており、その差を縮めることはできませんでしたが、引き続き食らいつくほかありません。


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