22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年10月

小林悠がボールを懐に収め、シュートを放って決めるまでの一連の動作はスローモーションのように見えました。それほどまでに完璧なシチュエーションであり、決定的なゴールだったはずです。

残り時間は2分とアディショナルタイム。勝利を確信した川崎サポーターの声には喜びの色が混ざっていました。相手陣内でのプレーが多かったものの、鈴木武蔵、チャナティップ・ソングラシン、ジェイ・ボスロイドを中心としたカウンターに幾度も冷や汗をかいた戦いを90分で終わらせられる間際まで来たのです。

ところが夏場以降のリーグ戦で低迷する川崎は試合巧者ではなく、後半のほぼラストプレーでコーナーキックから深井一希の同点弾を食らってしまいます。時間帯は大きく違いますが、スコアの推移は先日のガンバ大阪戦と同じです。

それまでの間に時計の針を進めることは可能でした。まず小林が得点する前から長谷川竜也がピッチに入ろうとスタンバイしており、その計画通りに交代を行い、一旦ピッチ上の選手たちの気持ちを落ち着かせることもできました。

実際には鬼木達監督はゴールが決まったことで長谷川投入を見送り、結局、同点に追い付かれたあとの延長頭にあらためて阿部浩之と代えることにします。

また札幌陣内のコーナーフラッグ付近で得た川崎のフリーキックでは、ボールを受ける家長昭博がオフサイドポジションにいたため、あっさり札幌にボールを明け渡すこととなりました。

こうした小さな判断ミスの積み重ねが、延長、PKまでもつれた原因となります。

そこからも川崎にとってはまさかの展開が続きます。VARにより、谷口彰悟のファウルが警告から退場の判定に変わって10人での戦いを余儀なくされ、そのときに与えたフリーキックを福森晃斗に沈められてリードを許してしまいました。

以降、流れの中では札幌優位で、ピッチの幅を広く使った相手に対して守勢に回る時間が多かった中、数的不利を挽回できるセットプレーで小林が同点ゴールを叩き込んで、PK方式で決着をつけることにするまではよかったものの、今度は4人目の車屋紳太郎が痛恨のクロスバー直撃。絶体絶命のピンチに陥ります。

それでも川崎サポーターを背にゴールを守った新井章太が、5人目、6人目をストップ。クラブとしても自虐的になっていたルヴァンカップ決勝の負の歴史にピリオドを打ちました。

現実的には今季獲得可能な主要タイトルはルヴァンカップしかないと考えられる中、これをしっかり勝ち取れたのは昨季、一昨季のリーグ王者だからこそと言えます。

もっとも、これほどまでの激闘を制した勢いで今後続く過密日程での難敵との対戦を乗り切れれば、ひょっとするとリーグ戦においても新たな光が見えるかもしれません。


右から田中碧、谷口彰悟、車屋紳太郎、下田北斗。登里享平の頭の負傷、山村和也の負傷による最前線での起用など、さまざまなアクシデントが影響した上での最終的なDFの並びを見ても、今の川崎の苦しさがうかがえます。

前半5分、依然として懸案事項である右サイドバックをこの日任された登里が襲撃され、小野瀬康介にミドルを打たれると、そのこぼれを渡邉千真に押し込まれました。これからリズムをつくっていこうかという矢先のできごとでした。

ガンバは守備時に5-3-2のブロックを敷き、中盤の3枚の間に前の2人が立つ形をとっており、中央とサイドの奥深いエリアは進入が難しくなっていました。また井手口陽介をはじめ、ボールホルダーへの寄せが非常に速く、タイトだったこともあり、前半の川崎は同点に追い付くことができません。

後半に入ってパススピードを上げ、相手を翻弄できるようになってようやく得点を奪います。同点弾はレアンドロ・ダミアンの落としに足を合わせた大島僚太。リーグ戦に復帰を果たした背番号10がガッツポーズとともに笑顔を見せます。

幸先よくハーフタイム明けに入れたことで勢いづいた川崎は、後半18分にレアンドロ・ダミアンが鋭いターンから逆転ゴールを奪いました。

しかし、希望が芽生えた得点の直後、小野瀬の正確なクロスに飛んだ倉田秋にゴールを決められてしまいます。せっかくのいい流れが潰えてしまいました。

追い付かれた際、倉田とその頭に頭をぶつけてしまった登里は交代を余儀なくされ、加えて右サイドバックでもしばしばプレーする守田英正をすでに下げていたことから、田中をそのポジションに置き、再び勝ち越すべく脇坂泰斗を投入します。

その後、家長昭博に二度の決定機が訪れるも、いずれも右足のシュートは枠を外れていきました。今シーズン初ゴールはまたしてもお預けとなります。

鬼木達監督は最後に下田を中村憲剛に代えて送り出し、脇坂を一列前に置いたものの、得点を奪うことはできませんでした。

上位のFC東京、横浜F・マリノスが勝ち点3を積んだため、1位から3位までが密集となる中、川崎はそこに食らいつけません。こうなるとAFCチャンピオンズリーグ出場権の確保すら危うくなってきます。


中島翔哉のクロスに南野拓実が頭で合わせた最初の決定機まで45分かかりました。だからといって闇雲にミドルシュートを放つことはほとんどなかったものの、日本は得点を奪えないままハーフタイムを迎えました。

前半は人工芝のピッチ状態を考慮してか、あるいはホームの観衆の大きな後押しを受け、勇敢に前からプレッシャーをかけてくるタジキスタンの選手を回避するためか、吉田麻也をパス出しの中心としてロングボール主体の攻撃を続けました。

モンゴル戦とは違う戦い方を選択しましたが、ボールを飛ばし、中盤を省略した攻撃は大迫勇也不在もあり効果的ではありませんでした。結果的に修正を余儀なくされます。

後半は一転してグラウンダーのボールを多用。ゴールはすべてサイドからのクロスから生まれましたが、そこまでの攻めは中央のレーンとハーフスペースを積極的に使うようになりました。

地上戦に変更したことでリズムが出て、後半8分、後半11分と立て続けに南野がゴールを奪います。先制点は前半終了間際のチャンスと同じく左の中島からのクロスに、追加点はボックス前でボールを動かしたあと、酒井宏樹の低い弾道のラストパスに合わせました。

以前からシュートの意識の高い南野ですが、これまでのように遠目からでも果敢に打っていくというより、得点の確率の高いペナルティエリアで勝負するプレーが目立つようになり、それが結果につながっています。

とどめは去年のワールドカップ直前で代表から外され、悔しい思いをした浅野拓磨が決めました。これも酒井からのクロスによって生まれており、モンゴル戦3アシストの伊東純也から続いて右サイドが日本のストロングポイントになりつつあります。

3点を失って2次予選トータルの得失点差がマイナスになったタジキスタンは、そこからディフェンスに重きを置いた戦いへとシフトしました。これ以上の大量失点は防がなければならないという意思が感じられます。

日本はリードを広げるまでに前後半一度ずつ、自分たちのミスが原因で被決定機をつくりましたが、権田修一の好守によって失点は免れ、クリーンシートで試合を終えることができました。真剣勝負であり、難しい時間帯もありながらも、順調に勝ち点3を積み重ねています。


開始当初こそ雑なクロスが目立って得点のにおいを感じさせないプレーが見られましたが、例によってほぼベストメンバーを並べた日本は順当に力の差を見せつけて大勝しました。

4枚のDFで中央を固めるモンゴルに対し、日本は中央からの攻撃を封印してサイド攻撃を徹底します。もちろん単純なプレーではなく、複数の選手が連動してボールを相手陣内の深い位置まで運びました。

プレッシャーがきつくないことからトレーニングのごとく美しくパスが回り、あとはフィニッシュだけというところまで追い込み、前半22分、伊東純也のクロスに南野拓実が合わせてゴールラッシュの口火を切ります。

右サイドの酒井宏樹、伊東のコンビは息が合っており、モンゴルの左サイドを機能不全にしました。結果、伊東のラストパスが効果を十分に発揮し、長友佑都の10年ぶりの代表でのゴールも生まれました。

その代わり酒井が下がったあと、安西幸輝に代わってからの右サイドは迫力を欠いてしまいました。もっとも2次予選のようなオフィシャルの戦いでなければ、こうした気づきも得られないということはあります。

また後半は日本のサイド攻撃を嫌がったモンゴルが左右のMFも最終ラインまで下げ、6バック気味に守ってきたためサイドの深い位置でスペースを確保できませんでした。ハーフタイム明けの得点が2にとどまったのは、サイドを封じられた場合に攻撃の仕方の切り替えがスムーズにできなかったことも挙げられます。

終わってみれば、途中投入の選手を含め、柴崎岳以外のフィールドプレーヤー全員がシュートを放つ結果となりました。ゴールへの意欲の高さは感じられましたが、スコアにきっちり反映されたわけではありません。

攻撃の精度を上げる。世代交代を進める――。最終予選に駒を進めるのはもちろんですが、このラウンドでは多くの課題を抱えながらもそれを解決しつつ、3年後を視野に入れた戦いをしていかなければなりません。


ここのところ停滞していた川崎にとっては胸のすくような快勝でした。

開始早々は湘南の強烈なプレッシャーにあい、思うようにプレーできませんでした。最終ラインにも容赦なく襲いかかってきたため、ビルドアップも簡単ではありません。

それでも我慢の時間は10分で済みました。そこからは湘南のプレスをはがす、速いパス回しによって完全にリズムをつかみます。そして前半15分、カウンターで得たコーナーキックの流れから家長昭博の右足のクロスに谷口彰悟が合わせるとそれが岡本拓也に当たってネットを揺さぶりました。

そこからはアタッキングサードでの縦方向へのパス出しが冴え、中村憲剛の今季2点目となるゴールも生まれます。この得点は阿部浩之のノールックパスを受けた登里享平が、DFを引き連れてゴール前に迫る小林悠ではなく、その後方をゆっくり走る中村に狙いを定めてマイナスのクロスを入れたことで勝負ありでした。

3点目は中村が相手の逆を突いたラストパスを供給。フリーで受けた阿部が余裕をもって打ち抜きました。得点差が開いたことで湘南の選手は意気消沈。5-4-1のブロックをつくるも、ボールの出し入れを続ける相手選手を見るというよりはとにかく自分のポジションを確実にすることに意識が向いているようでした。

ハーフタイム前に試合を決定づけた小林の鮮やかなゴールは、カウンターで家長が長い距離をドリブルで走ったことで生まれます。

後半、湘南の気持ちの切り替えはさほどうまくいっていませんでしたが、川崎もトーンダウン。無理をしないサッカーで堅実に時間を進めます。

余裕の出てきた鬼木達監督は鹿島アントラーズとのルヴァンカップ準決勝を視野に入れてか、家長、中村を休ませて脇坂泰斗、長谷川竜也を投入。脇坂は最初、右サイドハーフでプレーしましたが、中村が下がった際にトップ下に移ります。

その脇坂が放ったミドルシュートが秋元陽太に阻まれ、ポストを叩いたあと、PKのときのように時間が止まっていた中、長谷川がすばやく詰めて後半最初のゴールが決まりました。メンバーを変更した中でノーゴールに終わらず得点を奪えたのは、チームにとって非常に大きな成果です。

クリーンシートで終えた川崎は5対0と大勝。リーグ戦の残り試合は鹿島との直接対決を含めて難しい相手が続きますが、この勢いで勝ち点50台の上位3チームを追いかけるしかありません。


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