22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年08月

ウナイ・エメリ監督は中盤をダイヤモンド型にした4-3-1-2を採用。強力な3トップを擁するリバプールの攻撃を8人で阻止して、二コラ・ペペ、ピエール・エメリク・オーバメヤンのスピードを生かしたカウンターに活路を見出そうとしました。

しかし、中盤から前の選手が中央に固まる形をとったことによって、リバプールが誇る両サイドバック、トレント・アレクサンダー・アーノルドとアンドリュー・ロバートソンが駆け上がるスペースをつくってしまいます。必然的に単調な攻撃にさせたとはいえ、左右からのクロスの集中砲火を浴びる格好となりました。

アシストの多い両選手のクロス対応はかろうじてできてはいましたが、アーセナルはゴール前の守備を重視すべく引き気味で対応せざるを得なくなります。

結果、我慢に我慢を重ねて流れの中からの失点を避けていたものの、前半の終わりにアレクサンダー・アーノルドのコーナーキックにジョエル・マティプが合わせたヘッドで、後半の立ち上がりにはモハメド・サラーのPKでリバプールに得点を許してしまいました。

アウェイとはいえ、このままやられたままではいかないアーセナルは、自陣で待ち構えるのではなく得点を取りに全体を前に上げていきました。こうなると今度はリバプールお得意のカウンターの餌食にされます。

3失点目はファビーニョの長いグラウンダーのパスを受けたサラーにダビド・ルイスが軽くアプローチしてあっさり振り切られ、そのままゴールまで持っていかれました。ダビド・ルイスはPKを与えたときにサラーのユニフォームを引っ張ったことですでにイエローカードを受けていたため、強くは当たれませんでした。

終盤、アレクサンドル・ラカゼットを入れて3トップにしたあと、ルーカス・トレイラが一矢報いたものの反撃はここまで。リバプールが今季のプレミアで唯一となる開幕3連勝を達成しました。


川崎にとって、スコアの推移は前節のベガルタ仙台戦と同じでした。一旦は逆転を許し、かろうじて同点に追い付く。しかし逆転するまでの力はなく、勝ち点1を獲得するにとどまりました。これで5試合続けて勝ち星なしです。

序盤に清水に決定機をつくられ、チョン・ソンリョンの好セーブで凌いだものの、やや自信を失いかけていたチームを鼓舞したのは齋藤学でした。本来の持ち味であるドリブルをちらりと見せ、果敢に前線に向かっていきました。

チーム全体にいい流れができつつあった前半14分、齋藤が清水の最終ラインとの駆け引きに勝って入れた低いクロスをレアンドロ・ダミアンが合わせて先制します。

以降はカウンター主体でチャンスをつくり、マギーニョ、そして齋藤が抜け出すもシュートは枠を外れてしまい追加点は奪えませんでした。どちらかを確実に沈めていれば、せめて枠をとらえていれば、もっと余裕が持てたはずです。

調子のいいときほど危ないというものなのか、ドウグラスにフリーキックを沈められたあと、齋藤が右膝を痛めてしまいます。この日のキープレーヤーの無念の退場となり、代わって長谷川竜也がピッチに入りました。

清水は3ラインを形成して守るものの、川崎のビルドアップ時にはラインの間隔が開き気味になるため、パスを出しやすいシチュエーションができていました。そこでパスを入れると今度は密集しだし、清水守備陣のバランスは崩れがちでした。ただ、そこをさかんに突くだけの力が今の川崎にはありません。

そして、最初のパス出しでファーストディフェンダーをたびたび外していた谷口彰悟が痛恨のミスを犯してしまいます。清水の選手に囲まれていた守田英正へのパスをヘナト・アウグストにカットされ、こぼれ球を拾ったドウグラスが出したスルーパスにヘナト・アウグストが反応してフィニッシュ。ジェジエウがカバーに走りましたが及びません。

またしても追い込まれた川崎は、守田に代えてキャプテンの小林悠を投入。直後、中村憲剛の鋭い縦パスを馬渡和彰が受けて最後は小林が見事に沈めます。残り時間は10分強ありました。

中村憲剛のポジションが窮屈なトップ下からセンターハーフに下がったことで、比較的フリーな状態から効果的なパスを繰り出せるようにはなりました。それでもやはりチームとしての仕上げの部分の精度が高くなく、決定機を思うようにつくりだせませんでした。

首位のFC東京との勝ち点差は8のまま。2位の鹿島アントラーズにも1試合では追い付けない差があります。横浜F・マリノスに上回られて4位に転落した川崎は、3連覇の可能性が低下しつつあります。


福田晃斗を引きはがす酒井高徳の力強いドリブルや、トーマス・フェルマーレンの鋭いサイドチェンジをきっかけに後半も3点を奪った神戸でしたが、この日の勝利を大きく手繰り寄せたのは前半の緩急をつけたサッカーでした。

とりわけ前半30分台の神戸は完全にゲームをコントロールしていました。すでに3点リードしていることもあり、ミドルゾーン手前のあたりで軽いトレーニングでもしているかのようにゆったりとボールを回していました。

その中心にいたアンドレス・イニエスタが前半終了間際にドリブルをスタートさせた際、左太もも裏を負傷。3点目を奪った場面では視野の広さ、技術の高さをあらためて思い知らされる浮き球のワンツーからのサイドチェンジを見せ、例によって常にボールの預けどころになっていた背番号8が交代を余儀なくされたことで、リズムの変化は出にくくなりました。

さらに後半はホームの鳥栖が前半とは打って変わって高い位置からのプレッシャーをかけ出し、ビルドアップ時の余裕は奪われていきます。

それでもコーナーキックからの金井貢史の得点だけに抑えられたのは、この夏の補強で問題が山積みだった守備陣のてこ入れを行い、トルステン・フィンク監督が3バックを採用したことによってダンクレー、大崎玲央、さらにはその前のポジションを主戦場としていた山口蛍がディフェンスに振り回される場面が減ったことが大きく影響しています。

守備時には西大伍、酒井の両ウイングバックも下がるため、当然重心が低くはなりますが、そこから一気に前線に展開できるだけのプレーヤーを、そして古橋亨梧、ダビド・ビジャといった相手の最終ラインと勝負できるFWを有しているため、ディフェンシブにはなりにくくなっています。

ただ、再来週にインターナショナルマッチウィークを挟むとはいえ、イニエスタが数週間離脱することは避けられないため、不在の間に結果を残せるか否かがJ1残留のためには重要となります。

一方、大敗した鳥栖はこの試合でフェルナンド・トーレスが現役を引退しました。偉大なストライカーの最後としては悔しい結果に終わりましたが、リバプール時代の盟友、スティーブン・ジェラードのビデオメッセージから始まった引退セレモニーはスタジアムの雰囲気を含めて温かく、さわやかな空気に包まれていました。


サッカーというのは難しく、わからないもので、必ずしも優勢だから勝てるとは限らないのだとあらためて思い知らされるゲームでした。

ディフェンディングチャンピオンのシティは、開幕戦のウェストハム戦以上に圧倒的に攻め立てました。相手が相手だからこそ、キックオフから怒涛の攻撃でペナルティエリアにたくさんの選手がなだれ込む場面を継続してつくりだしていました。その努力、労力が後半アディショナルタイムにドラマチックな形で報われたかに思われました。

しかし、ケビン・デ・ブライネのコーナーキックを起点にしたガブリエウ・ジェズスのゴールは、VARによって直前のエメリク・ラポルトのハンドをとられてしまって認められず、試合は2対2のドローに終わりました。

シティが放ったシュートはスパーズの10倍。30本に及びました。うち3分の1が枠をとらえており、闇雲に打ったような、ゴールの可能性を感じさせないものばかりではありませんでした。自陣に押し込まれながらもウーゴ・ロリスを中心としたトッテナムの守備陣の奮闘に阻まれてしまったのです。

そうした中でデ・ブライネの右サイドに流れてのクロスが冴えわたっていました。ラヒーム・スターリングの先制点は浮き球でファーサイドを狙って、セルヒオ・アグエロの勝ち越し点は得意の高速クロスを繰り出したことで生まれました。

一方のトッテナムはハリー・ケインの超ロングシュートを除く2本のシュートをいずれも決め、非常に効果的な攻撃を披露しました。エリク・ラメラは1得点1アシストを記録、新加入のタンギ・エンドンベレはラメラのゴールにつながる見事なアシスト、そして途中投入のルーカス・モウラはすぐさま結果を出しました。

ルーカス・モウラの同点弾のあと、ペップ・グアルディオラ監督はガブリエウ・ジェズス、ダビド・シルバ、リヤド・マフレズを送り込み、ロドリを下げてイルカイ・ギュンドアンをアンカーの位置に下げるなど攻撃偏重の姿勢を明確にしました。ただ、指揮官の意図がわかった一方で、マフレズを筆頭に起用された選手が存分に力を発揮したとは言い切れません。そのあたりは誤算と言えるでしょう。

そう考えると引き分けは妥当な結果にも思えます。加えて終盤にはオレクサンドル・ジンチェンコが利き足である左足を負傷。スパーズとは対照的にすでに交代枠を使い切っていたため、懸命にピッチに残りはしましたが強いボールはほとんど蹴れませんでした。

まだリーグ戦が始まって2試合目ゆえにシーズン全体に大きな影響を与える結果ではないのが救いです。今季もカップを掲げるために難敵相手のドローをポジティブに考えて突き進むしかありません。


チーム事情が苦しくとも負けるわけにはいかなかった試合で同点弾をもたらしたのは、アウェイの大分トリニータ戦で決勝点を奪ったときの2人でした。

あのときとはアシストと得点者が逆でした。今回は内に入りたがる傾向の強いマギーニョがクロスを入れて、長谷川竜也が頭で合わせてゴールに結び付けました。この1点で勝ち点1を拾うことができました。

3試合勝ちのない川崎にとっては正念場でした。ジェジエウ、谷口彰悟を同時に出場停止で欠く非常事態で、ユーティリティな山村和也、車屋紳太郎をセンターバックに起用せざるを得なくなります。交代要員にも本職のセンターバックはいません。

先制点は田中碧が中央を切り裂いたことで生まれました。田中のパスを受けた阿部浩之は外を走る登里享平をおとりに使い、軽やかなターンからシュートを決めます。登里のランニングにつられた蜂須賀孝治は阿部を止めることができませんでした。

ここのところ本来得意なはずの中央を破る攻撃が見られなかった中で、ようやく個人の力によるところが大きいとはいえ形になりました。これが自信を取り戻すきっかけとなりかけ、川崎のボール回しと選手の動きにスムーズさが出てきました。

ただ、関口訓充の負傷交代で3バックに変更し、シマオ・マテとのマッチアップを余儀なくされた小林悠にボールを届けることがほとんどできず、攻撃の仕上げの部分に迫力を欠きました。

追加点を奪う、あるいは仙台に脅威を与え続けることができないでいると、長沢駿に2点を決められます。いずれも最終ラインの選手が絡んでの得点で、1点目は平岡康裕のロングボールに抜け出した長沢をペナルティボックスまで進入させ、うかつなファウルができない場所というのもあって山村が阻止しきれなかったために失いました。

また2点目は金正也の川崎陣内へのドリブルを誰も止められず、スルーパスを出され、長沢に決められました。パスを出した瞬間、マギーニョが残っていたためオフサイドはとれませんでした。

ユアテックスタジアム仙台の雰囲気にも飲み込まれ、敗色濃厚となりかけましたがそれだけは避けられました。その後、ミッドウィークの天皇杯には帯同していなかった中村憲剛を下げてレアンドロ・ダミアンを入れ、地道に崩そうとするのではなくハイボールで打開を図りましたが、決して得意ではない攻撃は実りません。

逆転負けを喫した場合に受けるダメージは大きかったであろうことを考えると、最悪の結果にはなりませんでした。しかしリーグ戦で勝ち点3をとれない状況は変えられていません。

次節、いい結果を出せていないホームで、清水エスパルスを相手にこの流れを止めることができるのか。幸い今節、当面ホームゲームがない首位のFC東京が敗れたため、トップを狙う道は閉ざされていません。


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