22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年07月

互いに現時点で選択できるベストの11人を送り込んでぶつかった一戦でした。

前半キックオフの笛が鳴る前の両者の立ち位置は、横浜も高いライン設定をしてはいたものの、シティのそれはさらに圧縮された10人のフィールドプレーヤーの並んでいる姿でした。こうした小さな差の積み重ねがシティの順当な勝利につながっていったとも考えられます。

シティの攻撃を支えたのは、ケビン・デ・ブライネでした。負傷に悩まされる期間が短くなれば、今シーズンもさらなる貢献が期待できるトッププレーヤーですが、この日の立ち上がりは決して万全とは言えないピッチコンディションに悩まされていたようでした。

それでもすぐにアジャストして、本来の持ち味を発揮。1ゴール1アシストの結果を残しました。

先制点は一見リスキーかつ脆弱なようで容易には大惨事に至らない朴一圭のところを狙って生まれます。クラウディオ・ブラボが流れの中でボールを保持している際、一気に横浜ゴールめがけて蹴ってしまうことも可能なほど朴一圭は高いポジションをとっていました。

さすがにそこまで大胆な選択はしなかったものの、前線のベルナルド・シウバを経由して、デ・ブライネに任せる形をとります。デ・ブライネは右足を切りに来た畠中槙之輔の逆をとり、左足で強烈なシュートを叩き込みました。左右両方を遜色なく使いこなせるがゆえのプレーで、切り返した瞬間に畠中はもうどうすることもできませんでした。

シティの2点目もデ・ブライネがドリブルスタートと見せかけてスルーパスを通し、ラヒーム・スターリングが朴一圭との1対1を冷静に対処して奪いました。このゴールが入る前にハーフウェイライン付近からのリスタートを起点にシティのライン間を突かれた波状攻撃で遠藤渓太の同点弾を許していたため、プレミア王者は再び勝ち越しに成功します。

その後のデ・ブライネはピッチを退く時間が近くなるころには左ウイングの位置でゆったりと歩くなど疲れの色が隠せなくなっていましたが、それまでは中盤で急激に速度を変えたドリブルを披露したりと随所で好プレーを見せました。

親善試合ではありましたが、ペップ・グアルディオラ監督は後半15分まで選手交代を見合わせました。そこで下げたのはベテランのダビド・シルバと、得点欲しさにやや強引な個人プレーに走りがちだったレロイ・サネの2人だけでした。代わりにイルカイ・ギュンドアン、フィル・フォーデンを送り込み、戦力は落としません。

リバプールとのコミュニティシールドを約1週間後に控える中、後半30分以降、ようやくデ・ブライネをはじめ主力が下がって代わりに多くの背番号の重たい選手が出てきました。それでも後半アディショナルタイムに1点を決めて試合を決定づけます。

横浜は序盤になかなかペナルティボックスに入れず苦労していて、三好康児がカイル・ウォーカーとの1対1で難なく負けるなどしましたが、1点取れたことで選手全員が場の空気にも慣れ、周囲をきちんと見られるようになってきて、複数の選手が動いて空いているところにボールが出るようになりました。

またウイングの仲川輝人と遠藤にシティのサイドバックよりもさらに外側のポジションをとらせ、彼らを生かした効果的な攻撃もできるようになります。

ただ、いかんせんフィニッシュの精度が足りず、ゴールの枠の中に蹴り込めば得点という決定機を3、4回つくりながらブラボの好守もあって決められませんでした。あのあたりのコントロール、冷静さが高まっていれば、このフレンドリーマッチはどうなっていたかわかりません。

同じ方向を進んでいると言われる両チームですが、横浜には現体制、アンジェ・ポステコグルー監督のもとでのタイトル獲得がもう一歩先へと進むために必要なのかもしれません。


連敗を阻止するために準備してきたはずの神戸でしたが、ミスが命取りとなり完封負けを喫しました。

トルステン・フィンク監督はアンドレス・イニエスタをより前の方でプレーできる本来のポジション、インサイドハーフに置き、横浜の4-2-3-1と中盤がかみ合う4-3-3を採用。アンカーの山口蛍にマルコス・ジュニオールを、古橋亨梧にはハーフスペースにポジションをとることも珍しくないティーラトン・ブンマタンをケアさせます。

ときに朴一圭もセンターバックの間に立って行う横浜のビルドアップに対しては、積極的にプレッシャーをかけてチャンスをうかがいつつも、あまりラインが高くならないように注意していました。

それでも前川黛也がバランスを崩してボールコントロールを誤り、エジガル・ジュニオにボールを明け渡してしまい、そこからつながれてしまってはどうしようもありません。もっとも、山口と宮大樹が重なってしまって仲川輝人を止められず、大崎玲央がそこに加勢するためにエジガル・ジュニオをフリーにしてしまわなければ、防げた可能性はあります。このあたりの守備の判断ミスは清水エスパルス戦でも見られました。

2失点目となるPK献上の場面は、マルコス・ジュニオールがすばやい判断で給水をやめた仲川を走らせたところ、前川が慌てて飛び込んでいきファウルをとられてしまいました。この時点ですでにチアゴ・マルチンスは退場しており、神戸は数的有利な状況にありましたが、気を付けなければならないリスタートから失点に結び付けてしまいました。

横浜は10人になってから、最終ラインを高くとりつつDFとMFの間を極端に狭める形をとり、神戸に中央からの突破を許しません。そこで神戸はサイドチェンジを使ってピッチを大きく使おうと試みるも、そのパスが大きく緩やかなものになってしまい、効果的でスピーディーな攻撃にはなりません。

加えてマルコス・ジュニオールのPKが決まったあとに、フィンク監督は西大伍と宮を下げて小川慶治朗、田中順也を投入。FWを増やした攻撃的な采配、とはいえ小川はそのまま右サイドバックを任されるような役割で、なおかつそれでも前線は渋滞気味になり、チームとしての攻撃の形が曖昧になってしまいました。

こうなるとイニエスタ、ダビド・ビジャを擁していてもゴールを奪うのは困難になり、7分あったアディショナルタイムを生かすこともなく無得点のまま敗れました。


敵地での多摩川クラシコに快勝して意気上がる川崎が、シーズン前の調整段階にあるチェルシーと対戦。互いのゲームに対する温度差もありながら、日産スタジアムでの難しく膠着した試合を動かして勝利したのは誠実に戦い続けたJ1王者でした。

鬼木達監督は2列目の変更を一部にとどめ、日曜日に戦列復帰後初のフル出場を果たした中村憲剛をベンチに置き、その日は結果的に温存する格好となった家長昭博をトップ下に据えました。

サッリボールと別れを告げ、クラブのレジェンドであるフランク・ランパード監督が就任したチェルシーは、ジョルジーニョをアンカーに置く形ではなく、マテオ・コバチッチとともに横に並べる4-2-3-1を選択。開始15分ほどは観客がどよめくダビド・ルイスのサイドチェンジもありましたが、基本的には川崎にボールを持たせて様子を見ていました。

ミシー・バチュアイの枠外シュートをきっかけにして、ヨーロッパリーグ王者が牙をむき始めます。

川崎は人数をかけてのディフェンスを余儀なくされ、中盤は下田北斗、田中碧がせき止め役となり、その後方の最終ラインは普段のリーグ戦であれば1人で守れるところも谷口彰悟、ジェジエウの2人でようやく押さえ込む場面がしばしば見られました。

押し込まれる展開になると、必然的に攻撃においても自陣のミドルゾーンを突破するのに苦労します。体格のすぐれたチェルシーの個々の選手がカバーする範囲が広く、パスを出すのに迷ってしまえばすかさず詰められ、カウンターの場面もテンポがわずかに遅れただけでチャンスになりません。

試合はスコアレスで折り返し、互いに5人を交代させた後半はゴール前での勝負にかける、シュート意識の高いレアンドロ・ダミアンの登場で川崎の得点の可能性が高まります。

一方、チェルシーも代わって入ったオリビエ・ジルーが決定機に絡み、ワールドカップでも見せた絶妙なポストプレーを経てケネディのシュートにつなげ、直接フリーキックでは強烈な弾道で枠をとらえました。そのいずれも後半20分にチョン・ソンリョンと交代した新井章太が好セーブで阻みました。

湿気がまとわりつく7月のナイトゲームはこのままドローに終わりそうなムードになりかけますが、ピッチに出るためにベンチに走る中村憲剛の姿が見えると場内の雰囲気が変わります。

川崎サポーターが待ちわびたバンディエラは、歓声を浴びただけでは終わりません。大方交代は終わっており、時間も後半38分を迎えていましたが、守田英正が左サイドバックにまわって、空いたセンターハーフのポジションを任されたその時点からがスタートです。

中村はヴィッセル神戸でアンドレス・イニエスタが見せるような、飛んでも取れない高さを意識したパスを繰り出し、チャンスの起点となります。コーナーキックの獲得に結び付け、山村和也の鋭いグラウンダーのシュートがウィルフレード・カバジェロを襲うなどしてセットプレーが続いた後半42分、中村はボックスの中に走り込んで一瞬フリーになり、こぼれ球をやわらかく、高いクロスでファーサイドに送ります。

クロスを察知したダビド・ルイスも対応が間に合わず、ボールは待ち構えていたレアンドロ・ダミアンの頭に合いました。背番号9を見ていたエメルソンはクロスが自分のところに来るとは予想できていませんでした。ただ見送るだけとなり、川崎の決勝点となります。

チェルシーはジルー以外ではチームで最後にピッチを退いたケネディ、そして後半から入ったロス・バークリーの個の奮闘は見られました。その一方で新加入のクリスチャン・プリシッチはチームメイトとの連携がまだ確立されておらず、結果的には強烈なウイングの不在が大きく響いて、川崎のサイドを翻弄するには至りませんでした。

逆に川崎はこの興行にも勝って、いい流れを持続させたまま次週の大分トリニータ戦に臨むことができます。


東慶悟が激しいチャージをすれば、中村憲剛、齋藤学は深いタックルを仕掛ける。首位を争う両者の一戦は4万人を超える観衆が見つめる中、テンション高く始まりました。

ほかの多くのチームが試みるように東京は当初、前線からのプレッシャーをきつめにしていきました。立ち上がりは川崎にリズムをつくらせないようにするためでしょう。次第にブロックをつくってタイトな守備をする方向にシフトします。

ジェジエウのヘッドがクロスバーを叩く決定機を生み、小林悠がJ1通算100得点目を決めたのはいずれもコーナーキックからでした。流れの中での川崎はDFとMFの間が狭い東京の守備網攻略に手間取ります。

そのライン間にボールを出すのは難しく、中村が下りてきたり、ポジションを変えたり、また田中碧が少ないタッチ数で鋭いパスを出すなどしますが、なかなか崩せません。

前節のサガン鳥栖戦のように左サイド偏重になりかける時間もあり、やや単調さを見せたまま前半は0対1で折り返します。

しかしそのままの流れで戦い続けることを川崎は選びません。後半は選手が連動した一気の攻めで壊しにかかります。

待ち構えている相手を引き続き中盤でのパスワークで崩すというよりは、態勢が整いきらない間にゴール前になだれ込んで仕留める。これを徹底しました。そうすることで東京の最終ラインまですばやく突破することができ、ゴールに近づけます。

復調した中村が橋本拳人を翻弄し、齋藤の2点目につなげた場面もさることながら、試合を決定づける3点目の一連の流れは見事でした。

齋藤が抜け出しての林彰洋との1対1は林に軍配が上がったものの、周囲に味方がそろっていたため森重真人はこぼれ球を近くの小川諒也に預けようとしました。そこを狙っていた阿部浩之がボールを奪取。ボックス近辺で電光石火のパス回しをして翻弄し、最後は阿部がコースのないようなところを狙いすまして決めました。

東京は東が右サイドハーフを任されていた時間でもハーフスペースや中央にポジションをとったり、その代わりに高萩洋次郎が右サイドの上がり目に出たり、室屋成が流れの中で逆サイドまで走ったりと、数的優位をつくって相手を混乱させる動きをしていましたが、川崎は落ち着いて対処しました。

また得点力のあるディエゴ・オリヴェイラ、永井謙佑の2トップに関しては、序盤にディエゴに一度フリーでシュートを打たせはしたものの、主にジェジエウ、谷口彰悟が持ち味を生かして自由を与えず、シャットアウトします。

1試合消化が少ない川崎は、東京との勝ち点差を4に縮めました。未消化のサンフレッチェ広島戦がどのような結果に終わるかはわかりませんが、価値ある、大きな1勝を挙げました。


前半15分、前半48分、後半45分。ブラジルが得点を挙げたのはいずれも理想的な時間帯でした。

1点目と2点目の流れは美しさを感じさせました。先制点は大会MVPに輝くダニエウ・アウベスが、ペルーの最終ラインと駆け引きをするガブリエウ・ジェズスへパス。今大会はロベルト・フィルミーノと併用されだして以降、右サイドをスタートポジションとするジェズスは、機敏な切り返しからファーサイドにクロスを入れ、それをフリーのエベルトンが決めました。

2点目はフィルミーノの守備への切り替えの速さがものを言います。奪ったボールをアルトゥールがドリブルで運び、右側を並走するフィルミーノを2回見たあとで左にいたジェズスへラストパス。最後はストライカーとしてのジェズスが結果を出します。

ジェズスのゴールが生まれる前にパオロ・ゲレーロにPKを沈められ、今大会初失点を喫して嫌な流れになりかけただけにハーフタイム前の得点は優勝に向かうブラジルを大きくあと押ししました。

ところが1得点1アシストのジェズスが、後半25分にロベルト・トバル主審の厳しいジャッジによって2枚目のイエローカードを受け退場。再び空気がよどみ始めます。

ピッチ上の選手の数が10人になり、決断を迫られたチッチ監督は冷静に確実にジェズスの勝ち越し点を守り切ろうと動きます。残っている前線の選手を下げ、復調したリシャーリソン、そしてエデル・ミリトンを入れました。最後の逃げ切りにはアランを送り込んでいます。

数的優位を生かし、希望をもって攻めるペルーの圧力を凌ぎ、終盤にエベルトンがドリブルで突っ込むとボックスの中でファウルを受けました。ネイマール不在のこの大会でダビド・ネレスを押しのけて左ウイングとしてプレーし、脚光を浴びるも、次第に持ち味の仕掛けが効かなくなっていましたが、最後の最後でその突破力がPKに結び付きました。

これをピッチに入ってまだ15分のリシャーリソンが決めて勝負あり。残り時間を考えると手堅く守るセレソンから最低でも2点を奪うのは、ペルーにとっては難しいミッションになりました。

ホスト国の責任、重圧を背負っていたブラジルは守りを固めたチームに手を焼き、猛攻を仕掛けながら無得点に終わった試合もあったものの、結果的には4大会ぶりのコパ・アメリカ制覇を果たして、久しぶりのメジャータイトル獲得となりました。


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