22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年06月

結果が求められる世界ではありますし、押し込みながら勝ち切れなかったことは悔やまれますが、この試合のなでしこジャパンは現体制でも屈指の、会心の出来でした。彼女たちは8年前を彷彿とさせる魅力的なサッカーをピッチの上で表現してくれました。

シャニセ・ファン・デ・サンデンとリーケ・マルテンスの両ウイングを絡めたサイドアタックが持ち味のオランダに対して無防備に真っ向勝負を挑むのではなく、まずはブロックをつくった守備から入った日本。前半17分にニアを突いたコーナーキックでマルテンスにゴールを許しはしたものの、最終ラインの選手を中心に辛抱強く、なでしこらしく堪えていました。それにより、前回、アルガルベカップで45分の間に5失点を食らったときの二の舞は避けられました。

攻撃では相手のプレッシャーの強さに苦しめられながらも、隙をついたパスを狙い続け、前半43分に杉田妃和のボールカットを起点に菅澤優衣香、岩渕真奈、長谷川唯が連動して同点に追い付きます。ボールには絡んでいませんが、杉田、長谷川が動く中での鮫島彩のオーバーラップも得点に貢献しました。

流れるような形でゴールを奪ったことでオランダの戦意を削ぐことに成功。序盤ほどはたやすく間を詰められなくなり、日本のパスワークに躍動感があふれます。ハーフタイムを挟んで後半の立ち上がりこそ一時的にオランダの積極的な守備意識が回復したものの、次第に日本のペースに戻りました。

相手のいないスペースにポジションをとる受け手に逡巡することなくボールを出し、常に動かすことでオランダゴールに向かって前進。最後はセンターバックやサイドバックの間に立つ前線の選手に正確なラストパスを送り、シュートへつなぐ。しばらくお目にかかれなかった美しいサッカーがそこにはありました。

杉田のクロスバーを直撃したシュート、そして途中出場を果たした籾木結花のフィニッシュと、ゴール前に人数をかけて立て続けに決定機をつくり、失意の欧州女王を屈服させるのは時間の問題のように思われました。

しかし、日本の左サイドを攻略され、混戦の中でビビアネ・ミーデマに打たれたシュートが、熊谷紗希の体からわずかに離れた腕に当たりPKの判定。これをマルテンスに決められ、立場は逆転します。

失点したのは後半45分。アディショナルタイムは5分しか残されておらず、岩渕は足をつらせて無念の離脱。オランダの時間稼ぎを止めきれないまま、なでしこジャパンのワールドカップは幕を閉じました。

屈辱のリオ五輪予選敗退後、高倉麻子監督の指揮のもと、アンダー世代で結果を出してきた若手が続々と起用され、開く一方だった競合国との力の差に苦しみながらも模索を繰り返して成長を続けてきました。その集大成ともいえるプレーができていながら、ベスト8には届かず、ワールドカップのトロフィーを取り戻すことはできませんでした。

それでも自陣での痛恨のミスがほとんどなく、相手を凌駕するなでしこらしさを再び発揮できるようになったことは大きな収穫であり、来年の東京五輪での悲願の金メダル獲得への可能性を広げる見事な戦いぶりでした。


ブラジルがペルーに圧勝、コロンビアに敗れたことによるパラグアイの3位転落と、日に日に準々決勝進出の可能性がふくらんでいった中での3戦目。日本は勝利さえすれば、ベスト8入りが可能な立場になりました。

同時にグループ最下位に沈むエクアドルも同じく勝てば突破できるようになったことで、両者とも引き分けではまったく意味のない、勝ち点3だけを求めるゲームとなったのです。

エクアドルは立ち上がりからエネル・バレンシアをはじめ、前線の選手が日本の最終ラインからのビルドアップを阻みにプレッシャーをかけてきました。こうなるとゆっくり回して柴崎岳か板倉滉につけて、という悠長なプレーは選べません。

そこで植田直通がグラウンダーの速い縦パスを供給することでプレッシャーをかいくぐろうとしていて、たびたび成功もしていましたが、先日のウルグアイ戦の先制点のような、さかのぼればヴァイッド・ハリルホジッチ監督時代から磨かれてきた自陣からの大きなサイドチェンジを繰り出すことはできませんでした。

相手のプレッシャーがきつくなくなった後半になっても、その点は改善されません。サイドアタッカーの中島翔哉も三好康児も大外ではなく比較的内側のポジションにいることが多いため、ピッチの幅を広く使った効果的な攻撃は皆無に近い状態でした。

そのあたりの柔軟性が出ていれば、どうしても1点が必要な終盤に中央一辺倒の攻めにはならなかったはずです。久保建英の中央を破るスルーパスでチャンスをつくれてはいたものの、相手が中を固めており、常に難しいプレーを余儀なくされました。

また、決勝点を奪うために投入された上田綺世、前田大然が冷静にアレクサンデル・ドミンゲスを外してシュートを枠に飛ばせていれば問題はなかったのですが、彼らがここまでの不出来を払拭することはなく、結果的に偏った攻撃では仕留められずに時間ばかりが経過します。

振り返れば、前半に川島永嗣だけでなく、冨安健洋と柴崎の連携ミスもあり、二度の大ピンチを招いたものの、そこで大事に至らなかったのは幸いでした。ただ、前半15分の岡崎慎司の絶妙な飛び出しが呼んだ中島のゴールを最後に得点を奪うことはできませんでした。

結局、1対1の痛み分けに終わり、日本もそしてエクアドルもコパ・アメリカの舞台から去ることになりました。日本は昨年のワールドカップ同様、公式戦のノックアウトラウンドでのフル代表のブラジルとの真剣勝負がまたしてもお預けとなったのです。


相手のよさを消し合った前半とは打って変わって、後半は示し合わせたかのように互いにゴールへ向かう姿勢を前面に出していたものの、効果的なカウンターを繰り出せなかった東京は試合を通してシュートが少なく、チーム全体で5本しか打てませんでした。枠内シュートはありません。

守備的とまではいかなくとも、ディフェンスの意識の高い、粘り強い相手を前にすると、強力な武器である永井謙佑、ディエゴ・オリヴェイラの縦への速さを生かすことができないため、どうしてもゴールが遠くなってしまいます。

とりわけ力強いドリブルで突き進むディエゴ・オリヴェイラが、フィジカルの強いシマオ・マテとのマッチアップに苦しみました。前半から激しいデュエルを繰り広げたこともあり、後半は存在感が失われていきます。

3週間ほど前まで東京のストロングポイントだった右サイドは、室屋成と比較的サイドハーフの役割に従順なナ・サンホとの連携による崩しはほとんど見られず、室屋が関口訓充との1対1に手を焼くこととなり、なかなかフィニッシュに結び付きません。

手詰まり感のあった後半28分、長谷川健太監督は高萩洋次郎を下げて、大森晃太郎を投入。東慶悟をセンターハーフに移して中央でのプレーを任せた直後に、関口にゴールを許してしまいます。

その後、2トップを残したまま矢島輝一を送り込んでシステムも変更。中央とハーフスペースに人を固めましたが、逆に空き気味のサイドで小川諒也が相手と交錯してボールを失い、そこから一気に攻められてハモン・ロペスに時間帯を考えると決定的な2点目を奪われました。

このときの接触で小川はプレー続行が難しくなり、すでに交代枠を使い切った東京は実質1人少ない状態での戦いを強いられます。手を替え品を替え仙台攻略の道を探ったものの、東慶悟が最終ラインのケアに追われざるを得なくなってしまいました。

2試合連続での完封負けを喫し、暫定2位の横浜F・マリノスとの勝ち点差は3となりました。次節はその横浜との暫定首位攻防戦という、絶対に落とせないシーズン前半の大一番をホームで迎えます。


レギュレーション上、準々決勝進出の可能性を残す引き分けだったとはいえ、この試合のようなパフォーマンスができるのならば初戦のチリ戦はもう少し違う結果に、少なくともあれほどひどい結果にならないようにできたのではないか。そう考えてしまうほど、見違えるような出来でした。

VARによるPKとコーナーキック、いずれもリスタートから得点を許した日本ですが、ディフェンス陣の貢献は非常に高いものがありました。ルイス・スアレス、エディンソン・カバーニという、いつでもそしてどこからでも強烈で精度の高いシュートを狙ってくる2トップを相手に、最後方の川島永嗣をはじめ、全員が最後まで集中を切らさないで戦っていました。

攻撃に関しては森保一監督が残り10分を切っても久保建英を投入する積極策をとったとはいえ、終盤はさすがにもう1点取って勝ち越す力は残っていませんでした。しかし、試合を通してチャンスの数では下回りながら、常に先手を取って大会最多優勝を誇るウルグアイを追い詰めました。

先制点は柴崎岳の大きなサイドチェンジから三好康児がドリブルで運び、ディエゴ・ラクサールに左を切られた中で右足を振り抜いて生まれ、2点目は中島翔哉、杉岡大暉で左サイドを攻め上がり、岡崎慎司がつぶれた先にサイドから中央に位置どった三好によってもたらされました。

後者の得点は岡崎のゴール前でのつぶれ方から、ワールドカップのセネガル戦の本田圭佑によるゴールを思い出させます。最前線の選手が徹底的に泥臭く詰め寄ることで価値あるゴールに結び付きました。

そうした中でこの試合もゲームに入り切れない選手がいました。中山雄太に代わってセンターハーフを任された板倉滉はビルドアップでミスパスを連発。スアレス、カバーニ、さらにはセンターハーフのルーカス・トレイラ、ロドリゴ・ベンタンクールに見張られる中でのプレーとはいえ、思ったほどうまく前につけられませんでした。

また最後の交代選手として入った上田綺世はプレータイム、さらに言えば攻撃に転じる時間が短かった点では同情の余地があるものの、前の試合の借りを返す意欲的なプレーを披露できませんでした。

ともあれ国内開催のキリンチャレンジカップではなく、公式戦でのウルグアイ相手の引き分けが本当に意味を成すかどうかは、次のエクアドル戦にかかっています。単発の結果ではなく、グループステージ3試合を通してのパフォーマンスと結果が、この先の東京五輪、さらにはカタールでのワールドカップにつながっていくのです。


3月のシービリーブスカップでの対戦同様、相手を上回るシュートを放ったものの、枠をとらえた決定的なものは開始早々の横山久美の遠目からのフリーキックなど数えるほどしかなく、またしても1点も奪えないまま敗れてしまいました。

菅澤優衣香が投入される前、後半15分まではイングランドに圧倒されました。パワー、スピード、高さを生かしたプレーに翻弄され、山下杏也加の度重なる好守にかろうじて救われてきました。

それまでで唯一の失点は、またしても自陣でのボールロスト、熊谷紗希のロングパスが難なく相手に渡ったところから始まります。体を寄せた杉田妃和がジョージア・スタンウェイのラストパスを許し、熊谷の前を通ったボールがその背後から迫ったエレン・ホワイトに通って決められました。

なでしこは攻撃時のパスが中途半端になるケースが多く、短すぎたり長すぎたりと適切な組み立てができませんでした。そもそも選手間の距離が遠く、苦しい状態で動かすことになり、ミドルゾーンではボールを動かせるものの、最後はペナルティエリアの外からシュートを打つしかなくなります。

菅澤の登場とイングランドの運動量低下によって、後半20分ごろからは日本のペースになります。少しずつボックスに入れるようになり、菅澤のポジショニングのよさを生かしてシュートまで結び付けていきました。事実、菅澤は30分ほどのプレータイムながらチーム最多の5本のシュートを放ちました。

日本が菅澤を送り込んでスイッチが入ったように、イングランドもニキータ・パリスの投入が再び攻撃へと出ていく合図となりました。パリス投入直後、縦パスをつながれてハーフスペースを破られ、ホワイトに得点を許してしまいました。いい流れだっただけに相手の変化を見極められなかったことが悔やまれます。

逆にあと一歩のところで精度を欠いた日本はそのままタイムアップを迎えます。アルゼンチンがスコットランドと引き分けに終わったおかげで、3位通過という苦しい結果は避けられました。

とはいえ次はオランダかカナダのいずれかと当たります。両方とも昨年のアルガルベカップで対戦していていずれも負けており、簡単な相手ではありません。特にオランダには2対6と屈辱的な大敗を喫しました。

今回は根本的な戦力の問題として、戦える選手の少なさが懸念されるなでしこジャパン。攻撃的な貢献が大きく期待される長谷川唯、籾木結花らははたしてプレーできるコンディションなのか。約1週間のインターバルでどこまで整えられるかが正念場を乗り切る鍵になりそうです。


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