22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年05月

後半のキックオフ。チェルシーの選手の多くがハーフウェイライン付近に立ち、まるで残り時間がわずかというところで1点ビハインドを背負ったかのような攻めの姿勢、走り出す態勢をとりました。そこからの最初の攻撃で仕留めることはできませんでしたが、自分たちで流れを引き寄せたチェルシーは後半4分にオリビエ・ジルーのゴールで先制します。

前半、3-4-1-2で入り、おなじみの4-3-3の形をとる相手にかみ合うシステムをとったアーセナル。守備ではビルドアップ阻害のために高い位置をとり、目の前の相手との距離を詰めることでチェルシーを窮屈な状態に追い込んでいました。

突破力、キープ力の高いエデン・アザールに対しては、ソクラティス・パパスタロプーロスだけではなく、ルーカス・トレイラも近づいて2人でプレーをさせまいとします。

それでもチェルシーは時間とともにその状況に慣れて主導権を握るようになり、アザール、ジョルジーニョ、ジルーとつながりフィニッシュにつなげました。ここは今シーズンで現役を引退するペトル・チェフが阻みます。前半をスコアレスで終えるまでは、アーセナルがチェルシーの攻撃を凌ぐことに成功しました。

均衡を破られてからは、得点を奪うべく前に出ていく姿勢を強めたアーセナルでしたが、その焦りが裏目に出て失点を重ねます。アザールが中央を冷静に見てラストパスを送り、ジルーの空けたスペースに走ったペドロ・ロドリゲスが冷静に2点目を奪い、その5分後にはアザールがPKで加点。チェルシーのリードは3点に広がります。

ウナイ・エメリ監督の選手交代は後手にまわり、システムを4-2-3-1に変更すべくマテオ・ゲンドゥージ、アレックス・イウォビを同時に送り込んだのはPKが決まったあとになってしまいました。

指揮官の期待に応える形でイウォビが豪快なシュートを叩き込み、試合の空気を変えかけたものの、すぐさまジルーの浮き球にアザールがきっちり合わせて再び3点リードとし、残り20分を切ったところで試合を決定づけます。

このまま推移した後半44分にはマウリツィオ・サッリ監督の決断により、憧れのクラブに行くためにチームを去るといわれるアザールが悠々とピッチを去る演出をも可能にしました。

地力の差を見せつけた形でチェルシーはヨーロッパリーグを制覇。プレミアリーグの中では実現できなかったUEFAチャンピオンズリーグ出場権の獲得を成し遂げたかったアーセナルを一蹴します。

試合後には前日にいさかいを起こしたとされるゴンサロ・イグアインとダビド・ルイスが厚く抱擁する場面もあり、晴れやかな表彰式となりはしましたが、チームの顔であるアザール、さらには以前からくすぶっていたサッリ監督の去就問題を抱えており、来シーズンの明るい見通しは立てにくい状況です。


苦しいけれど勝ちたい試合でした。

前日、首位を走るFC東京が敗れて無敗記録がストップ。ここで上位にいる大分を叩ければ、川崎にとっては今後の見通しが明るくなります。

ただ、先週はAFCチャンピオンズリーグのためシドニー遠征をしており、加えてこの日は気温が30℃近くあり、試合条件としては厳しいものでした。

それだけにいつものようなテンポでのボール回しを続けることは困難で、スピードを上げて連動すれば一気に攻めきれるときでも決して無理をせず、たとえ退屈な試合に見えようとも確実に勝利だけを目指して戦っていました。

貴重なゴールを奪ったのは先発起用に応えたマギーニョで、アシストはレアンドロ・ダミアンのいる方へめがけてクロスを入れた長谷川竜也でしたが、大事なところでチームを支えたのは大島僚太でした。
ペナルティエリア近辺の危険な場所に下がってのボール奪取を90分にわたって繰り返し、攻撃面でも緩急をつける役割を大きく担って時折鋭い縦パスを繰り出しました。チームには大島がいることによる安心感がありました。

その後方に立つジェジエウ、谷口彰悟の両センターバックも体を張り、危険を察知してチャンスをつくらせないプレーに終始。大分のキープレーヤーである藤本憲明にほとんど仕事をさせませんでした。結果を出せなかった藤本は、後半35分に後藤優介と交代します。

川崎が隙のない戦いを続けられたことでホームの大分に窮屈さを与え、後半、右から左のウイングバックに移った松本怜へのサイドチェンジはしばしば大きくなってタッチラインを割りました。

危なげなく完封勝利を収めた川崎は、東京との勝ち点差を4に縮めました。さらに勝ち点で並んでいた鹿島アントラーズと上位にいた名古屋グランパスがともに敗れ、両者を引き離して2位に浮上します。

アジアでの戦いが終わってしまい、国内のコンペティションに専念するしかなくなった川崎。それだけにリーグ戦3連覇にかける思いはより一層強まったはずです。


終わりよければすべてよし、ではないですが、少なくともトロフィーを掲げて喜べる状況ができれば慰めにはなったはずです。しかし、バルセロナはバレンシアの前に屈し、5連覇達成はなりませんでした。

バレンシアの戦い方ははっきりしていました。ライン間を圧縮してブロックを固め、ルイス・スアレス不在の中、中央に構えるリオネル・メッシでさえ容易には突破できない守備網を構築。忍耐強く守ったあとでカウンターを発動させて仕留める、というものでした。

彼らを勢いづけたのは序盤の決定機でした。クレマン・ラングレがロドリゴ・モレノへのラストパスかというようなミスを犯し、フリーでボールを受けたロドリゴはヤスパー・シレッセンをかわしてフィニッシュ。ここはジェラール・ピケがゴールライン手前でクリアに成功しますが、バレンシアにとっては手ごたえを感じられたはずです。

縦に、そして横にとバルサの選手を揺さぶって生まれた前半22分のケビン・ガメイロの先制点、そしてカルロス・ソレールがジョルディ・アルバとの競争に勝ってクロスを入れ、ロドリゴが押し込んだ追加点。どちらも気持ちのいい鮮やかな攻撃でした。

追い込まれたバルセロナは相手に制限されている影響もあって前線の動きが少なく、イバン・ラキティッチとメッシがゴールを狙うも決定打にはなりません。

エルネスト・バルベルデ監督が闘える男、アルトゥーロ・ビダル、そしてマウコムを同時に投入してからの後半は、メッシが中央のポジションにこだわらなくてもよくなり、ボールを動かすテンポも前半にくらべると改善されて攻撃が活性化します。

後半18分、ダニエル・パレホが直接フリーキックで軸足を滑らせた際に負傷。メッシを抑えていたキャプテンがピッチを去らなければならなくなり、ジョフレイ・コンドグビアに代わると抑制が効かなくなり、メッシの活動量が上がります。

その流れでマウコムにキッカーを任せたコーナーキックにラングレが競り勝ち、ジャウメ・ドメネクが防いだボールをメッシが押し込んで1点差に詰め寄りました。残りはまだ15分少々ありました。

そこからクーリングブレイクを挟んで5分が経過したころになるとピケが最前線に上がります。パワープレーも辞さない格好で、ペナルティエリアでクロスを待ち構えるバルサの選手の数は次第に増えていきました。

ただ、決定的なチャンスをつくったのはほぼ守備を捨てたディフェンディングチャンピオンではなく、バレンシアの方でした。ゴンサロ・ゲデスには広大なスペースに二度の決定機が与えられ、シュートにまで至ったもののボールはゴールの枠をとらえきれません。

とどめを刺すことはできなかったものの、長身のムクタル・ディアカビを入れて5バックにしたバレンシアが逃げ切りに成功。バルセロナからタイトルを奪い取りました。

バルサは後半に若干持ち直したとはいえ、フィリペ・コウチーニョをはじめ全般的に攻撃の歯切れが悪く、後方支援が少なくメッシへの依存度が非常に高いまま時間が流れていきました。

UEFAチャンピオンズリーグのリバプール戦での屈辱的な逆転負けをきっかけとした悪い流れを引きずったままオフに入るリーグ王者は、心機一転のための人事異動が避けられない状況です。


シティの攻撃の肝となるインサイドハーフ、ベルナルド・シウバにアブドゥライェ・ドゥクレを、ダビド・シルバにはウィル・ヒューズをマンマーク気味につけたワトフォード。これによってベルナルド・シウバとシルバが上がった際には一時的に6バックのようになりはしたものの、サイドからのクロスが多くなったシティの攻撃に対してセンターバックではね返す形で凌いでいました。しかしそれも長くは続きません。

カイル・ウォーカーとオレクサンドル・ジンチェンコは例によってハーフスペースに立ち、後方からインサイドハーフ封じに対抗。シルバもヒューズを外すためにポジションを下げるなどします。

前半26分、ワトフォード陣内でボールを奪取してからシルバの鮮やかなシュートで先制すると、12分後にはガブリエウ・ジェズスが加点。最後にひと蹴りしたラヒーム・スターリングの得点かに思われましたがジェズスのゴールとなりました。

シティの勢いが加速したのは後半10分、クロスとシュートを武器にするレフティのリヤド・マフレズに代わってケビン・デ・ブライネがピッチに入ってからでした。ベルナルド・シウバがウイングにポジションを変え、パスの起点がひとつ増えただけでなく、デ・ブライネがハーフスペースと右サイドを巧みに行き来するため、ワトフォードはより一層守りづらくなります。

加えて一発勝負のファイナルのため、攻撃に出るしかないワトフォードの裏を突いたカウンターが効果的になり、ガブリエウ・ジェズスとデ・ブライネが絡んで順調に得点を重ねました。

4点取ったあとはもう大丈夫だと判断したか、ペップ・グアルディオラ監督はイルカイ・ギュンドアンを下げてレロイ・サネを入れるとともに、デ・ブライネ、ベルナルド・シウバ、ダビド・シルバの3人に中盤を任せます。アンカーを固定することなく流動的にポジションチェンジをしていたものの、思うように得点の可能性を高められず、結局、6分後にシルバを下げてジョン・ストーンズをアンカーに配しました。

その後、後半36分に左からのベルナルド・シウバのクロス、後半42分には右からのデ・ブライネの低い弾道のラストパスに反応したスターリングが貪欲にゴールに突っ込み、リードを6点に広げます。

ワトフォードとしては立ち上がりの決定的なカウンターでロベルト・ペレイラが先制できれば違った展開になったかもしれません。シティで応対していたのはウォーカーとギュンドアン、そしてシルバしかいませんでした。しかしシュートは判断よく飛び出したエデルソンに阻まれました。

クリーンシートで試合を終わらせたシティは、今シーズンの国内タイトル総なめに成功。ウェンブリーで有終の美を飾りました。


大崎玲央の裏――。

両ウイングがタッチライン際まで広がる横浜は、右サイドバックに起用されている背番号25の背後を執拗に狙っていました。台所事情の苦しい神戸の吉田孝行監督が西大伍をより攻撃に絡める右サイドハーフに使ったため、大崎はその後方、最終ラインのサイドを任されます。

可変式のシステムというわけではなく、純粋な4バックを敷いており、攻撃時にはセンターバックを残して高い位置をとることを求められるサイドバックで、上下動の繰り返しに苦しむ大崎は格好の餌食となりました。

横浜の先制点は左ウイングの遠藤渓太が抜け出し、大崎は首を上げた状態で追いかけるのを途中であきらめざるを得なくなります。遠藤のパスを受けたマルコス・ジュニオールは、ゴールにパスを送るようにボールを押し込みました。

2点目も同じサイドから生まれます。上がってきたティーラトン・ブンマタンがファーに入れたクロスを李忠成が難なく決めました。大崎は腕を伸ばしてつかんででもティーラトンをつかまえようとしましたがかないません。

大崎に代えて渡部博文を入れたのは残り10分となってから、それも最後の交代枠でした。もはや時すでに遅し、です。渡部に代わっても状況は改善することなく、またしても神戸は右サイドを突かれ、三好康児にとどめを刺されました。

李、三好を入れた横浜のアンジェ・ポステコグルー監督の采配が次々当たるのに対し、神戸の交代策ははまらず、橋本和に代えて小川慶治朗を右サイドハーフとして送り込んでからは西が左サイドバックにまわることになりました。ボランチでのプレー経験もある西ですが、いつもとは反対の景色を見ながらのプレーはどこか窮屈そうでした。それまでは相手陣内でのダビド・ビジャとの連携に活路を見いだせそうだっただけに、もったいないコンバートになりました。

結果、アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキを欠くなか、アウェイで現実的な策をとることなくとにもかくにも果敢に前に出ようとした神戸は、横浜が神戸につき合って中盤にぽっかりスペースができ、互いに相手ゴールへと行き来するオープンな展開になった後半の序盤に得点を奪うことができず、ウェリントンが後半アディショナルタイムに一矢報いるのが精一杯。あえなく返り討ちに合った格好で、この泥沼から抜け出す方法がわからないまま試合を終えることとなりました。

これで15位に落ちた神戸。前日にサンフレッチェ広島を下した17位のサガン鳥栖との勝ち点差はなくなり、J2降格圏にさらに近付いてしまいました。


このページのトップヘ