22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年04月

圧勝、とまではいきませんでしたが、首位の東京は力を出し切って順当に勝利を収めました。

とりわけトップの永井謙佑、ディエゴ・オリヴェイラがファーストディフェンダーとして目の前の相手を追い込むプレスをかけたり、守備時にも下がってチームに大きく貢献したりしたこともあり、センターハーフの高萩洋次郎、橋本拳人がそれほど激しく消耗しないで済みました。

攻撃面では対峙する松本がディフェンシブとはいえ、当初はDFとMFの距離は狭めていたものの最終ライン自体はそれほど低くなかったため、ボールを保持しつつ高萩や太田宏介から永井謙佑への裏へのパスが難なく届いてシュートまで至りました。

この流れを継続したことで前半44分に待望の先制点が生まれます。渡辺剛が高い位置まで出ていってつぶし、さらに高萩も追ったことでこぼれたボールを久保建英が拾い、グラウンダーのスルーパスを繰り出しました。その先にいた永井謙佑が懸命にボールを引き取り、冷静にゴールを奪います。

両者の点差はわずかに1でしたが、後半になっても鹿島アントラーズ戦のように妙に慌てることなくプレーを続けて無理なく2点目を狙いにいきました。

そこで前半以上に輝きを放っていたのが久保でした。エンドが変わって以降、太田に代わってセットプレーのキッカーを任された背番号15は、パスセンスもさることながら、細かいタッチでドリブルを仕掛ける意識が強く、抜き切る力があるため、松本の選手はファウルでしか止められないような状態でした。

相手ゴール付近、右サイドから仕掛けて放ったカーブをかけたシュートは惜しくもポストを直撃。ルヴァンカップでは似たような角度からフリーキックで得点を奪っていますが、今シーズンリーグ初ゴールはお預けとなりました。

それでも試合が終盤に差し掛かったところでエリア内で橋内優也に倒され、PKにつながるファウルを獲得。これをディエゴ・オリヴェイラが確実に決めてリードを広げました。

もともと少ないチャンスを狙っていたであろう松本の決定機は数えるほどしかなく、それも林彰洋が落ち着いて対処したためホームチームはクリーンシートを達成します。

安定した戦いぶりで勝ち点3を積み上げた東京。次節は低迷するガンバ大阪とアウェイで対戦します。


神戸はフアン・マヌエル・リージョ監督との契約を解除し、吉田孝行新監督がチームを率いることとなったため、これまで前監督のもとで築き上げられた非日常の空間がリセットされてしまいました。加えてリズムを変えられるアンドレス・イニエスタが不在だったことも大きく影響して、体制の変化は色濃くピッチ上に反映されました。

とりわけ前半はボールをきっちりつないで独特のリズムを刻むのではなく、ウェリントンを生かすべく放り込みを多用。違った形をとったとしても、ダビド・ビジャが離脱中にもかかわらず最終ラインの裏を狙ったボールを入れるくらいでした。

対するホームの浦和は、エヴェルトンがときどき前線でプレッシャーをかけに出ていくものの、基本的には新体制の戦い方を様子見するように5-4-1のブロックを敷いて自陣に構えます。相手が大きなサイドチェンジをしても動ぜず、決して無理はしません。

幸いなことに大崎玲央が痛恨のミスを犯し、そのボールを拾った興梠慎三がダンクレーに倒されてPKを獲得。興梠みずから沈めて開始10分であっさり先制に成功します。

その後はコーナーキックのこぼれ球を武藤雄樹がシュートに結び付け、キム・スンギュにセーブされる場面がありましたが、流れの中でいい形はつくれず、戦い方を変えないまま時間は流れていきました。

エンドが変わると神戸がこれまでの記憶を手繰り寄せるようにつなぐ意識を強めていきます。西大伍がハーフスペースにポジションをとることが多くなり、そこから二度ほどチャンスをつくりました。ルーカス・ポドルスキも西の近くでボールを受けようとします。また逆サイドでは成長著しい古橋亨梧が個の力で突破を試みます。

ただ、やはり指揮官が変わったことによって神戸のよさは削がれたままとなり、あと一歩のところで得点が奪えません。ゴールに立ちはだかる西川周作のファインセーブの連発もありました。

浦和は防戦一方となりながらも引き続きプレースタイルを変えないで我慢強く守り続けます。ボールを奪った際、カウンターを要求するサポーターの声がそこかしこから上がってスタジアムが騒がしくなっても、とどめを刺す逆襲は繰り出しきれませんでした。

それでも逃げ切ったホームチームはリーグ戦での本拠初勝利を挙げます。アジア王者の風格を感じさせる、とまではいかなかったものの、とりあえず最低限の結果を残すことができました。

逆に90分で浦和の倍以上の12本のシュートを放った神戸は、勝ち点1さえとることができずに終わりました。主力の戦列復帰に可能性をかけるにしても、選手交代がほとんど奏功しなかった事実を踏まえると、新たな船出は目的とすべき行き先が見えない状態に陥ったかのようです。


3点を奪った前半の東京の充実ぶりは申し分ないものでした。内容でもスコアの上でも鹿島を圧倒。鹿島はどことなくリズムが悪く、レオ・シルバの憎らしいほどの意表をついたパスも奏功せず、ミスをしてタッチラインにボールを数回出してしまった小田逸稀は、前半アディショナルタイムに交代となりました。

ホームの東京は相手を待ち構えることなく、序盤から前へ前へと積極的な姿勢、球際の激しさを見せます。高萩洋次郎がゴールラインを割りそうなボールを引き取ったことで永井謙佑の先制点が生まれ、サイドハーフというよりトップ下に近いポジションをとることの多かった久保建英は自陣から一見なにげなく見える浮き球のボールを前方に繰り出し、ディエゴ・オリヴェイラの2ゴールに結び付けました。

余裕の持てるリードをして迎えた後半、鹿島が攻勢に出てくることは想像できたはずながら、東京は試合がまだ0対0であるかのような戦いをしてしまいました。必死になって1点を取りに行こうとして、それが裏目に出ます。

対する鹿島は安部裕葵が入ったことで、左サイドが活性化。安部、そして後方の安西幸輝のコンビと久保、室屋成がマッチアップする形となり、このサイドでは鹿島がやや優位に立ちます。

さらに前半は消えていた伊藤翔も同じサイドに流れて援護にまわり、東京のゴール付近では3対2の局面をつくって、安西がななめに走ってペナルティエリアに侵入するなどして攪乱します。

追いかける立場にありながらも冷静にプレーを続けた鹿島は、後半10分にレオ・シルバのすばらしいミドルシュートが決まり、俄然勢いが出ます。鹿島サポーターは一丸となって声量を上げ、すぐ前にいる東京の守備陣にプレッシャーをかけ続けます。

ホームスタジアムでありながらその空気に東京の選手はのまれかけました。中途半端なカウンターでフィニッシュまで到達せず、ハットトリックの可能性のあったディエゴ・オリヴェイラの馬力を生かした攻めも不発。直後の鹿島の逆襲のスタート時に即時奪回する動きはほとんどなく、全体が自陣の低い位置に下がっており、ときには最終ラインが6枚になるという状態でした。

それでも林彰洋が最後の砦となってファインセーブを披露し、ときには時間を稼ぐプレーをすることでチームを落ち着かせるなどしてそれ以上の失点は防ぎました。2点目を奪われていたら、試合の流れは完全に鹿島に移ったことでしょう。

後半はゴールを予感させるシュート自体がほとんどなかった東京ですが、前半のリードによって無敗を継続しました。次節は勝ち点で並び、得失点のわずかな差で首位に立つサンフレッチェ広島とのアウェイゲームを戦います。


前半35分の長谷川唯、そして後半24分の中島依美と横山久美の冷静なプレーで2得点を奪えたため、沈黙して終わりはしませんでした。ただ、どちらもドイツのゴールを守るアルムト・シュルトのミスによってもたらされたプレゼントのようなゴールでした。日本は流れの中ではあまり決定機をつくることができず、攻撃面で大きな手ごたえをつかめたとは言いがたい試合でした。

前線は最初トップ下を務めた長谷川とサイドの中島が比較的自由に動いて流動性を高めていました。そこに杉田妃和も絡んで厚みのある攻撃を仕掛けたいところでしたがほとんど機能しません。

攻撃が詰まり気味になる分、劣勢に立たされる場面は必然的に増えます。前半終了直前には人数をかけてドイツ陣内を攻略しようとしながらフィニッシュまで至らなかったことでカウンターを食らいました。

この日の日本のディフェンスは読み、予測にすぐれた熊谷紗希の体を張ったプレーだけでなく、平尾知佳の再三にわたる好セーブが光りました。平尾はこれで一気に第2GKのポジション争いで優位に立てたはずです。

そうした中で奪われたふたつの失点は、ともにサイドからのクロスボールがきっかけでした。後半8分のアレクサンドラ・ポップのヘディングにつながる攻撃では、鮫島彩が1対2の局面をつくられ続けたためにクロスを阻止できませんでした。

横山のゴールで勝ち越した3分後の同点弾は、清水梨紗に代わって宮川麻都が右サイドバックに入った直後のことでした。代わりばなを突かれると、平尾が競り合いの中でボールをキャッチしきれず、スベニャ・フートのフィニッシュを許してしまいました。

ドイツがセットプレーの大半を変化をつけたものにしたため、リスタートでの制空権争いにおける苦戦はあまりありませんでした。しかし本大会では、相手が高さとフィジカルの強さを生かして空中戦を挑んでくる機会は多くなると予想されます。

終盤のドイツの猛攻はなでしこらしく凌いで逆転負けを回避しました。これで女子ワールドカップメンバー発表前の試合はすべて終わりました。

前の試合から継続してスタメンを張ったメンバー、そしてフランス戦は先発で今回は後半最初に投入された横山と小林里歌子は今後負傷さえしなければ、本大会のメンバー入りは確実と思われます。また残り7分のところで投入された猶本光は1対1の守備での当たりの強さを見せ、代表生き残りの可能性を残しました。

今年に入ってからの強豪国との対戦を見ても、8年ぶりの優勝を達成するとなると、チームとしてもう一段階思い切りのよさとプレーの正確さを上げる必要があります。これは直前合宿でどこまで練度を高められるかにかかってきます。


2点のビハインドを背負った後半の神戸は、残り時間があと15分くらいしかないかのように攻撃に大きく舵を切りました。相手DFとの駆け引きに長けたダビド・ビジャが違和感を覚えて前半41分に退き、188cmのウェリントンが入ったのを生かすべく、5枚の松本DFの外に構えたサイドバックとウイングによるクロスを主体に攻め始めます。

ただしそればかりでは単調になるため、次第にアンドレス・イニエスタを使った中央からの攻めも織り交ぜます。前半は窮屈な中でラストパスのひとつ手前のパス出しを担う場面が多かったイニエスタも、ゴールにより近いところでプレーをするようになりました。みずからシュートを打ったり、中盤から一気にウェリントンに浮き球を供給したりするなど決定的な役割をしだします。

神戸がグラウンダーのパス主体のサッカーからやり方を変えたことで、松本は前半のように5-4-1のコンパクトなブロックで守ることができなくなります。その結果、辛抱強くカウンターのチャンスをうかがうというよりは、神戸にお付き合いするようにスピードが武器の前田大然をはじめ、もう1点を奪いに行く姿勢を前面に出しました。

互いにゴールを強く意識したサッカーとなり、ゲームとしてはスリリングになりました。神戸の最後尾では序盤に宮阪政樹のフリーキックを処理し損ねた前川黛也が、挽回すべく好セーブを披露。3点目は奪われません。

クロスを連発する神戸の猛攻が実ったのは後半30分でした。右サイドにまわった古橋亨梧のクロスをウェリントンが今井智基をはがして頭で決めます。

その後、ペナルティエリアでそれほど露骨ではないもののハンドと思われるプレーが松本にありましたが、上田益也主審の笛は鳴りません。同点に追い付くチャンスになるかという場面だけに、神戸の選手は一斉に抗議をしました。

さらにレアンドロ・ペレイラが神戸陣内でボールが手に触れたシーンも流されてしまいます。試合の流れを変えるほどのプレーではありませんが、神戸サイドがナーバスになるには十分でした。

直後に高崎寛之のレアンドロ・ペレイラとの交代もあり、そこから松本はようやく残された時間を大切に使いだしました。熱狂的なサポーターの後押しに従って勇敢に戦った選手たちもプレー速度を落として時計の針を進めます。

一方の神戸はダンクレーこそ上がらないものの、イニエスタを飛ばした直線的なロングボールによるパワープレーにシフト。ウェリントンめがけて放り込みますが最後まで同点弾は生まれませんでした。

松本はこれで連敗を3でストップ。神戸は開幕戦以来となる公式戦での黒星となりました。


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