22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2019年02月

アメリカからはおそらくお得意様と思われているであろうなでしこジャパンは、通算2勝目こそならなかったもののしぶとくドローに持ち込み、初参加の大会初戦で勝ち点1を獲得しました。

キックオフからしばらく猛攻にさらされたあと、最初に相手陣内深くまで攻めた際にコーナーキックを獲得。そのセカンドボールを長谷川唯、杉田妃和、横山久美が生かしてフィニッシュ。惜しくもクロスバーを叩いたシュートで一度は流れをつかみかけました。

しかし先制したのはアメリカでした。前半23分、日本はボックス内の人数はそろっていながら、ミーガン・ラピノの後方からの上がりをケアしきれずフリーにしてしまい、右サイドを攻略したトビン・ヒースのクロスに難なく合わされてしまいました。

いつものような展開で、このまま敵地で相手の勢いに飲み込まれかねない状況でした。アメリカが個々のストライドの大きさを生かして広いピッチを存分に使う中、それでも我慢強くプレーを続け、失点を重ねないことで前半を乗り切ります。

後半に入ってからは中盤での小気味いいパスワークによってペナルティエリアには近づけるものの、決定的なフィニッシュまで行けない場面が見られ、最後の詰めの甘さが目立ちました。

特にサイドハーフの中島依美と長谷川がハーフスペースに絞って数的優位をつくることが少なかったこの試合。それができた後半23分に同点弾が生まれます。長谷川が逆サイドの大外でかまえる中島めがけてパスを出すと、中島はサイドからもうひとつ内側のレーンに走り込み、一旦阻まれたティアナ・デビッドソンのクリアミスに乗じて左足を振り抜きました。

試合を振り出しに戻したことで日本に活気が生まれます。残り20分を切っていたにもかかわらず、アメリカの運動量を上回る走りでさらなる得点の予感を抱かせました。アジアを1年に2回制した自信の表れでした。

しかしそこはさすがのアメリカです。ジル・エリス監督がクリステン・プレスを投入すると、プレスはゴールに迫ろうとする貪欲な姿勢をすぐさま前面に出し、アレックス・モーガンの胸で押し込むゴールをアシストします。またしても日本の左サイドから見事にやられてしまいました。

終盤にはアシスタントレフェリーが負傷して時計が止まるアクシデントもあり、なすすべなく敗れる可能性が高まった後半46分、ボックス手前でボールをつなぎ、パスを受けた長谷川が絶妙なトラップで抜け出すと相手を引きつけながら籾木結花へ預けます。籾木は落ち着いてネットを揺らし、日本は同点に追い付くことができました。

アメリカが最後の力を振り絞って3点目を奪いにきたため、逆転することはかなわなかったとはいえ、劣勢に立たされてもあきらめない姿勢を貫けたことは大きな収穫です。ほとんどの選手にとってはシーズン開幕前で、今年最初のゲームとしては申し分ない出来でした。加えてキャップ数の少ない選手も難しい相手に堂々とプレーできたことでチームの底上げにもつながりました。

この結果を無駄にしないために残り2試合の戦い方が試されます。


開幕戦となった多摩川クラシコは、互いに相手のミスをつき切れないままスコアレスドローに終わりました。

ホームの川崎は立ち上がりこそ東京の前線からのプレスに苦しめられましたが、守田英正が最終ラインまで落ちてビルドアップをするなどして次第にリズムをつかみ、相手をギリギリまで引きつけながらパスを回していきます。我慢を続けたことで次第に東京の守備位置は低くなりました。

4-4-2の密集した守備網を敷かれても大島僚太はそれを貫く精度の高い縦パスを通し続け、ゴールに迫るもあと一歩が足りません。スーパーカップでその実力を見せたレアンドロ・ダミアンは警戒され、ポストプレー以外ではあまり見せ場はありませんでした。加えて周囲との連携がまだ十分には確立されていないことがあらわになり、後半28分に齋藤学と交代します。

川崎は守田や谷口彰悟らの自陣でのミス絡みで東京にチャンスを献上。カウンターを食らう場面が前半だけでも数回ありました。そしてハーフタイムまで残り10分を切ってからは久保建英の躍動を許します。久保にはポストを直撃する強烈なフリーキックを放たれました。ただ17歳の若武者はそれ以降輝きを見せる機会がほとんどありませんでした。

久保と反対のサイド、東慶悟、小川諒也と対峙したマギーニョは、先週の浦和レッズ戦ほど目立ったボールロストはなかったとはいえ、小林悠がカバーに走ることも多いほど攻守の上下動とその動き方に物足りなさがありました。その結果、後半10分の段階で馬渡和彰と代わることになります。Jリーグの理解度では上回るであろう右サイドバックがピッチに立ったことで川崎の不安要素は減りました。

橋本拳人の不用意すぎるバックパスを中村憲剛が難なく懐に収めたシーンは、大島、中村、小林と中央をグラウンダーのボールで攻略して、小林が林彰洋の股間を狙った攻撃以上に絶好の、この試合最大のチャンスでした。しかし林に阻まれてゴールには至りません。

鬼木達監督が3人の交代枠を使い切った終盤は、空中戦で勝負できるレアンドロ・ダミアンがいないなかでサイドからの展開が多くなって攻撃に迫力を欠いた川崎。連携で完全に崩されたあとの田川亨介のシュートミス、そして危険なファウルを二度犯した奈良竜樹が退場にならなかったことがチームにとっては救いでした。奈良は背後から東京サポーターのブーイングを浴びながらもプレーすることが許されました。

開幕戦ということを考えても90分フルで高いテンションのまま戦うことはまだ難しく、気分よく白星スタートで三連覇に向けて発進することはできませんでした。


昨シーズンのこの大会では試合の入りが悪く、セレッソ大阪に敗れた川崎は今回、決定機こそ決して多くはなかったものの見違えるほどの充実ぶりを披露しました。

立ち上がりはミドルゾーンでゆっくりとパス交換を続けていましたが、少しずつギアを上げて浦和陣内に攻め込みます。中村憲剛を中心に中盤の5人は自分のポジションにとらわれることなく流動的に動き、なおかつそれによる渋滞や混乱はありません。右サイドをスタートポジションにした小林悠と新加入のレアンドロ・ダミアンの関係性も良好でした。

またボールを失ったあとの切り替えもすばやく、2、3人が猛然とボールホルダーに襲いかかることでリーグ王者が試合のペースを握ります。こうして5-3-2のぶれない守りで構える浦和との我慢比べが続きました。

前半、川崎の中でとりわけ光っていたのが昨シーズンのMVP、家長昭博です。当たり負けしない強さ、ボールキープ時の安定感があり、味方は安心してボールを預けられました。

得点は後半7分、レアンドロ・ダミアンのボックス内での鮮やかなシュートによってもたらされます。早くも結果を出せた新参者は喜びを爆発させ、両手で髭をつくるパフォーマンスを披露したあと、小林と『ドラゴンボール』のフュージョンをやってみせました。

背番号9はゴールのみならず守備での貢献も目立ちました。大きなストライドを生かしたスプリントでファーストディフェンダーとしての役割を果たしており、これまでその役目を先頭切ってやっていた中村らがそれに続く形ができています。相手選手とフィジカルコンタクトがあった際のリアクションの大きさがやや気になるくらいで、それ以外はチームへのフィット感を含めて頼もしさを感じました。

試合は残り20分になるまで鬼木達監督が動かなかったのに対し、浦和のオズワルト・オリヴェイラ監督はハーフタイムで新加入のエヴェルトンと杉本健勇を下げるなど早めに選手交代に踏み切りました。勝ちに執着するというよりはリーグ開幕前の観客を入れてのゲームをこなすという位置づけが色濃く見られました。

5人まで交代できるレギュレーションも影響し、終盤は途中投入の選手が自身のアピールに熱心になる代表チームの親善試合のような空気になりました。浦和が最後にパワープレー気味にボールを放り込みましたが、結局それ以上スコアが動くことはありませんでした。

1対0で終えた川崎は初めてシャーレではなくカップを獲得することができました。テレビ放送の都合上、準優勝チーム、審判団より先に表彰された選手たちは、ビッグイヤーを模したような銀色のカップを前にして笑みがこぼれました。

準備万端。そう思わせる王者の戦いぶりでした。


歴史が、変わりました。

アジアカップ決勝でこれまで一度も負けたことのなかった日本が、国を挙げて育成、強化を進めるカタールに敗れ、次のワールドカップホスト国に新調されたカップが手渡されました。

4バックで戦った準決勝のUAE戦の立ち上がりとは異なり、日本相手に3バックを採用して慎重に入ったカタール。それでもアルマエズ・アリ、アクラム・アフィフによるスピードあるカウンターを武器として備えていたため、対する日本も比較的慎重に守りを意識した戦いで臨みました。

にもかかわらず前半12分、アクラム・アフィフのやわらかい浮き球を受けたアルマエズ・アリにリフティングからのオーバーヘッドを決められてしまいます。

加えて前半20分の段階でこの日は守備に意欲的だった柴崎岳が警告を受けてしまい、まだ十分に時間がある中で無理ができなくなりました。遠藤航の負傷によって組まれた柴崎と塩谷司のコンビは連携の熟成度が高くはなく、また塩谷の攻撃への関与が少ないこともあって柴崎が相手にミスを狙われていたとも考えられます。

劣勢が続く中、カタールに追加点を奪われてさらに追い込まれます。前半27分、累積警告のため準決勝に出られずフレッシュな状態だったアブドゥラジズ・ハティムのミドルシュートが決まったのです。前にいたのは吉田麻也でしたが、直前にそばを走るアルマエズ・アリに一瞬気をとられて動きが止まり、ハティムに寄せきることができませんでした。

追いかける日本はサイドを突こうにもウイングバックも下がって5枚で守る最終ラインを破るのは容易ではなく、ペナルティボックスの中で決定的なチャンスをつくることができません。逆に前半35分にはその両ウイングバックもゴール前に迫ってきて、失点を重ねかねないピンチを招きました。

後半に入ると気持ちを切り替えた日本の選手は縦への鋭いパスを繰り出すようになり、少しずつゴールのにおいが漂いつつあったものの、UAE戦で好セーブを連発したサード・アルシーブを脅かすまでには至りません。

流れが変わったのは、セットプレー時に吉田との接触でブーアッラーム・フーヒーがピッチを去ってからでした。ユーティリティプレーヤーで安定感のあるフーヒーがいなくなったことで、カタールの中央のディフェンスが少しばかり弱体化しました。

そこで直後に入った武藤嘉紀が、得点を決めたウズベキスタン戦のようにサイドからのクロスに合わせる要員として送り込まれ、役割を果たそうとします。

こうしてクロスを意識させつつ中央に人数をかけてこじ開けたのが、逆襲の一歩となるはずだった南野拓実の今大会初ゴールでした。攻撃面でいいところが出ていなかった塩谷の縦パスを大迫が落とし、背番号9がアルシーブの牙城を崩しました。

一旦は2点ビハインドをひっくり返せるムードになりかけましたが、カウンターからコーナーキックを与えてしまい、そこで吉田がハンドのファウル。権田修一が倒れたあとにセットされたボールを蹴ったアクラム・アフィフにより再び2点差とされます。

悔やまれるのはコーナーキックに至ったカウンター時、ハティムがレフティであることはわかっていたはずなのに柴崎が反対の右足の方を切ってしまい、最後は左に持ち替えられてシュートを打たれてしまった場面です。柴崎は懸命に足を延ばして枠の外に逃がしたとはいえ、対応が甘かったと言わざるを得ません。

残された時間は10分を切っており、追い付くことさえ難しくなりました。この大会は22人を起用した総力戦ではありましたが、ジョーカーとして脚光を浴びた選手はいませんでした。切る手札がなければ状況打開の可能性は低く、森保一監督は塩谷を下げて伊東純也を入れるという不慣れな緊急対応をとることとなりました。

前線の人数を増やす日本に対してカタールはより一層守備を固め、得点ランキングトップのアルマエズ・アリもセットプレーではなくとも自陣サイド深くまで下がって守備に奔走しました。

最後は相手に巧みに時間を使われてしまい、5分のアディショナルタイムを有効活用することができませんでした。1対3。言い訳のできない敗戦です。

試合を通していえば、遠藤不在が大きく影響しました。攻守において柴崎をフォローする形で働いていた選手が出られなくなり、同じポジションを本職とする青山敏弘も大会途中でチームから離脱。そもそも大会前からセンターハーフの人材不足は懸念されていて、それが露呈したとも言えます。

結果としてカタールに勝者のメンタリティが植えつけられることとなった今大会。日本同様に今夏のコパ・アメリカを経験するカタールは、ワールドカップ開催を経て今後大きな脅威となりえます。


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