22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2018年09月

前半は立ち上がりこそ引かない姿勢でライン間を緊密にして戦っていた長崎の陣形を崩せずに苦労しましたが、前半10分あたりから川崎が完全に流れをつかみ、試合を優勢に進めました。

チームを上向かせるのに大きく貢献したのがセンターハーフでプレーした中村憲剛でした。

前半14分に枠をとらえた鋭いミドルシュートを放ちましたが、基本的にはポジションを低めにとって、ビルドアップの時には奈良竜樹の右に立ったり、両センターバックの間に立ったりしてそこからボールを動かし、センターサークル付近まで運んだ際には大きく左右に散らし、時には縦一本でハーフスペースに位置どることの多かった登里享平や果敢に攻め上がるエウシーニョを走らせたりしました。

長崎が次第に前線からのプレッシャーを弱めてブロックを敷いたことから、中村憲剛がより自由にゲームをコントロールできるようになり、また大島僚太さえも中村憲剛とともにセンターバックの間に立つ場面が出てきて、そこからサイドを使った攻撃を中心に長崎陣内に侵入しました。

そして家長昭博の右足のクロスが相手に当たって得たコーナーキックを先制点に結び付けます。中村憲剛の蹴ったボールを小林悠が流して最後は知念慶が押し込みました。前半35分のことでした。

直後は長崎が一時的に前に出てきたもののすぐに川崎が押し込む流れに戻り、前半41分、中村憲剛のスルーパスを登里が受け、丁寧なインサイドキックでマイナスのボールを入れます。中央に走り込んだ家長のシュートは徳重健太に阻まれますが、詰めていた小林が倒れている徳重の体を越えるやわらかい浮き球を繰り出して2点目を奪いました。

ハーフタイム間際にはボールを運ぶ鈴木武蔵を取り囲んでパスコースを完全に切って守り抜き、申し分ない出来で45分を終えました。

さすがに中村憲剛を自由にさせたままではよくないと判断した高木琢也監督は、後半頭から投入したファンマにゴール前での仕事のほかに中村憲剛をケアするタスクを課しました。

中村憲剛はポジションを下げないでファンマを外す動きをしてはいましたが、これによって川崎の攻撃は若干停滞しました。徐々に長崎がセットプレーのチャンスを得る機会が増えていきます。

川崎がそこをしっかり凌ぐと、長崎は攻撃時に選手の足が止まりがちになります。川崎のように中盤でボールを保持している時に前線に猛然と駆け上がる選手がいません。そんな相手の気落ちを悟ってか、知念と小林の2トップは労を惜しまないディフェンスで流れを引き戻そうとし、車屋紳太郎はサイドで鈴木武蔵との1対1を粘り強く制しました。

その後、長崎はサイドからの飯尾竜太朗、翁長聖のクロスを軸に再び攻めてきましたが、得点を奪えないまま時間は流れます。

長崎にとっては不運なことに前線のターゲットの一角であった鈴木武蔵がエウシーニョとの1対1で負傷。後半33分にピッチを去らなければならなくなりました。代わりにとファンマがポジションを上げてアンカーの位置に出てきて4-3-3気味の形になります。

長崎の後方の人数が減ると、川崎が決定機をつくりだしました。後半39分、阿部浩之のクロスを鈴木雄斗がヘッド。後半41分、中村憲剛のスルーパスを小林がキープして下げ、最後は家長がシュート。いずれも徳重に阻止されますが、とどめを刺すまであと一歩のところまで迫ります。

アディショナルタイムに入ると無理をしなくなった川崎に対して長崎が前線への放り込みを増やします。その結果、後半48分に翁長のロングボールをファンマが収めて一矢報いました。

しかし残された時間はほとんどなく、川崎が逃げ切ります。試合開始前にトップを走っていたサンフレッチェ広島がガンバ大阪に敗れたため、川崎は広島と勝ち点で並び、得失点差で首位に立ちました。涙の初優勝に続く連覇への道が開けてきました。


連敗中の神戸を率いることとなった林健太郎暫定監督は、4-3-3ではなく浦和に合わせるような形で5-3-2のシステムを採用。最終ライン5枚でディフェンシブサードのレーンを埋めて壁をつくり、中盤はアンカーを置く3枚の形を維持。前線はウェリントン、長沢駿とフィジカルにすぐれた選手を配しました。

しかしこの形が機能したとは言いがたい結果となりました。まず前半23分、浦和サポーターの煽る声に呼応したかのように青木拓矢にミドルを叩き込まれ、前半42分には柏木陽介のやさしいラストパスに泥臭く飛び込んだ興梠慎三に追加点を奪われます。

ここまではともかく、いただけなかったのは3失点目でした。右ウイングバックを務めた高橋峻希が自陣ペナルティエリア内で中途半端なパスを出してしまい、それを武藤雄樹に奪われてループシュートを決められたのです。ボックスの中は神戸の方が数的優位に立っていて、パスコースが確保されていたにもかかわらず、痛恨のミスでとどめを刺されました。

林暫定監督は直後に長沢に代えて古橋亨梧を投入して、4バックに戻しました。それでも守備の修正は効かず、後半31分に長澤和輝が柏木陽介のクロスに合わせて浦和のリードはさらに広がりました。

守備が崩壊した神戸は、攻撃にも迫力がありません。ウイングバックを置く形をとったためか重心が低く、浦和の守備時における安定した5-4-1の形を攻略する糸口をなかなか見つけられません。相手コーナーキックの際に2枚をハーフウェイライン付近に攻め残すなど、攻撃しようとする意思は見せていましたが、それが形になることはありませんでした。

ビルドアップのパスは最終ラインの選手が浦和陣内に入っても相手の4枚の中盤の前で回すばかりで、ときどきサイドに展開して前進するものの、パスサッカーに固執しているためか、そこから2トップの高さを生かそうとはほとんどしませんでした。それゆえ途中で長沢を下げて、ルーカス・ポドルスキをトップ下に据えたのでしょう。

アンドレス・イニエスタが負傷していなければ任されたであろうポジションについたポドルスキは、視野の広さを見せて大きなサイドチェンジなどを繰り出しはしましたが、シュートに直結するラストパスや左足を鋭く振り抜く強烈なシュートは出ませんでした。トップ下で攻撃により専念できるようになってもそれは変わりません。

結局、90分間で神戸が放ったシュートはわずかに4本。リードを広げながらもフリーキックのチャンスですばやく前線に走り、クイックリスタートをしなかった味方に怒りをあらわにする柏木のような存在はおらず、終盤に槙野智章が持ち上がって決定的なシュートを放つ機会が訪れるほど、浦和の守備陣にとってはイージーな完封ゲームになりました。

果たしてこの危機的状況を、大きな驚きをもって迎えられたフアン・マヌエル・リージョ新監督はどのようにして立て直すのでしょうか。


およそ1ヵ月半前、大勢の観客を集めたホーム・味の素スタジアムでアンドレス・イニエスタのいないヴィッセル神戸を下して以来、勝ち点3から見放されている東京。この日も前半は低調で先制を許す展開となりましたが、後半持ち直して首位の広島相手に勝ち点1を持ち帰ることができました。

低調とはいえ立ち上がりは東京も2トップで決定機をつくっていました。前半5分、ディエゴ・オリヴェイラが右サイドをドリブルで突き進んでクロスを入れ、リンスが合わせるも惜しくもポストの外側を叩きます。

さらに前半14分、ディエゴ・オリヴェイラの落としをリンスがミドルレンジからシュート。今度は林卓人に防がれました。

こうしたチャンスを生かせないでいると、前半9分に食らった広島のショートカウンターの心理的影響が大きかったのか、全体が引き気味になり、ボールの取りどころもはっきりしなくなりました。

重心が下がる悪い流れの中で遠目の位置からのフリーキックを与えてしまい、前半18分、キッカーの柴崎晃誠が青山敏弘にボールを下げ、青山がゴール前に放り込み混戦をつくりだします。最終的には高萩洋次郎のクリアがパトリックに当たってゴールに入ってしまいました。

失点により目が覚めた東京はここからプレスを強くかけだします。ただリードした広島は堅実に守備網を形成。圧縮されたライン間を攻略するのは難しくなりました。

状況打開に苦労しだすと今度は攻守の切り替えが遅くなり、それを広島に見透かされて激しく当たられてしまい、東京は前半のほとんどの時間を相手の掌の上で転がされたまま終えることとなりました。

しかし東京はロッカールームで切り替えに成功したのか、後半4分、高萩、リンス、ディエゴ・オリヴェイラとつなぎ、高萩や田邉草民が相手DFを引き付ける中でやや遅れてボックスに入ってきたリンスがディエゴ・オリヴェイラのパスを受けて同点弾を叩き込みます。和田拓也が絞ってタックルで阻止しようと飛び込みましたが及びません。前線の選手が連動した見事な崩しでした。

同点に追い付いて息を吹き返した東京。とりわけ東慶悟が意欲的にプレーするようになり、ディエゴ・オリヴェイラや高萩からのパスを受けるべく裏のスペースに走る場面が増え、ときには全体の押し上げを促すなどチームを引っ張る働きを見せます。

それに触発されるようにフィールドプレーヤー全員の動きも活性化。リンスは後半26分に足をつるまで走り切り、東京が得意とする自身の持ち場を離れて別のレーンに侵入しプレーに関与することも多くなりました。

リンスに代わってピッチに入った永井謙佑は、持ち前のスピードを生かして最終ラインの背後を狙って走ります。後半45分には左サイドで永井が相手を振り切りクロスを入れ、DFに当たったボールを高萩がシュート。後半48分には高萩が青山からボールを奪ってスペースへパスを繰り出し永井を走らせましたが、飛び出してきた林卓人に阻まれて得点には至りません。

タイムアップが近づくにつれて広島のシュートがなくなる一方、東京は再三裏を突いた攻撃を継続できただけに、逆転勝ちによる久々の勝ち点3奪取の可能性もありました。しかし敵地での首位チームとの戦いで同点に追い付いたことは今後につながるはずです。


森保一新監督の初陣となったこの試合、今後に関しては不明ながら、先のロシアでのワールドカップの主力がごっそり外れて選手選考が明確にリセットされたことにより、とりわけアタッカー陣が強い意欲をもってプレーしました。

前半16分、中島翔哉のコーナーキックを佐々木翔が頭で合わせると、ブライアン・オビエドに当たってコースが変わり、オウンゴールという形で先制に成功します。

続く前半39分には遠藤航の強い縦パスを小林悠が体をひねって胸で落とし、南野拓実がダイレクトで狙うも、絶対的守護神のケイロル・ナバス不在の中でゴールを任されたレオネル・モレイラがセーブしました。得点にはならなかったものの、すばやい展開で中央を攻略した見事な連携でした。

後半14分にも中島、小林、堂安律とつながり、20歳のアタッカーがシュートを放ちます。ここはモレイラに代わって入ったケビン・ブリセーニョが体を投げ出し、後方に流れたボールはルイス・エルナンデスがゴールライン手前でクリアしました。

いい流れで試合を進めた日本は、後半21分、中島のスルーパスに飛び出した遠藤がマイナスのボールを入れ、南野がこれを収めてフィニッシュ。2年前にリオ五輪を戦った選手達によって追加点が生まれます。

とどめは後半48分、この日好調ながら無得点に終わった堂安に代わって右サイドハーフを務めた伊東純也がゴール前で仕掛けて左足を振り抜きました。昨年末のE-1サッカー選手権では消極的なプレーも見られた伊東ですが、ゴールを奪うという強い意思を感じさせるプレーを披露しました。

こうして日本は危なげなく完封勝利を収めることができました。数少ないピンチは前半29分のオビエドのミドルシュートくらいでした。堂安の開けたスペースを突かれたこの場面は、元チームメイトの東口順昭が防いで大事には至りませんでした。

ただし、これでよかったと心から言える戦いではありません。

森保監督はこれまで3-4-2-1を採用することがほとんどだったのにもかかわらず、今回は4-4-2と4-2-3-1を使うにとどまりました。後半半ば、南野の得点でセーフティーリードしたところで、システムを変えてみる手もあったはずです。しかし、それはしませんでした。

堂安、中島の両サイドハーフ、特に堂安はハーフスペース、ときには中央のレーンまで絞ってプレーはしたものの、基本はサイドアタッカーとしてふるまいました。したがってそのプレーぶりから将来的にシャドーの役割を担えるかどうかははっきりしません。

監督がU-21代表との兼任になっていながらやり方に統一感がなく、そのメリットを最大限に生かしたとは言いがたい状況です。ワールドカップ本大会で突如棚上げにされた若手の引き上げ、世代交代を進めるという難しい課題を抱えているからこそ、こういう試合で選手起用にとどまらずテストをするべきではなかったか。そう思わざるを得ません。これでは単に選手選考をする人物が同じというだけになってしまいます。

あえて前向きに考えるならば、4ヵ月後に迫ったアジアカップまで時間がないことを考慮して、フル代表では当面継続性を重視し、なじみのあるシステムを採用して大会後に軌道修正するつもりなのかもしれません。

いずれにしてもまだ1試合、それも親善試合が終わっただけなので、今後の戦いぶりを見ていくしかなく、U-21代表がアジア大会で準優勝に輝いたように、真剣勝負のアジアカップで結果を出せればそれに越したことはありません。


どこかで緊張の糸が切れてしまったら、大量失点を食らって惨敗していたかもしれません。それほどまでに中国の激しい攻撃を受けながら、終了間際に値千金のゴールを奪って日本は金メダルを獲得しました。

決勝トーナメントに入って対戦した北朝鮮、韓国同様、いやそれ以上に中国は前線からプレッシャーをかけてきました。ボランチへのパスコースは塞がれ、日本が最終ラインでボールを回す時間がいたずらに長くなるばかりで、ならばと清水梨紗にボールを渡せばすぐさまサイドハーフの古雅沙が襲いかかりました。

脅威にさらされた場面は一度だけではありません。前半13分には有吉佐織がボックス内でボールを奪われ、そのままシュートに持っていかれましたが、鮫島彩がじっくりと相手を見て立ちはだかったことで防ぎます。

4分後には王珊珊が切り返してマイナスに出したボールを、中央に絞った古雅沙がシュート。これは山下杏也加がこぼすことなく見事にキャッチしました。

劣勢の日本はシュートはおろか相手のアタッキングサードに侵入することもままならず、人数をかけた激しい寄せをかいくぐるために中盤で少ないタッチで回そうとしてもつなぎ切れず簡単に中国ボールになってしまいました。

中国はキック力、速さ、高さの面で日本よりすぐれていて、日本は極力ラインを高く保つことでオフサイドをとってはいましたが、全体としてはなかなか重心を前に上げられません。

エンドが変わっても状況は変わらず、依然として中国ペースで試合は進みます。後半8分には鮫島の味方へのパスを狙ったようにも見えるクリアボールを王霜に拾われてスルーパスを出され、王珊珊に抜け出されるも三宅史織と山下がペナルティエリアという極めて神経を使う場所で集中した対応をしてシュートを打たせませんでした。

後ろの選手がしっかりとした守備をしているとはいえ、悪い流れには変わりはなく、高倉麻子監督は籾木結花に代えて、前線でターゲットになれる菅澤優衣香を投入します。菅澤がいることで中盤からボールが出しやすくなり、また守備面においても効果が表れ、プレスをかける位置が高くなりました。

シュート数こそ増えないものの日本が少しずつ流れをつかみかける中、序盤から飛ばしていた中国は徐々に失速します。

それでもピンチは訪れました。後半31分、王珊珊、趙容、古雅沙とつながりゴールを狙われたのです。しかしここも山下がすばらしい反応をして逃れます。

延長も見えてきた残り10分を切ったあたりからは、日本はショートパスで崩す形よりも最終ラインからロングボールを蹴って、中盤を省略する攻撃を多用し始めました。この縦への意識が実を結んだのが後半45分のことです。

清水が自陣から前方に大きく蹴ると、菅澤ではなく岩渕真奈が抜群のポストプレーを披露してボールを懐に収め、サイドを上がる中島依美にタイミングを計ってパスを出します。中島は深い位置までえぐることなく早めにクロスを入れ、そのボールに菅澤が泥臭く飛び込んでゴールネットを揺らしました。

この1点を守り切ったなでしこジャパンは、8年ぶりにアジア大会を制しました。

海外組がいない、加えて東京五輪を見据えてか招集したのは18人のみ――と決して万全の状態で臨んだ大会ではありませんでしたが、どんなに追い詰められても最後までしぶとく戦うなでしこのDNAを受け継いだ選手達はたくましく5試合を勝ち抜きました。


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