22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2018年07月

好守の様々な局面に応じて互いにシステムを変化させ、ともに強烈なカウンターを武器として持ちつつ相手を破壊しようと全力を尽くす前半が終わったとき、この濃密でハイレベルな攻防はいったいどこまで続くのかと期待させましたが、後半6分にサミュエル・ウムティティの先制弾が決まると状況は変わり、フランスが守備を固めて逃げ切る形となりました。

ベルギーがブラジル戦とはまた少し違った形の可変式システムを採用したのに対抗し、フランスも準々決勝は出場停止だったため休養十分のブレーズ・マテュイディが左サイドと中央を行き来して4-4-2(4-2-3-1)と4-3-3を併用したシステムで挑みます。

立ち上がりはベルギーがフランスゴールに迫る機会が多く、前半21分にはケビン・デ・ブライネのクロスをラファエル・バランが当ててコーナーキックになると、ナセル・シャドリのキックをマルアン・フェライニが落とし、トビー・アルデルバイレルトがシュートを放ちます。しかしここはウーゴ・ロリスがセーブしました。

前半30分を過ぎたあたりからは逆にアントワーヌ・グリーズマンが攻撃に絡む場面が増えます。前半33分、前半37分には自らゴールを狙い、前半34分にはキリアン・エムバペにパスを出し、背番号10がクロスを入れてオリビエ・ジルーがシュートを放つ形ができました。

勢いの増したフランスは前半39分、エムバペのスルーパスに反応したバンジャマン・パバールがシュート。これはティボー・クルトワが防ぎます。

この流れを途切れさせることなく後半に突入したレ・ブルー。後半6分にジルーのシュートがバンサン・コンパニに当たって得たコーナーキックを生かします。グリーズマンの蹴ったボールにウムティティが頭で合わせ、待望のゴールを奪いました。

さらに5分後にはカウンターを仕掛け、セカンドボールを最終的にはジルーが狙いましたが、この日スタメンに抜擢されたムサ・デンベレが体を張って防ぎます。

追い付かなければならないベルギーは、そのムサ・デンベレに代えてドリース・メルテンスを投入します。これにより、デ・ブライネが一列うしろに下がることとなりました。ブラジル戦同様にデ・ブライネが前線にいることで相手の脅威になっていたのですが、基本の形に戻して攻撃の枚数を増やすことをロベルト・マルティネス監督は選択しました。

リードしているフランスは、ジルーがグリーズマンより下がった位置をとったり、ポール・ポグバが最終ライン付近に立つなどチームのために選手が貢献する、規律正しいディフェンシブな戦いに切り替えてきました。

ゴール前を閉じられたため、ベルギーの攻撃はブロックの外でボールを回してサイドからクロスを入れる形が中心となってしまい、どんどん単調になっていきます。

こうして流れを引き寄せられなかったことから、マルティネス監督は後半35分、中央での高さ勝負にこだわることをやめてフェライニを下げ、ヤニック・カラスコを送り込みます。

するとディディエ・デシャン監督は後半40分にトップのジルーに代えてスティーブン・エンゾンジを投入。残り時間が少ない状況で逃げ切り態勢に入ります。

その後のフランスは相手陣内でキープする時間を増やしつつ、前がかりになったベルギーの攻撃を受けたあとにはカウンターを発動。後半48分にはエムバペのスピードを生かした逆襲を披露します。ここはコンパニが阻止してみせました。

後半51分にもポグバからのボールを受けたコランタン・トリソが追加点を奪いにいきましたが、今度はクルトワが防ぎます。これで得たコーナーキックでボールをキープして試合を終わらせました。

フランスは魅力的なサッカーに固執することなくチーム全体で現実的なサッカーを志向して、20年ぶりのワールドカップ制覇に王手をかけました。このあたりは経験のなせる業かもしれません。


前の試合で日本に劇的勝利を収めたベルギーは、その立役者であるマルアン・フェライニとナセル・シャドリをスタメンで起用。ただしこの試合はチュニジア戦と同じようにフェライニを3列目にして、ケビン・デ・ブライネを前に上げる形をとりました。これでデ・ブライネは攻撃により集中できるようになります。

前線の並びはロメル・ルカクを中央ではなく右サイドに置き、デ・ブライネを真ん中、エデン・アザールを左に配しました。エデン・アザールは時折シャドリとポジションを入れ替えます。

デ・ブライネを上げた効果は早速現れ、前半2分にマンチェスター・シティではチームメイトのフェルナンジーニョからボールを奪ってそのままミドルシュートを放ち、ブラジルゴールを襲います。

対するブラジルはコーナーキックからチャンスをつくり、前半8分にネイマールのキックをミランダがすらし、チアゴ・シウバのシュートがポストを叩きます。2分後にはウィリアンのコーナーキックが流れ、フリーのパウリーニョがシュートを打ちますがヒットせず、クリアされてしまいました。

すると前半13分、デ・ブライネの絶妙なスルーパスを受けたフェライニがシュート。ボールはディフェンスに当たってコーナーキックを得ます。シャドリのキックはフェルナンジーニョに当たり、ベルギーが先制します。

その後はタイトな守備でブラジルの攻撃を抑え、セレソンを攻めあぐねらせ後手に回らせると、ベルギーは鋭利なカウンターを見せて追加点を奪います。

前半22分のカウンターは失敗しましたが、前半31分のそれは見事に成功します。ネイマールのコーナーキックをクリアすると、そのボールをルカクが収めて迫力あるドリブルをスタート。ブラジルの選手を引き付けつつバイタルエリア手前まで運ぶと、右サイドでフリーのデ・ブライネに預けます。デ・ブライネは得意のレンジからいつものように豪快なシュートを叩き込みました。

前半飛ばして2点リードで折り返したベルギーに対し、ブラジルのチッチ監督は後半頭からウィリアンに代えてロベルト・フィルミーノを、後半13分にガブリエウ・ジェズスを下げてドウグラス・コスタを入れ、後半28分にはパウリーニョからレナト・アウグストに代えます。

早めに動いて仕掛けるブラジルの攻撃をベルギーは中央を固めて守ります。個人技と連係プレーを織り交ぜてアタッキングサードに敷かれた窮屈な守備網を攻略するのが得意なブラジル相手にまったく引けを取らない戦いぶりで、加えて最後尾にはティボー・クルトワが立ちはだかりました。

結局、後半31分のコウチーニョがバンサン・コンパニとヤン・フェルトンゲンの間に落としたラストパスに飛び出したレナト・アウグストによる1点に抑えてベルギーが準決勝進出を果たします。冷静に90分をコントロールしての見事な逃げ切りでした。

世界最速で予選を突破して6度目の優勝を目指したブラジルは、初戦のスイス戦で勝ち切れなかったこともあり、負傷や体調不良、累積警告による出場停止以外ではスタメンをいじらずにここまで来ました。試合の途中で4-4-2にシフトすることはありましたが、スタートの形に変化が乏しかったのは事実です。

またこの試合ではセンターバックの前でフィルター役を担っていたカゼミーロが出場停止だったことも大きく響きました。フェルナンジーニョも同じポジションをこなせる選手ですが、守備力の低下は否めません。

優勝候補筆頭とも目されていたブラジルを倒したベルギーは、初優勝に向けてまた一歩前進することとなりました。



危険な賭けによるポーランド戦の悪しきイメージを払拭することはできました。一時はベルギーを敗退の危機に追い込むことにも成功しました。しかし、やはり負けは負けです。長い長いサッカーの歴史を考えれば、日本は世界に強烈なインパクトを残すことはできないままロシアから去らなければなりませんでした。

試合はバンサン・コンパニがスタメンに復帰してベストな陣容できたベルギーに対し、日本も少ない準備期間の中で見つけた、これしかないというメンバーで臨みました。

慎重に入ってきたベルギーは、徐々にギアを上げてきます。それでも酒井宏樹がヤニック・カラスコからボールを奪ったり、エデン・アザールに3人がかりでつぶしにいったりするなど、懸命のディフェンスで堪えました。ロメル・ルカクをぶつけられた昌子源も当たり負けしまいと奮闘しました。

前半31分には吉田麻也がサイドチェンジをして、香川真司がヒールで流すと長友佑都がクロスを入れ、乾貴士が頭で合わせる場面がありました。惜しくもティボー・クルトワの正面でしたが、セネガル戦で見せたような流れのある攻撃を披露します。

我慢強く、決して悪くない流れで前半を0対0で終えると、後半立ち上がりに一気に2ゴールを奪います。

まず後半3分、乾が奪ったボールを柴崎岳が前線に通すとヤン・フェルトンゲンの足が及ばないところに転がり、走り込んだ原口元気が落ち着いてゴールに蹴り込みました。

4分後、今度はコンパニの中途半端なクリアボールが香川にわたると、背番号10は相手を引き付けてから乾に預け、乾は強烈な無回転ミドルを決めました。

ジャイアントキリングが成功するかもしれない。そんな期待を抱かせるには十分な展開となるも、それは長くは続きませんでした。後半20分、マルアン・フェライニとナセル・シャドリがピッチに入ってきたのです。

フェライニはケビン・デ・ブライネを一列上げるために入ったのではなく、ロメル・ルカクの背後にポジションをとるべくピッチに足を踏み入れました。しかもデ・ブライネも2点のビハインドを打開すべく立ち位置を上げてきました。

すると後半24分、コーナーキックの流れで乾のクリアミスに反応したフェルトンゲンに川島永嗣の頭上を越えるヘディングシュートを決められてしまいます。ベルギーはセットプレーでファーサイドにボールがいったときは、ほぼ中央に折り返していましたが、ここはシュートを選択。それが見事にはまりました。

前がかりになったベルギーの勢いは止まらず、後半29分、またしてもコーナーキックの流れでエデン・アザールのクロスが上がると、フェライニが高さを生かして頭で合わせ、同点に追い付きます。

完全に相手に流れをつかまれた中で、西野朗監督はまったく動きません。動けません。ようやく交代のカードを2枚同時に切ったのは、残り10分を切った後半36分のことでした。

指揮官はこれまで攻撃のタクトを振るってきた柴崎を下げて山口蛍を送り込み、香川を下げるのではなく裏に走る力のある原口を下げて本田圭佑を投入しました。点を取られるのは怖いが、得点を取らなければ次はない。それゆえの交代策だったのでしょう。

しかし後半49分、本田のコーナーキックが難なくクルトワにキャッチされ、瞬く間に鮮やかなカウンターを決められてしまいます。後方に人は置いており、まったく警戒していなかったわけではありませんが、対応しきれませんでした。

しぶとく粘って延長に持ち込むこともできず、90分間で最後となる3枚目の交代カードを切ることもできず、残された時間がほとんどないところで逆転を許してしまいました。

やはり準備期間の短さ、突貫工事で挑んだがゆえの敗退でした。4月に策士、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任後、メンバー選考の猶予はほとんどなく、残されていたのは親善試合3試合のみ。そのうち最初のガーナ戦は本大会で結局使うことのなかった3-4-2-1で戦っていました。

そんな状況ではさすがに限界があります。その代償として、大きな可能性を持っていた大島僚太をはじめ、リオ五輪のメンバーは誰ひとりとしてピッチに立つことができませんでした。指揮官は彼らを生かす術を持たず、ポーランド戦でメンバーの入れ替えを行ったとはいえ、限られた枠の中での選手起用となってしまいました。

急ごしらえのチームでどうにかなるほどワールドカップは甘くありませんでした。選手の力だけではいかんともしがたく、グループリーグは突破したものの日本はまたもやノックアウトフェーズの最初の壁を乗り越えることができませんでした。

はたして今回のことを高く評価するのではなく、反省をして前に進むことができるのか。結果的に大きな疑問が残る大会となりました。


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