22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2018年06月

指揮官の判断は失敗していれば無謀と言われても仕方のないものでした。

そのひとつが先発の6人入れ替え。初戦、第2戦とまったく同じメンバーで戦ったことによる疲労の蓄積やピッチ上の気温の高さが考慮されての決断でしょうが、親善試合と違って3枚しか交代カードがないにもかかわらず大幅な変更をしたのは、まだ決勝トーナメント進出が決まっていない日本にとっては非常にリスキーな選択でした。

実際、起用に応えたとは言いがたい選手もいて、たとえばワールドカップデビューを果たした武藤嘉紀はゴール前でボールを受けながらなかなかシュートを打たずにドリブルを始めてチャンスをつぶす場面が多く、山口蛍は自陣で不用意なファウルを犯してフリーキックを与えてしまい、結果としてヤン・ベドナレクの先制点につながってしまいました。

とはいえ敗退が決まっているポーランドのモチベーションが高くなく、インテンシティの低いゲームとなったため、時折見せるカウンターを除けば比較的余裕をもってプレーできました。それだけにピッチに立った選手には冷徹な判断が必要とされましたが、前半12分から16分にかけての3本のシュートを除けばあまり効果的な戦いができたとは言えません。

そして無謀と思われる判断の極めつけは終盤の時間の使い方です。同時キックオフのセネガル対コロンビアでコロンビアが後半29分に1点リードしたことを受けて、後半37分の長谷部誠投入とともに攻めを放棄した後方でのボール回しに移行しました。

こうした戦い方をすること自体はケースバイケースで許されるものながら、今回はフェアプレーポイントというほんのわずかな差でしか日本はセネガルに対して優位に立っていない状況で、もしコロンビアが追加点を奪ってしまえば一気に敗退へと変わってしまう危険なものでした。すでに勝ち点4を持っていただけに、その場合に日本が受けるダメージは計り知れず、次のチャンスは早くても4年先まで巡ってきません。

しかも大迫勇也と乾貴士を送り込み、長谷部が入ったことで柴崎岳の守備の負担が軽減されていたとはいえ、この時点での日本はもし得点が必要なシチュエーションに変わった際に即座に対応しきれるようなチーム状態ではありませんでした。

幸いもう1試合のスコアはそれ以上動かず、勝ち点3を確実に獲得して帰国できるポーランドも日本に付き合って執拗に追い回すことをしなかったため、ギリギリのところでノックアウトフェーズに進出することができました。

結果的に主力の多くをフル出場させることなく温存することに成功。またここ2試合のパフォーマンスが安定していなかったベテランの川島永嗣が調子を取り戻すことができました。

川島は前半32分のカミル・グロシツキのシュートをゴールラインを完全に割る前に防ぎ、後半36分の槙野智章のあわやオウンゴールかというボールも止めました。

ベンチワークを含めた戦い方に疑問を残し、見どころの少ない試合を経たからには次のベルギー戦で死力を尽くし、前線に世界トップレベルのタレントを擁する相手を下して、日本サッカー念願の準々決勝進出を果たすしかありません。


コロンビア戦で思ったほど体力を消耗しなかったからなのか、はたまた8年前の南アフリカ大会と同様にほかに打つ手がないのか、前の試合とまったく同じスタメンで臨んだ日本は難敵セネガルに二度リードを許しながらも執念でドローに持ち込みました。

この試合でもっとも躍動していたのは柴崎岳でした。スペインでもまれた背番号7は的確にボールを散らし、ゲームをコントロールして効果的な攻撃をつくりだすのに貢献していました。キックオフ直後こそ脅しのようにハイプレスをかけてきたセネガルでしたが、その後は落ち着き、柴崎へもそれほどタイトに来なかったのも救いでした。

最初に同点に追い付いた前半34分の乾貴士のゴールは、柴崎が中央から左サイドの長友佑都に展開したところから始まりました。長友はファーストトラップでムサ・ワゲをかわし、そこで乾にスイッチしたことで得点につながりました。

さらに後半15分には右サイドに流れて低いクロスを入れ、大迫勇也が合わせればというチャンスをつくりだし、また後半43分の本田圭佑のクイックリスタートを受けたときにもクロスを供給します。

柴崎は守備でも3列目の選手として働きました。最終的にファウルにはなりましたが、前半26分には日本の左サイドをドリブルで突き進むエムベイェ・ニアンにしぶとく食らいついて攻撃を遅らせました。

そして再び1点ビハインドになり追い込まれた日本を生き返らせたのが、本田でした。後半33分、大迫のクロスによってゴール前で混戦となり、こぼれたボールを乾が拾ってマイナスのボールを入れると岡崎慎司がつぶれ役となってカディム・エンディアイエを封じたことで流れたところを仕留めました。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督のサッカーに服従することを拒んだ男が、厳しい局面でチームを救いました。

終盤は勝ち点3をとりにきたセネガルがパワープレーを実行。苦手な形に苦しめられましたが、大迫も戻って対応するなどして乗り切りました。もちろんそこまで懸命に跳ね返していた吉田麻也、終始ニアンとのデュエルを余儀なくされた昌子源、そして空中戦にも対応した酒井宏樹は最後まで集中して守っていました。

そうした中で悔やまれるのは、やはり前半11分の失点シーンです。ワゲのクロスがファーサイドに流れた際、フリーな状況だったにもかかわらず原口元気が中途半端なクリアをしたことでユスフ・サバリにいとも簡単にボールを明け渡しシュートを打たれます。これを川島永嗣がパンチングすると、目の前にいたサディオ・マネに当たってゴールネットを揺らされてしまいました。

ただ、引き分けとはいえ追い付いて終えた試合なので、日本としてはポジティブに考えられる結果でした。グループリーグ最終戦はすでに敗退の決まったポーランドが相手です。これ以上先に進めないポーランドがどのようなモチベーションで、選手たちで臨むのかはわかりませんが、とにかくこの機会を逃さず、ひたすらにひたむきに戦い抜いてイングランド、あるいはベルギーの待つ決勝トーナメントに進むしかありません。


前半3分、カルロス・サンチェスの退場がすべてを変えてしまいました。

ホアン・モヒカのクロスを昌子源がクリア。そのボールを香川真司がダイレクトで浮き球を背後に送ると、大迫勇也がスピードに難のあるダビンソン・サンチェスに当たり負けせずシュートまでもっていきます。これはダビド・オスピナが防ぐも、ゴール前に詰めていた香川が押し込みにいき、カルロス・サンチェスがボールを腕に当ててしまいました。香川は落ち着いて真ん中寄りのコースにPKを決めます。

数的不利になったコロンビアはあまり無理ができなくなりました。トップ下のいない4-4-1のブロックを敷き、日本を待ち構えるスタイルをとるようになります。

こうなるとプレッシャーが緩くなった日本は最終ラインでゆっくりとボールを回す時間を増やします。グループリーグ最終戦で両者ともに決勝トーナメント進出が決まっている中、互いの利益のために費やす最後の5分間のように第三者から見れば実に退屈な展開に持ち込みました。

コロンビアはフアン・クアドラードが右サイドで勝負を仕掛けるものの、長友佑都がタイトについて仕事をさせません。これを重く見たかホセ・ぺケルマン監督は前半31分にクアドラードを下げます。

日本優位の流れでしたが、前半37分に長友のクリアミスをきっかけに長谷部誠がラダメル・ファルカオにファウルをしてしまい、与えたフリーキックをフアン・キンテーロに決められて同点に追い付かれます。日本の選手がつくった壁の下を通され、川島永嗣はそれを止めることができませんでした。

まだ時間は残っており、数的有利な状況は変わっていないことから慌てる必要はなかったのですが、日本はチームとしての経験不足からかパスのずれが目立ち始め、パラグアイ戦の昌子のプレーがいいイメージになっていたのか、パスをしない場合は後方の選手がなんとなく相手陣内に持ち出すシーンが増えました。

一方、チャンスがあれば速くすべきはずの守から攻への切り替えは遅く、後半10分に長谷部がファルカオからボールを奪取したあと、長谷部もその周囲にいた選手も前線への上がりはゆったりとしたものでした。こうした好機を生かせれば、コロンビアを恐怖に陥れ、奈落の底に叩き落せたかもしれません。

それでも後半28分に酒井宏樹のパスを受けた大迫勇也が体を張ったポストプレーでキープし、酒井に戻すと右サイドバックはシュートを放ち、相手に当たってコーナーキックを獲得。ここで香川に代わって入ったばかりの本田圭佑のキックに大迫が体を伸ばして合わせ、勝ち越しに成功します。

止めたボールのキックでは結果を出した本田でしたが、後半32分、柴崎岳が倒れている中でバックパスをミスしてしまいカウンターを食らいかけました。ここは長友がクリアをしたことで難を逃れます。

その後は再びゆったりとした後方でのボール回しに終始。サイドでのフリーキックも短くつなぎ、時間を使ってやり過ごします。時折攻め込まれはしましたが、この日は1対1で止められることの多かった乾貴士が下がってディフェンスに貢献するなど、自陣では最後まで集中を切らしません。

日本にとっては、本調子ではない途中出場のハメス・ロドリゲスが4年前のコートジボワール戦におけるディディエ・ドログバのような脅威にならなかったことも救いとなりました。ボールの供給役が機能しなかったことで、前半12分と前半34分に日本ゴールを襲ったファルカオが消えてしまいました。

無事逃げ切りに成功し、アジア勢としては初めてワールドカップで南米のチームに勝利を収めることができました。これは歴史的な快挙です。結果を出したことで得られる自信ははかり知れず、これからの日本サッカーにとって大きな財産になることは間違いありません。

しかし、選手・スタッフ含め全員の知力と体力の限りを尽くし、インテンシティの高い攻防が繰り広げられている今大会では異質な、スローテンポなサッカーで勝ってしまったことが次戦以降に生かせるか、通用するかどうかははなはだ疑問です。

南米、アフリカ、ヨーロッパと、アトランタ五輪と同じような対戦順になっている今大会。この勝利だけで終わらせないように、勝ち点6をとりながら決勝トーナメントに進めないといった結末にならないように次の2試合を戦い抜くことができるかどうか。西野朗監督が率いるこのチームを好評価するのはまだ早いと言わざるを得ません。


相手の出来はどうあれ、とりあえずは連敗と無得点の苦しみから脱出し、ムード回復につながる逆転勝利を収めることができました。

控え組と目される日本の選手たちは最初からよく動けていました。トップのフェデリコ・サンタンデールが時折寄せてくる以外は、パラグアイのチーム全体のプレッシャーが緩かったこと、逆に酒井高徳のサイドがロングボールで狙われる以外は日本の選手がファウルで止めるような危ない場面がほとんどなかったことが理由として考えられます。

前半は柴崎岳のクロスバーをかすめたフリーキックくらいしか惜しいシーンはなかったのですが、後半に入ると中盤と最終ラインの間が空いているパラグアイに対して積極的に仕掛けていきます。

後半6分、昌子源が相手陣内まで持ち込み混乱を生じさせて香川真司に預けると、香川はすぐさま乾貴士に渡して乾とは逆方向に走ります。空いたスペースを生かした乾のミドルシュートがゴールネットを揺らし、新生日本の初ゴールが生まれました。前半ボールコントロールのミスが目立った乾は、ハーフタイムでスパイクを変えたといいます。

後半18分、武藤嘉紀が首を上げてクロスを放り込むそぶりを見せつつ横パスを出すと、香川がフリック。流れてきたボールをまたもや乾が流し込んで加点します。

さらに後半32分、柴崎のフリーキックがサンタンデールに当たり、3点目を奪います。これは後半開始からプレーしていた酒井宏樹の粘りから得たリスタートでした。

とどめは香川です。後半26分の切り返してのシュート、後半35分の原口元気からのプレゼントパスを受けてのシュートをいずれも外した背番号10がアディショナルタイムに得点を挙げて試合を終わらせました。

ワールドカップでここまで何度も楽にフィニッシュまで持ち込めることはほとんどないでしょうが、得点力不足に泣いていた今のチームにとってはいい練習になりました。

ただ、そうした中でも課題は残り、この試合でもリスタートの対応のまずさから2失点しました。先制点はロングスローがわかっていながら十分に対応しきれずに、2点目はウィリアム・メンディエタのフリーキックのこぼれ球のクリアが中途半端になったために与えてしまいました。そのどちらも柴崎の処理が問題となりました。

また流れの中で柴崎と山口蛍はまるで背後にアンカーが存在するのではないかと思うほどの危なっかしい位置取りをしており、この日は幸いピンチにはつながらなかったものの、不安要素として残りました。

とはいえ勝ってコロンビア戦に臨むことができます。はたして本大会は躍動した控え組を主体にするのか、それともヴァイッド・ハリルホジッチ前監督解任から今までの経緯を踏まえて本田圭佑を中心としたベテラン組で構成するのか。その陣容は本番前に少なからず漏れ聞こえてくるかもしれませんが、19日になってみないとわかりません。いずれにしても今後の行方は西野朗監督がどう腹をくくるかにかかってきました。


前半半ばまではすばやい囲い込みで日本の選手にスペースと余裕を与えず、後ろ向きにプレーさせたスイスでしたが、本大会のブラジル戦前最後の試合ということもあってか、ホームとはいえトレーニングのような無理をしないプレー強度に落ちていきます。

対する日本はガーナ戦で機能しなかった森保式の3-4-2-1ではなく、本田圭佑をトップ下に据えたなじみのある4-2-3-1を敷き、メンバーをそろえて勝ちに行く姿勢を見せていました。両者の間には明らかな温度差がありました。

それでも勝てないのが新体制の今の日本。枠をとらえたシュートは決して少なくなかったものの、前半25分の長谷部誠のロングシュートも、前半33分の大島僚太の左足ミドルも、その5分後の本田のシュートも、さらには後半26分にカウンターで3対3の状況をつくってからの原口元気のシュートもすべてロマン・ビュルキの正面でした。

ガーナ戦で多少見られた前任者の遺産ともいえる後方からのロングボールを使っての散らしはほとんどなくなり、前線の個の力、想像力に大きく依存したつなぎ、崩しは、中央をがっちり固めるスイス相手にはまるで通用しません。原口、宇佐美貴史の両サイドの仕掛けの意識も低いままで、おそらく目指しているであろうやりたいサッカーはその片鱗すら見せられませんでした。

まったく可能性を感じさせない攻撃に終始する中、日本は簡単に2失点を喫しました。前半40分、ウクライナ戦同様に酒井高徳がブリール・エンボロにあっさり振り切られてしまい、後方にいた吉田麻也がファウルを犯してPKを与えてしまいます。これをリカルド・ロドリゲスに豪快に決められて先制を許しました。

2失点目は後半36分に柴崎岳のコーナーキックが合わなかったところから始まります。ボールを回収することができずに難なく、それもあまりスピードのないカウンターを発動され、流れの中で左サイドを走ったジェルダン・シャキリのクロスをフランソワ・ムバンジェが折り返し、最後はハリス・セフェロビッチが押し込みました。

それ以外でも川島永嗣と吉田の連携が不十分でピンチを招いたり、川島のスローイングがシャキリにカットされてもう少しでループシュートを決められそうな場面もありました。

日本は攻守両面においてポジティブな要素がないまま、今回出なかったメンバー中心にパラグアイとの試合をこなし、ワールドカップに突入することになりそうです。


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