22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2018年04月

当初、持ち味を存分に発揮していたのは東京の方でした。プレッシャーが単発で試合の入り方がよくなかった名古屋に対して攻勢を仕掛け、ゲームを支配。特に左サイドの太田宏介を使っていきます。

太田は単純なクロス放り込み一辺倒ではなく、クロスと見せかけて突破を図ったり、低いクロスを入れたりするなど工夫を凝らしてチャンスをつくろうとします。

先制点はその太田のフリーキックの際、ペナルティエリア内でファウルがあったとして得られたPKによってもたらされました。ディエゴ・オリヴェイラが時間をかけた助走から落ち着いてゴールに沈めます。

続いて力を見せたのは、古巣の名古屋サポーターから強烈なブーイングを浴びた永井謙佑でした。持ち前のスピードで、ペナルティエリアを飛び出してきたミチェル・ランゲラックのクリアミスを誘い、そのボールを拾った橋本拳人のラストパスに合わせて追加点を奪いました。

3点目も永井が前方に流れたボールに全速力で追い付き、絶妙なクロスを入れてディエゴ・オリヴェイラのゴールにつなげました。アシストをした永井は喜びを爆発させます。これが効果的な、後半1分も経たないうちの得点でした。

対する名古屋は前半、ボールを止めて、蹴るという動作をあまりにも慎重にやりすぎたため、簡単に東京のプレスにはまっていました。また蹴るボールも散水をした味の素スタジアムのピッチが劣悪なのかと思わせるほどスピードがなく、風間八宏監督の目指すサッカーを体現できていませんでした。

後半に入るとロッカールームで発破をかけられたのか、スピードのなさが改善され、攻撃に勢いが出てきました。そして前半32分のジョーのゴールと同様、相手ゴール前でのガブリエル・シャビエルのフリーキックを今度はホーシャが合わせて後半18分に1点差に詰め寄りました。

東京からすればシャビエルというすぐれたキッカーがいるにもかかわらず、名古屋にゴール前でセットプレーを与えすぎていました。ディフェンシブサードの守備には修正の余地があります。

その後、長谷川健太監督はやや運動量の落ちてきた前線の選手を東慶悟、前田遼一、富樫敬真に代えますが、さらにもう1点取りにいくというよりは、名古屋が時間の経過とともにロングボールを多用し始めたこともあり、次第に全体の重心が低くなりだしました。したがって富樫が最前線で必死にプレッシャーをかけても、うしろの選手はなかなか持ち場から離れようとしません。

1点失えば勝ち点2を落とす状況で最後に踏ん張りを見せたのは、前線で唯一フル出場した大森晃太郎でした。苦しい中でも労を惜しまぬ走りで相手に簡単に攻めさせまいとしました。そのハードワークもあって、東京は逃げ切りに成功します。

上位チームの戦い方として、東京が90分を通して安定していたかというと疑問も残りますが、とにもかくにも打ち合いを制して勝ち切れたことは大きいと言えるでしょう。


まさか、4年に一度しか開催されないワールドカップを目の前にして、選手とのコミュニケーションの問題、そして信頼関係が少し薄れたという一方的な主張だけをきっかけにチームが崩壊してしまうとは思いませんでした。

会見によれば、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は公平な競争を促していました。周囲がパニックになるような若手の抜擢。それに応えた選手――これは例を挙げるなら浅野拓磨と井手口陽介でしょう。その一方でオーストラリアに完璧な勝利を収め、困難な予選突破を果たしたにもかかわらずがっかりしていたというベンチの2選手。その2人は以前は試合によく出ていたといいます。

会見では選手を名指しで批判しない主義のハリルホジッチ前監督は、決して個人名を挙げることはしませんでした。しかしそのうちの1人は前監督が絶賛した2016年6月のブルガリア戦の大勝で前半に2得点を記録した選手である可能性があります。

チームの結果よりも個人のそれを重んじる選手がチームスポーツであるサッカーで、それも世界に向けて自身の「プロモーション」ともなるワールドカップの大舞台できちんと役割を果たせるのでしょうか。はなはだ疑問です。

このような選手がいる一方で、監督解任後に感謝のメッセージを寄せた選手が15人ほどいたといいます。たとえば吉田麻也のパートナーとなるべく昌子源からポジションを奪い、主力として存在感を増してきていた槙野智章は今回の決定に落胆しているということでした。

結局のところ選手と監督とのコミュニケーションの問題はそれほど大きなものだったのか、という疑問は拭えません。不満がある選手といっても、前監督の知るところではたったの1人か2人にすぎないのです。

そんな中で選手ではなく、日本サッカー協会とハリルホジッチ前監督のコミュニケーションに問題があったことはうかがい知ることができました。筆頭は今年3月、ハリルホジッチ前監督が呼んだにもかかわらず、遠征先のベルギーに行かなかった田嶋幸三会長です。『Number』最新号のインタビューでは会長はハリルホジッチ前監督に呼ばれていたとは話していませんでした。

また同インタビューで田嶋会長は日韓戦の重要性を説いたと言っていますが、ニュアンスとしてはそれがきちんと伝わっていなかったかのような口ぶりでした。しかしハリルホジッチ前監督はそのことを重々承知していたと話しました。この件では確実にコミュニケーションがとれていたはずなのに、どこがずれていたのでしょうか。

考えられるのは、自国開催のE-1サッカー選手権で優勝のかかった試合にもかかわらず、1対4の逆転負けを喫し、さらにハリルホジッチ前監督が韓国の方が強かったといったような極めてまっとうなコメントを残したのをどうにも許しがたい方たちが存在したということでしょう。

とはいえあの大会はグループステージの対戦相手が決まったワールドカップを控える中の調整段階、さらに言えば選手選考をするための試合にすぎず、所詮はハリルホジッチ前監督のいうところの「Bチーム」で臨んだ戦いです。

加えて言えば、あのときは国内組による編成とはいえ、槙野智章をはじめ浦和レッズの選手がアジア王者としてクラブワールドカップに出場するため出られない状況でした。

そうした点を考慮しないで、本当の「Aチーム」で韓国に敗れたことで結果的に解任につながったパウロ・ロベルト・ファルカンや加茂周と同じような見方、判断をするのは間違っています。

また当時の西野朗技術委員長との関係も深いものではないことがわかりました。「よかった」というくらいで、まともな会話も少ないような関係でコミュニケーションがとれていた、とろうとしていたとは言えません。

結果が重要なはずのサッカー界における不可解な、奇妙な理由での契約解除。熊本に心を寄せている、日本代表を応援する気持ちは変わらないという誠実なハリルホジッチ前監督でさえいまだに納得ができていない、だから来日して会見を開いて話をしたというのですから、納得できる要素はまるでありません。不協和音が鳴り響く中、オールジャパンという謎のキーワードで結集した新体制での日本代表をあたたかく見守る気にはなれません。


川崎は前半、鳥栖の執拗な守備に手を焼きました。家長昭博には吉田豊が、そして中村憲剛が鳥栖陣内に侵入すると高橋秀人が……というように鳥栖の選手がマンマーク気味についてくるため、うまく相手を外してパスを回すことができませんでした。そのためほとんど持ち味を発揮できないままハーフタイムを迎えます。

思うように試合を動かせなかったことから、鬼木達監督はたまらず後半頭から小林悠、後半10分には大島僚太を投入。また家長は前半以上に持ち場である右サイドを離れてプレーする時間を増やし、吉田の追走を避けるようにしました。

こうした動きが実り、大島が入って1分後にその大島、中村、家長が絡んだダイレクトプレーによって阿部浩之の態勢を崩しながらの先制ゴールが生まれます。忍耐強く守っていた鳥栖もこのスピードにはまったく対処できませんでした。

大島はゴールに絡むだけでなく、ほとんど中央で構えてボールを確実にキープし、さばいてくれるので、広範囲に動いてボールを受ける中村の負担も軽減されました。

そして後半22分、阿部がゴールライン手前からふわりとしたクロスを上げると、ニアからファーへと逃げてフリーになった小林悠が頭で押し込み点差を2に広げます。

連敗中の鳥栖は前線に趙東建を入れて3バックに変更したり、再び4バックに戻したりと手を変え品を変えて勝ち点を取りにいきましたが、前半28分にチョン・ソンリョンを脅かした小野裕二のミドルシュートのようなゴールの枠をとらえた決定機をつくることはできません。

逆に川崎が後半44分に合いはしなかったものの家長が小林悠を狙ったラストパスを繰り出したり、後半47分には大久保嘉人のパスを受けた小林悠が粘り強くキープしてシュートを放つなど、権田修一の守る鳥栖ゴールに迫っていきました。

昨シーズンの王者は苦戦はしましたが、終わってみれば危なげない勝利となりました。心配なのは後半32分に接触がないのに倒れ込みピッチを去ることとなったエドゥアルド・ネットの状態です。守田英正のプレーも安定しており、戦力が整っているとはいえ、過密日程が続く中での長期離脱は首位のサンフレッチェ広島を追うためにも避けたいところです。


前半11分、キム・ジンヒョンのロングキックに反応した東口順昭と三浦弦太が空中で激突。ともにピッチに倒れ込みます。ただしファウルではなく、飯田淳平主審も試合を止めなかったため、セレッソはプレーを続行します。さすがに無人のゴールに蹴り込むことこそなかったもののボールを保持し続け、東口が立ち上がるとクロスを入れて柿谷曜一朗がヘッド。顔面を負傷していた東口は力を振り絞ってこれを防ぎます。

このプレーを最後にガンバの守護神はピッチを去ることを余儀なくされ、代わりに林瑞輝が入りました。21歳の若手GKが守ることになったのを受け、セレッソは遠慮なくそこを狙いに行きます。

前半28分に2回続いたコーナーキックは丸橋祐介も高木俊幸も味方選手というよりはゴールめがけてボールを蹴り、林のところでなにかが起こることを狙っていました。

その後も松田陸が力強いシュート性のクロスを入れるなど、勝利をつかむために相手の弱みを逃さんとしますが得点には至りません。

すると前半39分、ペナルティエリア内で仕掛けたファン・ウィジョがマテイ・ヨニッチに倒されたとしてガンバにPKが与えられます。ホームチームにとっては幸運な判定でした。

ファン・ウィジョはインサイドキックで丁寧に真ん中に蹴り込み、キム・ジンヒョンは左足で懸命に触るも防ぎ切ることができず、ボールはゴールラインを越えていきました。

後半、セレッソは清武弘嗣とロングスローを武器とする片山瑛一を同時に入れ、さらにはボランチの山村和也を下げてヤン・ドンヒョンを送り込み、攻勢に出ようとしました。それでも林を脅かすようなチャンスはほとんどなく、後半47分に林がキム・ジンヒョンの放り込みを前に出て弾いた直後に山口蛍がその頭上を狙ったシュートがあったくらいで、この時は林が戻って防ぎました。

対するガンバはとどめを刺す機会を終盤に二度つくります。後半41分には倉田秋のクロスをフリーのファン・ウィジョがダイレクトで合わせ、後半46分にはマテウスが単独でカウンターを実行。いずれも追加点には結び付きませんでしたが、やや引き気味になりながらも守り一辺倒ではないところを見せました。

5分を越えるアディショナルタイムを乗り切り、見事にガンバが勝利を収めて最下位からの脱出に成功しました。セレッソはミッドウィークのAFCチャンピオンズリーグで勝ち上がる可能性を残していながら主力を温存する策に出たにもかかわらず、重視していたはずの大阪ダービーを落としてしまいました。


リオ五輪予選敗退とともに失っていた自信を取り戻す、価値ある優勝となりました。

高倉麻子監督就任後、2017年のアルガルベカップに始まり、強豪が集ったトーナメント・オブ・ネーションズ、優勝に手が届きかけたE-1サッカー選手権、そして今年のアルガルベカップとタイトルのかかった大会をことごとく落とし、復調の兆しが見えなかったなでしこジャパンでしたが、今回はオーストラリアの猛攻を凌いでアジア女王の座を守り抜くことができました。

準決勝で120分間戦ったオーストラリアは序盤から圧力をかけてきました。特にインサイドハーフのタメカ・バットがクロスを上げようとさかんにサイドに流れるのを、日本の守備陣は捕まえきれずにいました。

嫌な流れが続く中、前半14分にエリー・カーペンターのクロスを山下杏也加がキャッチし損ね、こぼれ球を狙ったバットのシュートを熊谷紗希が手で防いだとしてPKを与えてしまいます。

しかし山下はエリス・ケロンド・ナイトのシュートをストップ。自身がきっかけをつくったPKでしたが、この試合最大のピンチをみずからの手で救いました。

日本は菅澤優衣香のサイドチェンジを起点に相手ゴール前で得た中島依美のフリーキックの流れで、宇津木瑠美が前半24分にファーストシュートを放つも枠をとらえられず、前半35分に岩渕真奈がドリブルで運び、クレア・ポルキホーンとカーペンターの間を走った長谷川唯にパスを出し、長谷川が放ったシュートもリディア・ウィリアムズに阻まれました。

後半も主導権はオーストラリアに握られたまま推移し、なでしこは阪口夢穂、宇津木瑠美が攻め上がりを自重して我慢強く相手のMFに対処するなど全員守備で懸命に阻止します。それでも後半8分にエミリー・バン・エグモンドのロングシュートがクロスバーを叩くなど、しばしば脅威にさらされました。

そうして我慢に我慢を重ねた後半39分、山下が大きく蹴ったボールを長谷川が収めてパスを出すと、この日も途中出場の横山久美がそれを受け、アランナ・ケネディをいなして力強く振り抜き先制点をもぎ取りました。本当に数少ないチャンスをきっちりとものにしました。

そこからはウノゼロで逃げ切るべく、岩渕、横山もディフェンスに奔走。後半48分にロングボールに抜け出てきたサマンサ・カーを山下が阻止すると、それからほどなくしてタイムアップ。激闘を制して女子アジアカップ連覇を達成しました。

世界一を経験しているチームということで現段階ではそう簡単には変わらないかもしれませんが、この優勝によって、日本時間ではゴールデンタイムでもないのにBSでしか試合が中継されないといったことが減少するなど、なでしこジャパンを取り巻く環境がまた少しでも改善されることを願ってやみません。


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