22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2017年06月

ともに縦への意識の強い両チームの対戦とあって、中央を切り裂きあう激しい攻防を期待するも、序盤にアレクシス・サンチェスとクリスティアーノ・ロナウドが絶妙なラストパスを供給してチャンスメイクをして以降は、スコアの動かない固い試合になっていきました。

負ければモチベーションの維持が難しい3位決定戦に回るノックアウトラウンドなので、失点したくないという思いが強く、まずは中央の守備から固めていこうという意識が働いたのと、昔ほどではないにせよタイトなスケジュールで戦う大会の4試合目とあって、疲労を隠せなかったことが、動きの少ない試合になった要因かと思われます。

結果、サイドからの放り込みの多いクロス合戦になりますが、相手が人数をかけている中を単純にゴール前に入れるだけではあまり効果的なものにはなりません。変化をつけると効果は抜群で、前半28分のチャルレス・アランギスの頭に合ったマウリシオ・イスラのクロスは、アルトゥーロ・ビダルのクイックリスタートによるものでした。

120分を通じてチャンスの数ではチリが上回り、延長後半14分にはビダルのシュートがポストを叩き、こぼれ球に反応して足を当てたマルティン・ロドリゲスのシュートはバーに当たります。これも右サイドからのクロスで揺さぶりをかけ、ファーサイドで受けたフランシスコ・シルバが落として生まれた決定機でした。

その勢いのままPK戦に突入すると、今度はクラウディオ・ブラボがリカルド・クアレスマ、ジョアン・モウティーニョ、そしてナニのシュートをすべて止めます。特に最後のナニのPKでは完璧に読み切ったセーブを見せました。

こうしてゴールを守り切った南米王者が、見事、プレワールドカップの決勝進出を果たしました。


オランダに旅立つ19歳、堂安律の一挙手一投足に注目が集まった試合でしたが、終盤になるにつれて存在感を増してきたのはリオ五輪代表の2人――井手口陽介と大島僚太でした。

ガンバで攻守にわたり絶妙なポジショニングを見せた遠藤保仁、川崎の先制点をもぎ取った中村憲剛というゲームをコントロールしてきたベテランがそれぞれベンチに退いた後、彼らは凄みを見せるようになりました。

それまで消えていた長沢駿の同点弾をアシストした井手口は、ボール奪取能力の高さを発揮するのみならず、攻撃においてもさかんにアクセントをつける存在になっていきました。後半32分には相手が嫌がるようなコースをついたグラウンダーのボールを入れ、倉田秋の折り返しに結び付けましたが、惜しくも合わせる選手がいなかったため、シュートには至りませんでした。

一方の大島は、中村がいなくなって責任感をより一層強くしたのか、エドゥアルド・ネットを残して前目にポジションをとるようになり、積極的に攻撃に絡んでいきます。

後半41分には右サイドでフリーだったエウシーニョにパスを出し、エウシーニョのラストパスに小林悠が合わせるシーンがありますが、これは枠を外れてしまいます。

両者は後半29分に激突。互いに意地と意地がぶつかり合い、井手口がシュートを打とうとしたところを大島がギリギリのところで阻止してコーナーキックに逃れました。

日本代表のワールドカップアジア最終予選でのプレーぶりでは明暗が分かれている2人ですが、この戦いではともに譲らず、試合は勝ち点1を分け合うにとどまりました。


90分を通じて試合を支配していたのは、守勢に回っていた時間が長かった甲府の方でした。ただ単に低めにブロックをつくって待ち構えるのではなく、前後半の立ち上がりには前線から積極的にプレッシャーをかけにいくなどして、柏のペースを乱していました。

その戦いぶりに面食らったのか、インターナショナルマッチウィークによる中断があってリズムが崩れてしまったのか、個では伊東純也のドリブルや手塚康平の縦パスなどところどころでいいプレーも見られましたが、チームとして柏はなかなか勢いを持った攻撃を仕掛けられませんでした。

それは後半頭から伊東と武富孝介の位置を変えても変わらなかったため、下平隆宏監督はたまらず大津祐樹とユン・ソギョンを後半15分に同時投入してサイドの活性化を図ります。しかし、ユン・ソギョンが積極性を欠いていたこともあり、伝えたかったはずのメッセージが具現化されません。

後半35分にディエゴ・オリヴェイラが入ってようやく攻撃のスイッチが入り、甲府を自陣に釘付けにすることに成功。サイドからのクロスとディエゴ・オリヴェイラの強引なドリブルで決定的なチャンスまで至ります。ただ、後半39分のクリスティアーノのヘッドと後半43分の大津のシュートは、岡大生のファインセーブによって阻まれてしまいました。

最後は何が何でも勝ち点3を獲得すべく、ロングボールを立て続けに放り込みましたが、実りませんでした。下位チーム相手の取りこぼしによって、連勝は8で止まり、勝ち点1しか上積みできませんでしたが、2位のセレッソ大阪も引き分けたため、首位の座は守ることができました。


状況に応じてウイングバックの片方が下がることで、3バックと4バックを併用するという変則的なシステムで戦ったなでしこジャパンでしたが、実戦での採用は初めてということで、十分に機能したとは言い難い出来でした。

守備に関してはみずからのミスが招いたピンチと失点シーン以外は大きな破綻はありませんでした。失点の場面は後半から3バックの左に入った鮫島彩が、ヤニス・ケイマンにあっさり切り返されてクロスを許し、ファーサイドに構えたエルケ・ファン・ゴープに合わせられてしまいました。ファン・ゴープと競ったのは右ウイングバックの中島依美でしたが、高さの点でミスマッチでした。

攻撃は2トップにして、トップ下に長谷川唯を置く形で、前線に厚みを持たせた形をとりました。そこでショートパスを多用して崩しにかかるも、3、4本目でベルギーの選手の長い足に引っかかり、流れるようにフィニッシュまでもっていくことができませんでした。

終盤になると陣形が間延びして、選手間の距離が開いてしまい、前半に狙ったような攻撃は仕掛けられなくなります。

先制点はセットプレーの流れで生まれ、流れの中でつくった決定機は、小気味いいパス回しからではなく、熊谷紗希のロングボールをペナルティエリアまで上がった阪口夢穂が落とし、横山久美がシュートを打った前半8分の一度だけでした。この一撃は惜しくもクロスバーに阻まれます。

大きな収穫を得られず、この形がなでしこジャパンのオプションとして機能するにはまだまだ時間がかかりそうなことを考えると、ヨーロッパ以外の強豪チームと対戦する次のアメリカ遠征では純粋な4バックに戻すのではないでしょうか。


試合終了後の選手の表情は悲壮感が漂っていました。勝ち点1を積み上げ、ワールドカップ出場に王手をかけたとはいえ、難敵オーストラリアとサウジアラビアとの試合を残している中で、両者にプレッシャーをかけられないまま終わってしまったことをひどく悔やんでいるようでした。

実際、幸先よく先制し、再三放り込まれるクロスボールは吉田麻也と昌子源が懸命に跳ね返していたものの、結果的には酷暑の中を戦い抜いて引き分けたことくらいしか評価すべき点のない試合でした。失点の場面はペナルティエリア内の混戦で、ルーズボールの処理を吉田と川島永嗣が誤ったことによるものでしたし、それ以降、得点が欲しいはずなのになかなかシュートまで結び付けられませんでした。ミドルシュートを打つ、という判断もほとんどありませんでした。

ようやくシュートを放ったのは、後半46分、本田圭佑によるものでしたが、ボールは大きく枠を外れていきました。4分後にも酒井高徳がスローインを入れ、吉田が落としたボールを受けて本田がゴールを狙うも、モハメド・カシドの正面でした。

もちろん誤算はありました。戦術的なカードは1枚しか切ることができず、交代カードを3枚すべて使い果たしたあとで久保裕也が足を痛めてしまい、全力でのプレーが難しくなりました。たらればになってしまいますが、倉田秋を投入する際に原口元気ではなく、久保を下げていれば、終盤になってももう少し左サイドから攻め込めたかもしれません。

ただ、依然としてグループ首位であることには変わりはないので、ポジティブに考えてオーストラリア戦に向かうしかありません。海外組がオフ明けという難しい時期の試合になりますが、格上との対戦が予想される本大会の厳しさを考えれば、この難関は必ず乗り越えなければならないのです。


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