22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2016年12月

決勝への扉を開いたのは、谷口彰悟でした。まだ3バックを敷いていた前半11分、左サイドでマテウスに簡単に入れ替わられてしまい、ドラガン・ムルジャにシュートを打たれるピンチを招いた背番号5が、終盤の大事な場面で、再三得ていたセットプレーからゴールを奪いました。

試合のペースは完全に大宮でした。準々決勝で延長まで行ったにもかかわらず、出足は良く、運動量で川崎を圧倒。最後までそれは落ちませんでした。後半5分には江坂任のラストパスを受けた泉澤仁のシュートがポストを叩くなど、決定機をいくつかつくります。対する川崎は最終ラインを4枚に変えても、状況はなかなか改善せず、持ち味のパスサッカーを披露できずにいました。

それでも16分に戦列復帰した大島僚太が投入されてからは、ようやく縦への鋭いボールが入るようになり、チャンスと呼べるほどのものではないものの、ゴールへの道筋ができ始めました。さらに33分、恐れを知らないアタッカーの三好康児が送り込まれ、攻撃が活性化します。

そして40分、中村憲剛のフリーキックが塩田仁史にセーブされるも、これで得たコーナーキックを起点に得点が生まれます。一旦は横谷繁がクリアしたものの不完全になり、そのボールをエドゥアルドが頭で前に送ると、谷口が落下点に入り込み、飛んで合わせました。大宮の選手はオフサイドと思ったか、一瞬、足が止まっていました。

最後はサイドに開いて時間を使いつつ大宮のパワープレーを凌ぎ、1対0で逃げ切りに成功しました。これで初のタイトルまであと一歩のところに迫りました。

吹田で待ち受ける相手は鹿島アントラーズ。過密日程で選手のやりくりが苦しい中でも準決勝で盤石の戦いぶりをして横浜F・マリノスを退けた、川崎にとってはチャンピオンシップ準決勝で苦汁をなめさせられたチームです。相手にとって不足はないでしょう。今季最後の、そして新年一発目の好勝負となることを期待したいと思います。


前半こそ新潟の中盤からの積極的な守備に苦しめられ、ボールをうまく前に運べずにいましたが、試合全体を通じて効果的に攻めていたのはINACでした。シュート数は新潟の倍以上の20本を数え、惜しいチャンスもありました。前半24分と延長後半10分には中島依美のシュートがクロスバーを叩き、後半17分には大野忍のマイナスのパスに高瀬愛実が合わせたヘッドがポストに当たります。

INACは準々決勝から3試合連続の延長突入で運動量とプレー精度の低下は否めなかった中でも、最後の力を振り絞り、攻めの姿勢は崩しませんでした。延長後半10分、16分には途中出場の増矢理花がゴールを狙うも、ともに福村香奈絵に阻まれました。

福村だけでなく、中村楓を中心とした我慢強い新潟のゴール前での守備を最後まで崩すことはできませんでしたが、攻撃は最大の防御という形になっていたため、武仲麗依が慌てるようなシーンは数えるほどしかありませんでした。危なくなったのは自陣でのミス絡みがほとんどで、前半36分に中島と田中明日菜の連係ミスからショートカウンターを食らい、大石沙弥香、上尾野辺めぐみ、佐伯彩と渡って佐伯にシュートを打たれるも、武仲が的確な飛び出しで防いで、チョ・ソヒョンが蹴り出し難を逃れました。

結局、互いに大事なところで決め切ることができなかったため、どちらに転んでもおかしくないPK方式による決着となったものの、そこでは武仲が見事なセービングを披露しました。1人目の中村のキックを止め、上尾野辺と大石のシュートは決められはしたものの、読みが当たって触ることができており、最後は7人目の渡辺彩香からゴールを死守して優勝を手繰り寄せました。

苦しい試合を制したところは、やはりさすがINACとしか言いようがありません。ギリギリではありましたが、タイトルを取るための勝負強さを見せつけての皇后杯連覇となりました。この強さを1年を通して発揮できるか否か、そして90分間で勝負を決められるかどうかが、来シーズンの課題となりそうです。 


立ち上がりからアグレッシブに入った川崎は、前半20分に田坂祐介のクロスに大久保嘉人が突っ込んで先制すると、8分後にはエウシーニョのミドルシュートが決まって難なくリードを広げます。

その後も前半の川崎は東京を圧倒。点差こそ2点でしたが、パスワークが冴え、守備ではチョン・ソンリョンを中心とした堅い守りが安定していました。対する東京は中島翔哉が一人気を吐くばかりで、チームとしてはあまり形はつくれていませんでした。

ところが後半になると、勝ち上がるためには点を取るしかない東京が前への圧力をかけ始めました。それに押された川崎は、全体的に引き気味となり、一時は中盤の選手が最終ラインに吸収されるほど苦しい状況に追い込まれました。

こうなるとカウンターに活路を見出すことになり、実際に何度も逆襲を仕掛けました。ただ、数的優位の絶好のチャンスがたびたびありながら、なかなかシュートまでいききらないため、相手ゴール付近で中途半端にボールを奪われては反撃を食らうという、疲労度が濃くなるサッカーをしてしまいました。

しばらくして、どうにかエドゥアルド・ネットや大久保がシュートを打つようになって盛り返しますが、大久保のシュートが惜しくもポストを叩くなど、とどめを刺すには至りません。

結果、アディショナルタイムに小川諒也のフリーキックを平山相太が合わせ、1点差に詰め寄られました。東京は途中交代が見事にはまった格好です。

それでも以降の東京の攻撃が同点を目指す割には猛攻というほどでもなく、思ったよりも淡白だったのにも助けられ、キープをしながら逃げ切りに成功します。

川崎が最終的に勝ち切れた要因は、タイトルへの飢え、でしょう。リーグタイトルを惜しくも逃したことの悔しさ、そして風間八宏監督体制の集大成にあたるシーズンで結果を出したいという思いが、選手を突き動かしているように感じます。ゴール裏に陣取ったサポーターの熱量も、東京のそれを凌駕していました。

次は大宮アルディージャとの準決勝です。直近のリーグでの対戦では、シーソーゲームの末にダメージの大きな逆転負けを喫しただけに、ここで借りを返して、大阪へ歩みを進めたいところです。


後半39分、中野真奈美のフリーキックに合わせた川村優理の豪快なヘッドで同点に追い付かれ、延長にまでもつれ込み、120分を通して試合の主導権を握っていたとは言いがたいものの、INACはいい時間帯に効果的に得点を挙げて、見事決勝進出を果たしました。

先制したのは前半15分、守屋都弥のクロスを道上彩花が収めて、落ち着いてゴールに押し込みました。この時の仙台は、北原佳奈とブリトニー・キャメロンが対応を誤るという痛恨のミスを犯してしまいました。

勝ち越し点は延長前半12分、増矢理花のクロスを京川舞がフリーで合わせて決め、さらに延長後半3分に増矢から中島依美と渡り、最後はまたしても京川がゴールを奪いました。杉田妃和に代わって任されたインサイドハーフとしては、あまり目立たない時間が多かった京川でしたが、ゴール前での得点感覚の鋭さを大事な場面で発揮しました。

リードを2点に広げると、INACの選手達には余裕が見られるようになり、終盤になるにつれ、勝ち慣れているチームならではの貫録が出てきました。福元美穂がクリアの際の負傷でピッチを離れるアクシデントもありましたが、危なげなく試合を終わらせます。

敗れた仙台にとっては、前半20分に市瀬菜々が負傷し、川村がボランチからセンターバックに下がらざるを得なくなったのが大きな誤算でした。それによって攻守においてダイナミックさが失われ、迫力を欠く格好になってしまいました。

これで決勝はアルビレックス新潟レディースとINACという、昨年と同一カードになりました。ここしかないというところに決めた八坂芽依の一撃で日テレ・ベレーザの三冠を阻み、勢いに乗る新潟をどう迎え撃つのか。非常に楽しみな一戦になりそうです。


スタジアムはレアルのユニフォームやグッズを身につけ、白い巨人の華麗なプレーを目当てにしていたファンが多くを占めたものの、日本を代表して戦う鹿島に対して温かい拍手と歓声の起こった120分でした。もしかしたら小笠原満男がクラブワールドカップを掲げるかもしれない。そんな想像さえ決して夢ではないと思えてしまうような健闘ぶりでした。

そんな空気をつくったのが、中央を固めていたラファエル・バラン、セルヒオ・ラモスのミスを逃さず2ゴールを叩き込んだ柴崎岳です。今大会、左サイドハーフでの起用はあまりうまくいっていなかった印象でしたが、ブロンズボールを獲得した背番号10は得点シーンで中央にポジションをとって結果を出しました。これによって一時は逆転に成功したのです。

すると前半はトリッキーで魅せるプレーに終始し、どこか真剣みを欠いていたようだったクリスティアーノ・ロナウドが変貌。同点となるPKを決めてもあまり喜びません。またジネディーヌ・ジダン監督は、ダニエル・カルバハルとマルセロをウイングバックの位置に上げ、3バックを採用して押し込む態勢を整えました。

延長に入ると徐々に地力の差が出て、ロナウドのペナルティエリア内での爆発力の前に屈してしまいましたが、1点ビハインドになった際の鈴木優磨のクロスバーを叩いたヘディングもあり、鹿島はもう少しのところまで詰め寄りました。

日本サッカー界は、国内で一番注目度の高い日本代表がワールドカップ予選で苦戦を強いられ、おまけに主力の海外組がベンチを温めることが多いという状態が続いています。そんな中で鹿島がレアルとタイトルをかけて本気でぶつかりあい、追い詰めたことは、非常に明るいニュースであり、未来に希望の持てるできごとでした。8年ほど前、同じ横浜国際総合競技場で2年続けて感じた日本と世界の差も縮まったように感じられました。

今度、レアルやはたまたそれ以外のヨーロッパのビッグクラブ、チャンピオンズリーグを制したクラブと真剣勝負をするには、大人の事情を考慮すると、おそらくACLを勝ち上がらないと実現しないでしょう。したがって、クラブワールドカップの舞台に辿り着くには、この試合をさばいたジャニー・シカズ主審の判定を上回るほど理不尽なジャッジやチャイナマネー、オイルマネー、そしてもちろん過密日程などと向き合って、アジアの戦いを乗り越えていかなければなりません。 

それは鹿島が今回上った山よりもはるかに険しいものですが、鹿島のみならず日本のクラブにとって、この試合は今後に向けてのモチベーションが高まる一戦となったことでしょう。
 

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