22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2016年09月

正念場 ――川崎フロンターレ対横浜F・マリノス

最後の笛が鳴り響くと、川崎の選手が1人、また1人とピッチに倒れ込みました。しかしそれは前節、大宮アルディージャ戦で江坂任に逆転弾を食らった直後にディフェンス陣が次々と座り込んだ時とは対照的な光景でした。痛恨のダウンではなく、喜びや安堵にあふれたものだったのです。

苦労する羽目になったきっかけは、新井章太の負傷交代でした。予期せぬアクシデントによってJ1デビューの高木駿がゴールを守ることになり、それを突こうとマリノスが攻めに勢いを持ち始めました。前半の川崎はボールを転がしながら、時折浮き球を繰り出しては相手の裏をかくなどして中盤を制圧していましたが、それができなくなっていきました。

さらに新井の治療などに時間がかかったため、後半のアディショナルタイムが9分あったのも誤算でした。そこで後半51分には中町公祐、53分には齋藤学にドリブルで粘られて伊藤翔にゴールを許す結果となり、2点のリードはなくなってしまいました。最初の失点を喫する直前、49分の中村憲剛のシュートがゴールの角をヒットしたのが悔やまれる展開になったのです。あれが決まっていれば、マリノスの選手達の心が先に折れていたでしょう。

川崎にとっては大宮戦の悪夢が再来したような状況でしたが、最後まであきらめなかった結果、中村のコーナーキックをエドゥアルドが触り、流れたボールを拾った田坂祐介がクロスを上げ、小林悠が勝ち越しゴールを奪ったのです。それは後半55分のことでした。

引き分けのまま終わっていれば、2試合続けて勝ち切れないことになり、チームのムードも停滞しかねませんでしたが、出場停止やケガで主力3人を欠く正念場を勝ち切る強さを川崎は持っていました。これでチャンピオンシップ出場が決定、年間首位の座もキープすることができました。今後に繋がる劇的で大きな一勝となりました。

 

自滅阻止ならず ――大宮アルディージャ対川崎フロンターレ

前半27分、数的有利のカウンターで小林悠のミドルシュートが大きく枠を外れた9分後、大久保嘉人が頭突きをしたとして一発退場。そして42分、チョン・ソンリョンが家長昭博との1対1で犯したファウルでPKを献上してしまい、完全に自滅モードに入ってしまった前半でした。

守勢に回ると1人足りない分、スペースができて苦しくなる中で、それでも川崎は決して攻めの姿勢を失わず、後半18分には高い位置でボールを奪ってから中村憲剛の気迫のこもったシュートが決まります。さらに36分には小林がゴールを奪って逆転に成功しました。逆転弾を放った小林のそばには中村も詰めていて、カバーに入っていた奥井諒と2対1の局面をつくっていました。

このまま年間首位の意地を見せて試合を終わらせられれば、久々の連勝にもなり、理想的でしたが、残り10分ほどになったところで勝ち点3が見えてきて力尽きたか、川崎の選手の運動量が急激に落ちます。10人で戦い続けた疲労は相当なものだったのでしょう。その緩みを突かれて、わずか5分間で家長と江坂任のゴールを許してしまいました。特に江坂の勝ち越し点は谷口彰悟のトラップミスを家長に取られ、逆襲を食らうという痛恨の失点でした。これで2ndステージの首位からは陥落。3位に落ちてしまいました。

この試合では、大久保の退場を呼び込み、エドゥアルドを押して江坂のゴールを一度は幻のものとし、タイムアップ後には激高した横谷繁が云々…という話がありますが、そこをどうこう言っても逆転負けの結果は変わりませんし、そういう試合をものにしてこそ王者への道に繋がるはずなので、もやもやを引きずることなく前に進むしかありません。なにしろ次は、大久保とエドゥアルド・ネットを出場停止で欠く中で、2ndステージ好調の横浜F・マリノスとの神奈川ダービーを戦わなければならないのです。


気迫の勝利 ――アルビレックス新潟対名古屋グランパス

ゴールこそありませんでしたが、この日、MOM級の働きをしたのは、センターバックの田中マルクス闘莉王でした。崖っぷちの名古屋が残留争いを戦う上で、この上ない「補強」になったと言えます。じつに18試合もの間、勝利から遠ざかっていたチームを、プレーで、言葉で、身振り手振りで奮い立たせたのです。

攻撃面では後半、永井謙佑がそのスピードを生かして何度かチャンスに絡んだものの、仕留めることができず、結果的に前半28分の田口泰士のコーナーキックに頭で合わせた川又堅碁の虎の子の1点を守る形になりましたが、最後まで名古屋守備陣の集中は切れませんでした。

特に残り20分ほどとなったところで、ハ・デソンを下げてロビン・シモビッチを投入して、システムを4-3-3から4-4-2にした後は、前線の枚数は増えたものの中盤が手薄になって危うい空気が漂いましたが、ゴール前を固めて決死のディフェンスで凌ぎ切りました。

新潟は名古屋の迫力に気圧されたか、決定的なチャンスは前半38分のコーナーキックからコルテースが押し込みきれず、楢崎正剛にキャッチされたシーンくらいしかありませんでした。

名古屋にとってアウェイの新潟戦は過去一度しか勝利がなかった鬼門でしたが、この一戦に勝利したことで状況はやや好転。すぐ上の順位にいるヴァンフォーレ甲府もガンバ大阪に負けたため、残留圏内にいる新潟、甲府との勝ち点差が4に縮まりました。まだまだ降格圏を脱出したわけではないので油断はできないものの、希望を繋ぐ一勝になりました。

 

手当の成功と不安と ――ワールドカップアジア最終予選 タイ代表対日本代表

UAE戦で途中交代した3人をスタメンから外し、山口蛍、原口元気、浅野拓磨を先発起用したこの試合。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の手当は成功に終わりました。

山口はことごとく相手の攻撃の芽を摘んで中盤の守備に安定感をもたらし、正確なパスを前線に供給し続けました。ボランチではなく左MFを務めた原口は、攻守にわたって積極的な姿勢が見られ、前半17分には酒井宏樹のクロスに頭で合わせて先制点をものにしました。そして浅野は、多少周囲との連携が合わない部分が見られたものの、持ち前のスピードを生かして、タイの希望を打ち砕く追加点を奪いました。

変わって入った選手達が期待に応えた一方で、スタメンの座を譲らなかった選手達には先行きに不安を覚えるプレーが目立ちました。攻撃陣では本田圭佑、香川真司がともに決定的なチャンスを迎えながら不発に終わり、試合を楽に進めることができませんでした。特に香川の不調は深刻なようです。

ディフェンスに関しても、結果的に無失点に終わったものの相変わらずつまらないミスからピンチを招いており、後半38分には連係ミスがきっかけで西川周作がファウルを犯し、イエローカードをもらってしまいました。

さらに不可解な判定で森重真人も警告を受け、ディフェンス陣の多くが早くも累積警告リーチの状態に陥っています。これにより、早い段階でレギュラー陣が出場停止となるおそれが出てきました。 

というわけで、とりあえず勝ててよかったという試合でしたが、次のホームでの試合は2連敗中のイラクなので、きっちり勝って、相手をワールドカップ出場権獲得争いから脱落させたいところです。

 

ハリル劇場 ――ワールドカップアジア最終予選 日本代表対UAE代表

ロシア行きの切符を賭けたラウンド3の初戦は、2人のハリルがその存在を際立たせていました。

1人目はUAEのアハメド・ハリルです。前半11分には本田圭佑へのマークを疎かにしたため、あっさりと先制点を献上。2分後のフリーキックのチャンスでは、枠を大きく外して日本国民を安心させたのですが、再び訪れたセットプレーでは見事なフリーキックを決めて同点に追い付き、後半9分のPKではプレッシャーのかかる中でパネンカをやってのけるという憎らしさを見せました。

こうして試合の全得点に絡んだハリルに対し、日本の指揮官である「ハリル」ことヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、昨年のアジアカップのみならず、過去を思い返してもあまりいいイメージのないUAEを甘く見ていたのか、うまく対処することができませんでした。

もっとも裏目に出たのは、大島僚太のスタメン起用でした。柏木陽介をベンチにも入れられない状況だったとはいえ、キリンカップではなく、この試合で代表デビューを飾らせたのは得策ではありませんでした。初戦ということを考えても、もう少し慎重に戦う必要がありました。

また、決して悪くはなかった清武弘嗣を下げ、終盤に運動量が落ちてきた本田と前半に絶好機を外した香川真司に固執する必要があったかどうかも疑問として残ります。彼等は決してアンタッチャブルな存在ではないはずです。

もちろん監督のみにすべての責任があったわけではなく、失点がすべてミス絡みだったことを忘れてはなりません。加えて、ただでさえ層の薄いディフェンス陣で酒井宏樹と吉田麻也が早々と警告を受けてしまったことも、今後に向けては不安材料となります。

とにもかくにもホームの開幕戦を落としたことで苦境に立たされたわけですが、まだ9試合残っていますし、最悪、グループの3位でも大陸間プレーオフに回れる可能性があるのですから、必要以上に悲観的になっても仕方ありません。まずはタイ戦での気持ちの切り替えが重要です。


ギャラリー
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