22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2016年08月

指揮官が体調不良でベンチにも入れないという非常事態に陥った鹿島は、時折心理的に弱っているところをピッチ上で見せてしまいました。特に後方でのボール回しで、キックが弱く、若干の乱れが生じていました。守備バランスの悪い時もあり、横浜にそれを見透かされそうになりました。前半9分のカウンターからの伊藤翔のシュートが決まっていれば、鹿島の選手達の動揺はさらに深刻になったかもしれません。

そんな試合の中で躍動していたのが、齋藤学でした。前節、いくらかペースを握っていながら0対1で敗れたFC東京戦でのチームの、そして自身の不甲斐ない出来を払拭するかのように、力強いドリブルを何度も仕掛けて鹿島ゴールに攻め込みました。

前半45分には強烈なボールを蹴って伊藤の同点ゴールをアシスト。さらに後半35分には、鹿島のディフェンスの乱れを見逃しませんでした。伊東幸敏のトラップが正確さを欠き、フォローした西大伍が苦し紛れのバックパスをしたのをカット。そのまま一気にドリブルで持ち込んで、逆転弾を決めました。

しかし、そうやすやすとマリノスの軍門に降る鹿島ではありません。終盤に1stステージ王者の意地を見せます。後半40分、西とのパス交換で抜け出した伊東のクロスを鈴木優磨が落とし、ファブリシオが豪快にネットを揺らしたのです。エリク・モンバエルツ監督が栗原勇蔵を送り込み、守備を固めて逃げ切ろうとした矢先のできごとでした。

結局、勝ち越すことこそできませんでしたが、一時は逆転を許しながらも追い付いて引き分けて得た勝ち点1は、多少なりとも鹿島にとっては良薬となったはずです。それに幸いなことに、上にいる川崎フロンターレと浦和レッズが揃って負けたため、年間順位の勝ち点差がわずかながら縮まりました。これはチャンピオンシップに向けて悪くない結果になったと言えます。


5人目のキッカーとして役目を果たした直後、ネイマールは顔をくしゃくしゃにしていました。それは、悲願でありながら、サッカー王国として、そしてホスト国として是が非でも優勝しなければならないという重圧に勝った喜びと安堵の表情に見えました。

120分に及ぶ激闘は、枠内シュートの少ない試合でした。ブラジルがシュート17本に対して枠内に飛んだのが4本。ドイツも14本に対して5本です。よって、ウェベルトンとティモ・ホルンが大活躍するような場面はありませんでした。

しかし、見応えのない試合であったかと言えばそうではなく、両チームとも最終ラインの選手を中心にゴール前で体を張ったシュートブロックを見せ、シュートとカウントされないものが多かったのが事実です。

そんな中できっちりゴールを決めたのが、ネイマールでした。前半26分、完璧なフリーキックを沈めてみせたのです。今大会初ゴールとなったコロンビア戦のフリーキックは相手選手が壁を崩してしまったため、難なくボールがゴールに向かっていきましたが、今回のクロスバーに当たって落ちた一撃は文句のつけようのないものでした。

それだけではなく、前半は果敢にドリブルを仕掛けた背番号10は、後半になると相手を引き付けてスルーパスを繰り出すことが多くなり、チャンスの一歩手前まで演出しました。マックス・マイヤーに同点弾を食らった後で、ガブリエル・バルボサやフェリペ・アンデルソンがそれに応えていれば、試合は早く終わっていたでしょう。

ミネイロンの惨劇を皮切りに、その後のワールドカップ予選での苦戦、コパ・アメリカの早期敗退と、フル代表に関しては批判の対象になるような結果しか残せていませんでした。その中で五輪代表が金メダルを獲得し、ブラジル国民を喜ばせる明るい話題を提供してくれました。これをきっかけにして、フル代表が復活を遂げることができるかもしれません。


金メダルを取るために策を練り、守り勝ちをしてきたスウェーデンでしたが、決勝は違いました。前の試合ほど自陣に引きっぱなしにはならず、先制点を取るべく、ソフィア・ヤコブソンやロッタ・シェリーンを走らせて相手のいないスペースにすばやくボールを出し、積極的にゴールを目指していきました。おそらくこれが彼女達の現時点での理想のサッカーだったのでしょう。

これがはまれば、申し分ない展開でした。しかし、先にネットを揺らしたのはドイツでした。後半3分、ニラ・フィッシャーのクリアが中途半端になったのを逃さず、ジェニファー・マロジャンが放ったシュートがすばらしい軌道を描いてゴールに吸い込まれていったのです。前半半ばからじわりじわりと押し込んできたドイツの攻撃をスウェーデンは耐え切ることができませんでした。

さらに後半17分、リンダ・センブラントのオウンゴールで追加点を許します。シェリーンがゴール前でサラ・デブリッツを倒し、フリーキックを与えたがゆえに生まれた失点でした。マロジャンのキックがポストを叩き、戻ってきたボールにセンブラントの足が当たって入りました。

5分後、代わって入ったスティナ・ブラックステニウスがオリビア・スクーグの絶妙なクロスに合わせて1点差としましたが、その後、得点の欲しいスウェーデンが前に出て、互いに攻め合う展開になっても同点ゴールを奪うことはできません。

終盤、後半に入ってディフェンスに追われることが多く、攻撃で目立たなくなっていたシェリーンを前目に上げ、4-3-3気味の布陣に変えたものの、それも奏功しません。二度、三度とゴール前まで迫りながら、きっちりしたシュートが打てず、決定機には至りませんでした。

結局、オウンゴールの1点が重くのしかかり、金メダルには届きませんでした。ドイツが強かったのは事実ながら、こういう結果になったことで、前半飛ばし過ぎずに現実的にもっと手堅く戦っていたらどうだっただろうかと考えてしまいます。分が悪い相手に先制したい思いが強く出た戦いを、完全に否定するつもりはないのですが……。


国民の期待を背負い、大観衆の前で金メダル獲得を義務付けられたプレッシャーゆえか、あらゆる面でどこかちぐはぐだった南アフリカ戦、イラク戦のプレーが嘘のように、ブラジルは準決勝の舞台でホンジュラスを相手に圧倒的な力の差を見せつけました。尻上がりで調子を上げている点を含めて、サッカー王国の風格を感じさせる試合でした。

セレソンを6対0の大勝に導いたのは、やはりエースのネイマールでした。開始直後、ジョニー・パラシオスからボールを奪って、ルイス・ロペスと交錯しながらわずか15秒でゴールを陥れ、できるだけ無失点の時間帯を長くしたかったはずのホンジュラスのゲームプランをあっさりと、そして見事に崩しました。

キャプテンマークを巻いた背番号10はもちろん執拗なつぶしにあいましたが、そんな中でも冷静さを保って、スルーパスとコーナーキックでガブリエル・ジェズスとマルキーニョスのゴールをアシスト。最後はルアンが倒されて得たPKをきっちり決めて、試合を気持ちよく終わらせました。

このように攻撃に目が行きがちですが、初戦こそ危なっかしい場面がいくつかあったものの、5試合を通じて無失点という守備陣も評価しなければなりません。この試合もオーバーエイジのマルキーニョスを中心に、ホンジュラス得意のカウンターを封じるなど、固いディフェンスでゴールを許しませんでした。

また、圧勝ゆえにロジェリオ・ミカーリ監督の采配には余裕がありました。リードを4点に広げ、後半に入って二枚替えをして意気込んでいたホンジュラスの心を折ったところで、センターバックのロドリゴ・カイオを下げてルアン・ガルシアを投入。その後は決勝を見据えてガブリエル・ジェズス、レナト・アウグストを引っ込めて、フェリペ・アンデルソン、ラフィーニャを送り込みました。

攻撃、守備、采配。すべてがうまくいった90分でしたが、悲願の金メダル獲得の懸かった決勝はそうはいかないでしょう。何しろ相手は、試合を重ねるごとに安定感を増しつつあるドイツです。ただ、ワールドカップの借りはワールドカップでしか返せないとはいえ、フル代表がドイツに味わわされたホームでの2年前の屈辱から少しでも立ち直るための絶好の機会が訪れたのは間違いありません。


強豪国であるスウェーデンが、密集していて堅牢な4-1-4-1のブロックを敷いて戦い続けたのを見て、もしや女子サッカーのトレンドが変わるのではないかとさえ思い始めました。先月、なでしこジャパンを苦しめたロッタ・シェリーンが、コソバレ・アスラニが労を惜しまずディフェンスに力を注いでいたのです。

前半、マルタを中心に多彩な攻撃を仕掛けながらなかなか崩せなかったブラジルは、後半に入ると裏へのボールに頼る単調な攻撃になってしまい、スウェーデンの思う壺になりました。執拗で粘り強く、バイタルエリアを狭くした守備を嫌がって、そうなったのでしょう。

結果的に120分を通じてブラジルに33本のシュートを浴びはしましたが、決定機と呼べるものはほとんどなく、あえて挙げるならば前半23分のデビーニャのヘッドくらいでした。それ以外は今大会序盤の男子のブラジル代表のように枠をとらえないシュートや、コースが甘く、ヘドビグ・リンダールにキャッチされるものばかりでした。それほどまでにスウェーデンの守りが固かったのだと言えます。

そして、スウェーデンはただ守り続けるだけではありませんでした。時には鋭利なカウンターを繰り出し、ブラジルゴールを脅かしました。だからこそディフェンスの時間が長くなっても苦ではなかったのです。攻撃の中心にいたのは、やはりシェリーンでした。

スコアレスドローで延長が終わった時、手応えを感じていたのはスウェーデンの方でしょう。その勢いがPK戦での勝利を手繰り寄せたと言っても過言ではありません。準々決勝で世界女王のアメリカを退け、今度は大声援の後押しを受けていた開催国を敗退に追いやった力は本物です。

金メダルを懸けた最後の戦いの相手は、難敵ドイツです。直近の対戦は昨年の女子ワールドカップラウンド16で、この時は1対4で敗れています。通算の対戦成績もスウェーデンの7勝18敗と分の悪い相手です。それでも堅守を武器に勇敢なリアリストとして戦ってくれるはずです。


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