22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2015年10月

立ち上がりから積極的に出てきた浦和に前半11分、14分と柏木陽介、武藤雄樹に立て続けに決められて出ばなをくじかれた東京でしたが、16分に米本拓司のスルーパスを受けた東慶悟が槙野智章のタックルを振り切り、角度のないところからシュートを決めて反撃ののろしを上げます。

マッシモ・フィッカデンティ監督は、当初の4-3-1-2から4-4-2、さらには高橋秀人を最終ラインに下げ、浦和と同じ3-4-2-1へとシステムを変えて、両サイドを含めた浦和の強力な攻撃陣をケアしにかかります。

それでもシステムを変えている中で、27分に関根貴大に粘られゴールを許してしまいます。前半は1対3で折り返す形となりました。

後半に入るとフィッカデンティ監督が7分に中島翔哉、15分に松田陸を送り込み、松田の投入の際には徳永悠平を3バックの一角に移し、高橋を再びボランチの位置に戻して攻撃の意思を強くします。

しかし加点したのは浦和でした。17分、東京陣内の中央寄りの位置でボールを受けた槙野が上がり、武藤、ズラタン・リュビヤンキッチと繋ぎ、槙野がフィニッシュ。東京はゴールに向かって前に出た槙野をつかまえきれませんでした。

中島、東、そして前田遼一を中心に攻める東京が2点目を奪ったのは、残り15分を切ろうかという時間でした。左サイドで一旦手詰まりになりかけましたが、太田宏介のクロスにフリーの高橋がヘディングでゴールを決めたのです。

浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、精力的に動いていた両サイドを代え、フレッシュな梅崎司と平川忠亮を入れて活性化を図りました。対する東京は、徳永を下げて林容平をピッチに送り出し、4バックに戻してさらに前線に圧力をかけます。

すると39分、太田のCKを高橋が阿部勇樹に背中をつかまれ、体勢を崩しながらも気持ちで押し込んで1点差とします。 

ホームで何としてでも勝ち点を奪いに来た東京の勢いは止まらず、浦和は完全に守勢に回りました。そんな中で槙野が自陣の深い位置で中島を引き倒すシーンもありましたが、ファウルにはなりません。その直後、50分には東と中島が連続してシュートを放つも、西川周作に阻まれてしまいました。

猛攻も及ばず、試合は3対4で浦和が乱戦を制しました。この結果、東京はこの日試合のなかったガンバ大阪との勝ち点差を広げることができず、年間3位の座が危うくなってしまいました。


序盤、縦への意識の強いサッカーを志向したINACでしたが、CBの田中明日菜のところから三度ピンチを招いてしまい、全体の軸足をなかなか前へ向けられずにいました。

すると前半21分、この日先発に抜擢された杉田妃和の縦パスを高良亮子にカットされると、テンポよく前にボールを繋がれ、有町紗央里のスルーパスに井上綾香が抜け出します。井上がクロスを上げ、それを嘉数飛鳥が押し込んで仙台が先制します。

さらに43分には、井上のリターンを受けた嘉数がスルーパスを供給。CBの間を抜けた有町が豪快にシュートを決め、リードを2点に広げました。

前節同様流動的に攻めたINACは、肝心なパスのズレが目立ち、ほとんどいいところがなく、自分達で試合を難しくしていました。唯一、決定的と言える場面は32分、ペナルティエリア内のこぼれ球に反応した道上彩花のシュートくらいしかありませんでした。

何としてでも試合をひっくり返したいINACは、杉田と伊藤美紀を下げ、川澄奈穂美と近賀ゆかりを後半頭から投入します。これによりポジションの大幅な入れ替えが行われ、不安定だったCBの田中と三宅史織の立ち位置も変えました。

松田岳夫監督の積極策がメッセージとなって、チームは息を吹き返すのに成功します。まずは増矢理花がドリブルで仕掛けて倒されて得たFKを伊藤香菜子がポストに当て、その直後には中島依美のFKの流れから近賀がシュートを放ち、中野真奈美のブロックでCKを獲得します。

そして後半8分のこの伊藤香菜子のCKを、道上が頭で合わせて1点差に詰め寄ります。澤穂希がニアサイドに移動してDFを引き付けたことも奏功しました。

これで攻守ともに集中力が高まったかに見えたINACでしたが、20分に再び突き放されます。田中の前線へのパスが坂井優紀に難なく渡り、ダイレクトで嘉数に通ります。そしてオーバーラップしてきた坂井にボールが戻ると、坂井はファーサイドにクロスを上げました。そこにフリーでいた中野がダイレクトで合わせ、ゴールネットを豪快に揺さぶりました。

とどめは28分、中野のFKを千葉梢恵が頭で合わせてスコアを4対1とします。4分後に増矢が得点を奪いましたが、両者ともここで打ち止めとなりました。

終盤は、これまで前線の躍動感で圧倒し、守備でも惜しみなくハードワークしていた仙台の運動量が落ち、INACが立て続けにシュートを打つ場面もあったものの、武仲麗依を慌てさせるほどではありませんでした。

懸命の追撃が及ばなかったINACはレギュラーシリーズで負けていなかった新潟、仙台相手に連敗を喫し、王座奪還は厳しくなってしまいました。


決勝トーナメント1回戦の日本対ブラジルが描かれているこの巻では、2015年の終わりが近い今となっては懐かしさすら覚える8.6秒バズーカーとクマムシのネタのオマージュを挟みつつ、これぞ少年マンガ、と思わせてくれるファンタジーにあふれたプレーが次々と繰り広げられていきました。

まず見せたのは地元開催のワールドカップで負けられないブラジル。エースのネストールが鉄壁のディフェンスを誇るヒクソン・シウバのパスをわざわざ下がってカットし、自陣でボールを持つと、そのまま日本のゴールまでドリブルで進んでみせます。サイドラインでは森川竜司と山波健介を股抜きとヒールリフトでかわし、最後はイタリア戦での坂本轍平と同じように角度のないところからシュートを打ちました。

ボールは外側のサイドネットを揺らすにとどまり、得点には至りませんでしたが、ほぼ完璧な流れでした。この一連のシーンは、直後に森川がネストールとの1対1を制することの意味の大きさを表していました。

その次はディディーが見せます。巧みな演技でFKを奪うと、そこでは単なるおとり役ではなく、ボールに触っていないようで実はほんのわずかに触っていて、ネストールとのコンビで難なく勝ち越し点を奪います。イタリアのマルコ・クオーレのプレー以上にじっくり見ないとわからない、とても緻密で狡猾な動きでした。

もちろんそれで引き下がる日本ではありません。後半開始直後こそブラジルの勢いに負けて追加点を許してしまいますが、坂本琴音の提案した4-3-3、カルロ・グロッソ監督が「ステラシステム」と呼ぶ形に変え、一気に形勢を逆転させます。

このシステムはトップ下に人を立たせず、インサイドハーフと前の3人が自由自在にポジションを変え、5人でゴールに向かって星がきらめくイメージを共有。最終的にはゴールに通じる「星の通り道(ステラスポット)」を見つけ出し、フィニッシュに繋げるという攻撃です。実際にこれで1点を返しました。

ポジショニングを流動的にして相手を混乱させ、イメージ通りにボールを回すことで、特別な者にしか見えないステラスポットをいとも簡単に見つけることができているので、ブラジルに限らず、どんな相手であろうともいくらでも点を取れそうな無敵の攻撃に思えてしまいます。日本がミネイロンの惨劇を再現しそうな勢いがありました。

しかし、2回目は沖田薫のシュートをヒクソン・シウバがブロックしてこの巻は終わります。シウバも星の存在を感じられるプレーヤーのようです。サッカー王国にそういう選手がいなくてはおもしろくありません。1点ビハインドの日本がどのようにシウバを攻略するのかが、この試合の行方を大きく左右しそうです。


試合の入り方は悪くありませんでした。最低でも1点が必要なガンバは、左MFを任された二川孝広が中盤でいいアクセントになり、序盤から広州の固いブロックを壊しにかかり、ディフェンスでは遠藤保仁、岩下敬輔らが身を挺して相手のカウンターを阻止していました。

前半30分には、広州陣内で遠藤がパウリーニョからボールを奪い、倉田秋がミドルシュートに繋げたシーンもありました。

ただ、広州はエウケソンやリカルド・グラル、鄭智が遠慮なくミドルシュートを放ち、ガンバゴールを脅かします。シュートの数ではガンバを上回り、前半半ばからはややペースを握られてしまい、じわじわ押し込まれる状態となりました。

43分にはこの試合最大のピンチを迎えます。自陣で今野泰幸の横パスをパウリーニョに奪われると、鄭龍の冷静なポストプレーに反応したエウケソンがほぼフリーの状態でシュートを打ったのです。しかし、ここは東口順昭がセーブし、CKに逃れました。

後半に入り、一進一退の展開が続く中、15分には宇佐美貴史がピッチに送り込まれました。残り30分となったところでトップ下の倉田秋を右MFに移し、2トップにシステムを変更しました。

満を持して登場した宇佐美でしたが、26分と39分にシュートを放つも、いずれも枠をとらえられません。

ガンバの決定機と呼べそうだったのは34分、左サイドでボールを回し続けたあと、倉田が中央へグラウンダーのクロスを送り、遠藤がコントロールショットを打った場面でした。ここは1stレグでオウンゴールを記録した馮瀟霆が体を投げ出して阻止。曾誠が浮いたボールを難なくキャッチします。

終盤は丹羽大輝を起点にゴール前に放り込むパワープレーを選択。41分には192cmの長沢駿が加わりますが、広州のルイス・フェリペ・スコラーリ監督は前線のエウケソンと鄭龍の代わりに184cmの梅方と185cmの告林を入れて徹底した守備固めを図りました。

残念ながら黄色く高い広州の壁を前に必死のパワープレーは実を結ばず、1stレグ同様にセカンドボールを生かした波状攻撃を仕掛けることもできません。このあたりはプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたボランチのパウリーニョの存在が大きかったと言えます。

結局、露骨な時間稼ぎをしなかった相手に対してスコアレスのままタイムアップを迎え、トータルスコア1対2で決勝進出はなりませんでした。


INACは近賀ゆかり、中島依美の両SBを攻撃時には中盤の中央に上げる変則的なシステムで挑み、序盤から新潟ゴールに襲い掛かりました。ワイドの位置には前線の川澄奈穂美と増矢理花しかいない前掛かりかつ攻撃的な布陣で、主導権を握ることに成功すれば、引き下がることなく相手を圧倒できる形でした。しかし新潟の労を惜しまないディフェンスを前になかなかシュートまで至らず、パスミスで相手にボールをプレゼントするシーンが目立ちました。

それでも前半33分、増矢が前線でキープしたボールを伊藤美紀に預けると、最終ラインからボランチの位置まで幅広くケアしていた背番号22がクロスを上げます。ボールの軌道上にいた高瀬愛実が身をかがめ、後方から来ていた近賀が頭で合わせました。ここはINACの流動的なやり方が奏功した場面でしたが、福村香奈絵が阻止します。

試合が動いたのは前半41分でした。高瀬から伊藤美紀へのバックパスがずれたところを上尾野辺めぐみに奪われると、上尾野辺は揃っていないINACの最終ラインの背後にパスを出しました。そこへ抜け出た山崎円美が、ペナルティエリアを飛び出してきた海堀あゆみをかわし、体勢を崩しながらフィニッシュを決めます。

さらにハーフタイム明けの後半6分、今度は左SBの渡辺彩香がINACの両CBの裏を突いたロングパスを供給。走り込んだ山崎が、シュートコースを消しに来た海堀の頭上を越えるループシュートを放ち、ボールは転々としながらゴールネットに吸い込まれました。全体として前への意識が強すぎるがゆえに想定されたリスクが、現実化したような失点です。

追い込まれたINACは、南山千明、杉田妃和をピッチに送り込み、中盤の活性化を図ろうとします。ただ、整然とした新潟ディフェンスを思うように崩せず、主導権を握るまでには至りません。またセットプレーのチャンスでは変化をつけてみるものの、それがことごとく失敗に終わるという有様でした。

結局、攻撃への強い意欲を持って臨んだはずでしたが、オフサイドをとられたり、クロスが流れるなどして、後半のINACはシュートを1本も打てませんでした。焦っているようには見られませんでしたが、印象に残るような決定機一歩手前のようなシーンはなく、さすがにこれではどうしようもありません。

幸い首位の日テレ・ベレーザが敗れたため、3位に転落こそしたものの勝ち点差は3のままとなりました。とはいえ次の試合に希望を見出せる部分は残念ながらほとんどありませんでした。


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