22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2015年09月

首位攻防戦の序盤、ベレーザの攻守におけるハイペースでスピーディーなサッカーにINACは圧倒されました。一時はハーフコートゲームのような状態になるほど押し込まれていました。

ベレーザは中盤で細かくかつすばやくボールを繋いで、右サイドを中心に攻め込んできました。開始早々には田中美南が海堀あゆみをかわしてフリーでクロスを上げる場面もありました。

一方、澤穂希がお団子ヘアをほどいて気合いを入れ直したINACは、ベレーザの囲みをかいくぐり、空いたスペースを活用しようとしますがなかなかうまくいきません。

ようやくチャンスをつくったのが、前半33分でした。澤が右サイドでフリーの大野忍に預けると、大野はクロスを上げます。これを受けた川澄奈穂美が右足を振り抜くも、上辻佑実にブロックされます。それでもこぼれ球を川澄が拾って中盤に下げると、そこにいた伊藤美紀が迷わずミドルシュートを放ちました。 ワンバウンドしたボールを山下杏也加が弾き、高瀬愛実が詰め寄りましたが、これは山下へのファウルになりました。

逆に決定機を逃した8分後に大ピンチが訪れます。原菜摘子のDFラインの背後を狙ったパスを田中が見事なボールコントロールで収めると、海堀と1対1になったのです。失点を覚悟するような絶体絶命の場面でしたが、ギリギリまで動かなかった海堀が勝ち、田中のシュートはほぼ正面でキャッチしました。

スコアレスながら劣勢に立たされていたINACは、後半から高瀬に代えて増矢理花を投入します。増矢のスピードと突破力を生かしたいという意図でしょう。さらにシステムを4-2-3-1に修正して、ベレーザと同じ形にしました。

ただ、エンドが変わってもベレーザペースは変わりません。選手達の運動量は一向に落ちず、展開力のある阪口夢穂が何度もシュートチャンスをつくりだしていました。ここをつぶしておきたいINACでしたが、攻撃の起点になる背番号20を抑えることができません。

松田岳夫監督は、伊藤美紀に代えてチャン・スルギ、鮫島彩に代えて中島依美を送り出し、攻撃のテコ入れを図るも主導権を奪い返せず、まともなシュートすら打てない展開が続きました。

すると後半29分、ベレーザに先制を許します。籾木結花のクロスに対して後方から走り込んだ阪口が頭で合わせ、ゴールを奪ったのです。パサーとしてだけでなく、フィニッシャーとしての能力も高い阪口ならではの得点でした。直前に川澄がCKを阻止するためにスライディングでクリアしましたが、それが報われず、スローインからの流れで左サイドを崩されて失点してしまいました。

その後、反撃しなければならないINACのシュートらしいシュートは、32分の増矢によるミドルシュートくらいしかありませんでした。最後までリーグ最少失点を誇るベレーザのコンパクトで集中した守備を崩しきれず、攻撃の形としてはクロスまでは行くもののフィニッシュには至らない場面が数回あった程度です。

最終的なスコアは0対1でしたが、完敗と言っていいほど終始ベレーザペースだった90分。勝ち点差を1に縮められただけでなく、いいところのなかったINACには大きなダメージとなりました。


試合を大きく分けたのは、後半11分のシーンでした。森重真人のパスを東京陣内で岩波拓也が奪ってから、神戸はじっくりとボールを回し、最後は森岡亮太がミドルシュートを放ちました。それをJリーグデビューとなったブラダ・アブラモフが右手ですばらしいセーブをしたのです。

このシュートを決められていれば、米本拓司のボール奪取を起点にした前半38分の前田遼一の先制点が無になるところでした。ここで試合が振り出しに戻っていたならば、前半半ばまでと同様に神戸にいいようにボールを回される展開に逆戻りして、試合の行方が変わっていたかもしれません。

それだけ大きなセルビア人GKのプレーの直後、東慶悟が河野広貴に代わって投入され、追加点を奪いに行く姿勢を明らかにしました。この采配は見事に的中します。

後半24分、リスタートで徳永悠平からのサイドを変えるパスを受けた東が低いクロスを上げると、神戸の最終ラインと駆け引きをしていた前田遼一が体を投げ出し、山本海人の股間を抜くシュートを決めたのです。左サイドで東がラストパスを出す前に、太田宏介が高橋峻希を引き付けた動きも奏功しました。

さらに33分、高橋秀人のスルーパスを東が受け取り、相手守備陣を引き付けてから前田遼一にパスを送ります。前田のファーストタッチはそのまま流れ、ゴールネットに転がっていきました。これで試合は決まりました。

ただ、神戸は点差をつけられながらも最後まで戦う姿勢を貫きました。前田の3点目が決まる前に増川隆洋を下げてブエノを入れるとともに、3バックの真ん中を務めていたチョン・ウヨンをボランチに上げて、4バックにシフト。直後に失点こそしましたが、あきらめずに攻め込んでいきました。

アディショナルタイムには東京が完全に押し込まれてしまい、とりわけ森岡が輝きを放ちます。ただホームチームは決死のディフェンスで、クリーンシート達成のために動き続けました。47分、高橋峻希のパスを石津大介がスルーし、それを受けた森岡のシュートは丸山祐市のブロックで辛くもクロスバーの上に逃れます。

そして6分あった追加時間での怒涛の攻撃を凌いだ東京が、このまま逃げ切り勝利を収めました。スコアどおりの楽な試合ではありませんでしたが、年間順位を高くキープする上で貴重な一勝となりました。

 

いつものように日本サイドの大人の事情により過酷な気象条件での試合となったアフガニスタン戦は、6対0の大勝に終わりました。

前半はCBの森重真人、吉田麻也が芝が深くてボールが転がりにくいピッチで、さかんに中盤を飛ばしたロングボールを左右に散らして相手DFの隙間づくりに貢献しました。パス出しだけでなく、前半27分には森重がロングシュートを放ち、オバイス・アジジの手前で大きく跳ね、クロスバーを直撃するシーンも見られました。

そんな中でゴールラッシュの口火を切ったのは香川真司でした。10分、この日スタメンに起用された原口元気からボールを受け、リターンパスを出すと見せかけて反転、アバシン・アリキルをかわしてミドルシュートを決めました。

35分の追加点は前半強調していた縦へのボールから生まれます。ショートコーナーの流れで長友佑都が中盤でボールを受けると、前線に蹴り出します。その先にいた森重のヘッドはアジジのファインセーブに阻まれましたが、こぼれ球に体を投げ出して反応した本田圭佑が懸命にクロスを供給し、森重が難なく押し込みました。しばらくゲームから消えていた本田が泥臭く粘りました。

後半もしばらくロングボールを使った攻めを続ける中、試合を決定づける3点目を奪ったのは香川でした。後半5分、ルーズボールを拾った本田が香川にパスを送ると、香川はペナルティエリア内で原口とのワンツーを決めてフィニッシュ。ファーサイドのネットを揺らしました。

12分と15分には岡崎慎司に待望のゴールが生まれます。最初は香川の絶妙なスルーパスを受けた山口蛍からのやさしいパスを押し込み、2点目は本田の強引な右足シュートがH・アミンに当たり、そのこぼれに飛び込んで決めました。

こうなるとアフガニスタンの守備は間延びし、戦意も失われてきたかのように見えました。日本もそれにつきあってしまったのか、シュートの数が減ってきました。

そこでヴァイッド・ハリルホジッチ監督は交代カードを切ります。酒井宏樹に代えて、宇佐美貴史を送り出し、原口を右SBにコンバートしたのです。大量リードで相手もよほどのチャンスがなければ攻めてこない時間に、あくまでも貪欲にひたすらにゴールを奪いに行こうというメッセージを送りました。

あるいはひょっとすると直前にズバイル・アミリにボールを奪われカウンターを許した原口に、守備の意識を持たせる意味もあったのかもしれません。ただしこれは宇佐美と酒井の交代が確定したあとのできごとだったので、前者の意図が強いとは思いますが。

そして慣れないポジションを任された原口のフォローは、右SBもできる長谷部誠が担いました。36分に長谷部と交代した遠藤航も同様の役割を与えられました。

宇佐美投入の効果はすぐに表れます。29分、香川のヒールパスを受けた宇佐美はスピードに乗って突進し、エリアの深い位置からラストパスを供給します。その先にいた本田が体勢を崩しながらゴールに押し込みました。これがこの日最後の1点となりました。

欲を言えば、41分と47分の本田のFKが決まっていれば申し分なかったのですが、枠をとらえたシュートはいずれもアジジにセーブされました。

泥臭く貪欲な姿勢で大量点を奪ったことによって、得失点差は+9にまで伸びました。次戦、2次予選最大の山場である首位シリアとの一戦に向けて弾みのつく勝利になりました。

しばしば中盤でサイドチェンジを用いて、ピッチの幅を広く使い、サイド深くまで攻め込んでゴール前でのフィニッシュに繋げる。前半の日本は攻撃の形づくりに固執するあまり、5バックの前にさらにアンカーを置いたカンボジアの選手たちが密集しているエリアに入り込んでは、決定機をつくりきれない流れを自らつくっていました。

むしろ一手、二手前でシュートを打ってしまえばいいシーンもパスで繋いだり、球離れが悪かったりして、スコアレスのまま時間が流れていきます。シンガポール戦の悪夢の再現のようで、じりじりとした展開が続きました。

それを打ち砕き、シュートは打たなければ入らないことを思い知らせてくれたのが本田圭佑でした。前半28分、山口蛍からボールを受けると、思い切りよく左足を振り抜きました。生みの苦しみが長く、やっとワールドカップ予選で得点できたからか、本田は派手なゴールパフォーマンスをすることなく、ピッチの上で淡々としていました。さながら大事な試合で愛着ある古巣のクラブにゴールを決めた時に選手が見せるような振る舞いでした。

力関係を考えても、守備的なカンボジア相手には1点で十分でした。ゆえにスタンドには安堵の空気が流れ、カンボジアの最初の、そして唯一のシュートが、西川周作の正面だったとはいえ、枠をとらえた時には悲鳴ではなく、驚きのどよめきが起こり、カンボジアの選手が倒れて時計が止まっても、香川真司、岡崎慎司がソウ・ヤティーに阻まれて決めきれなかった場面でも焦る雰囲気にはならず、比較的余裕を持って見ていられました。

ただやはりこのままでいいというわけではないので、武藤嘉紀のヘッドで幕を開けた後半は、前線の選手の動きが激しくなり、サイドからのクロスもゴールから逃げていくマイナスのボールではなく、ゴールに向かっていくボールが多く供給されるようになりました。

そんな意識の変化が生まれていた中で、機を見て上がった吉田麻也のコースを突いたミドルシュートが後半5分に決まりました。さらに16分にはゴール前で混戦になったところ、こぼれ球を香川真司が丁寧に流し込んでとどめを刺しました。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、ピッチから次第に存在感が失われてきた選手を下げ、宇佐美貴史、興梠慎三、原口元気といったフレッシュで結果に飢えている前線の選手を送り込みました。

それでも最後まで足が止まらなかったカンボジア守備陣を攻略することはできず、3対0で試合は終了。34本もシュートを打ったのに……などと言われてはいますが、とにもかくにも欲しかった勝ち点3を獲得しました。

試合後、ハリルホジッチ監督はテレビインタビューが会場にも流れているのに気づいてか、いい雰囲気をつくりだした観客に対して感謝の言葉を述べました。一部の観客はすでに席を立っていましたが、その場にいた日本のファン、サポーターの心をつかむ最高の賛辞でした。

ワールドカップ予選特有の緊張感から解き放たれた日本。今後はしばらく海外での試合が続きますが、この勝利をきっかけにして、2次予選を通じてチームとして成長、成熟し、よりタフな相手が待ち受けるであろう最終予選に駒を進めてほしいものです。

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