22インチのフットボール

備忘録を兼ねて試合を振り返ります

2015年08月

序盤に主導権を握ったのは、アウェイのトッテナムでした。ユナイテッドよりもテンポよくスピーディーなパス回しで、攻撃に出ていきました。

前半5分、フアン・マタのパスをナセル・シャドリがカットすると、すぐさまハリー・ケインに渡します。中央でフリーのケインは落ち着いて浮き球をユナイテッド守備陣の背後に供給しました。そこへ走り込んだクリスティアン・エリクセンが頭でトラップしたのち、セルヒオ・ロメロの頭上を越すシュートを打ちます。ボールは惜しくもクロスバーを越えてしまいました。

12分にはムサ・デンベレがモルガン・シュナイデルランからボールを奪い、それを受けたエリクセンがケインにラストパスを送ります。ケインはやや角度のないところからシュートを放つと、ダレイ・ブリントに当たってCKを獲得しました。このCKの流れから、ケインは体勢を崩しながら強引にシュートを打っていきました。

こうして押され気味のユナイテッドでしたが、最初の決定機を得点に結び付けます。22分、ナビル・ベンタレブのパスをマタがカットして、メンフィス・デパイに預けます。デパイは前方のアシュリー・ヤングにパスを送り、ヤングはダイレクトでウェイン・ルーニーにラストパスを供給しました。フリーだったルーニーは落ち着いてトラップをしてからシュートを打とうとしましたが、懸命に戻ってきたカイル・ウォーカーが先にボールを触り、自陣のゴールに蹴り込んでしまいました。

先制点を契機にペースはユナイテッドが握るようになります。ゴールを脅かすほどのシュートこそさほど多くはなかったものの、ヤングやルーニーが積極的にクロスを供給しました。

トッテナムは逆にボールを持っていても、ユナイテッドの守備網を前に手詰まりになってしまい、どうしても遅攻になってしまいました。序盤の勢いは完全に失っています。46分には遠い位置からのFKのこぼれをトビー・アルデルバイレルトが狙いましたが、ロメロにキャッチされました。

後半に入ってもスパーズの手詰まり感は続き、なかなかチャンスをつくれません。ユナイテッドのロメロと最終ラインとの連携は覚束ない状態でしたが、その隙をつけないまましばらく時間は流れていきました。

ようやくそこを突いてCKのチャンスを得たのは、後半34分でした。右サイドのスペースに出たボールをベン・デイビスが追うと、クリス・スモーリングがロメロに任せようとしたものの、ロメロが飛び出さず、スモーリングが必死でクリアすることとなりました。これにはオールドトラフォードの観客がざわつきました。

少しずつ流れを取り戻し、43分にはやや遠い位置からのFKでエリクセンがゴール前に放り込むと、ケインと競り合ったスモーリングの頭に当たり、ボールはゴールに向かっていきます。ここはロメロが片手で弾きました。

その後もセカンドボールを拾い続けたトッテナムは、ケインの落としをエリク・ラメラがキープし、ペナルティアーク付近でフリーだったエリクセンに任せます。エリクセンの低い弾道のシュートは、またしてもロメロが防ぎました。

こうして難を逃れたユナイテッドは、ルーニーが前線でボールをキープして試合を終わらせました。決定機の数は相手より少なく、決して楽な試合だったとは言えませんが、ユナイテッドはとりあえず開幕戦を勝利で終えました。この試合ベンチ外だったダビド・デ・ヘアの移籍問題の解決あるいはロメロと最終ラインの連携の向上、そして後半15分に投入されたバスティアン・シュバインシュタイガーがチームになじんでフィットするようになれば、もう少し優位に試合を進められるかもしれません。

立ち上がりは宇佐美貴史のゴールへの積極的な姿勢が見られました。前半4分、武藤雄樹のCKが抜けていったところを拾い、カーブをかけたシュートを打ちます。これは惜しくもクロスバーを直撃しましたが、悪くないスタートです。

しかし先制点は中国でした。10分、吉翔のスローインを于大宝が落とし、郜林、呉曦とペナルティエリア内で繋ぎ、最後は武磊がシュートを打ち、丹羽大輝に当たってネットを揺らしました。エリアの中には東口順昭を含めて日本の9人の選手がいましたが、阻止することはできませんでした。

先制された日本は、縦パスをさかんに前方に送ってチャンスをつくろうとします。中盤のボール回しでもタッチ数を少なくして、横ではなく、前後にすばやくボールを動かしていきました。しかしなかなかそれが奏功しません。肝心なところでミスが続くため、ボールは保持できていても、決定的な場面をつくれずにいました。

それでも繰り返すことでいい形ができていきます。28分、槙野智章、遠藤航、川又堅碁、山口蛍と繋いで、山口が前方にスルーパスを供給します。これが走り込んだ武藤雄樹に通るも、王大雷に防がれ、こぼれ球を拾った宇佐美のシュートもキャッチされました。

形になったのは41分でした。ようやくゴールという結果を出します。最終ラインで森重真人とボールを回していた槙野が、相手陣内に入ると力強いパスを前方に送りました。それを米倉恒貴が生かしてクロスを上げ、武藤が飛び込んでゴールを決めました。前半のうちに追い付き、試合を振り出しに戻しました。

後半になると、日本は前半消えていた永井謙佑のスピードを積極的に生かすやり方を採用しました。3分にはCKの流れでCBの位置にいた米倉が、一気に永井の前方を狙ったロングボールを蹴り、永井がマイナスのクロスを上げて山口蛍がゴールを狙う場面が見られました。

永井は守備でも大きく貢献します。25分、自陣から猛ダッシュして長い時間ハイプレッシャーをかけ、それに続いた興梠慎三が相手を追い込み、最終的にフォローに入った山口がボールを奪うと、すばやく武藤に預け、武藤がシュートを放ちました。これは王大雷に防がれてしまいました。

29分に柴崎岳が武藤に代わって投入されると、柴崎は右サイドに流れるなどして、チャンスを演出します。37分、丹羽のロングボールをダイアゴナルな走りで柴崎が受けると、冷静にマイナスのパスを出します。そこへ山口が走り込みゴールを狙おうとします。ここは残念ながら相手のタックルに阻止されました。

一方、ディフェンス陣はカウンターとロングボールを使う中国相手に、槙野を中心に体を張った守備でさらなる失点を許しませんでした。結局、スコアは韓国戦同様、1対1のまま終了しました。

3試合を通じて勝ち点3こそものにできなかったものの、試合によってやり方を変えつつ、はっきりとした意図を持った攻撃を繰り返し、精度を上げる作業はそれなりに成功したと言えるでしょう。まさに継続は力なりです。ここでの経験は必ずやワールドカップ予選に生かされるはずです。

中盤でボールが収まらず、縦パスはたびたび相手にカットされ、ボール回しでの小さなズレが目立ち……と、全体的には特に攻撃面での課題が見られた大会最終戦でしたが、最後まであきらめない姿勢がなでしこジャパンに勝利をもたらしました。

韓国同様にワールドカップメンバーを起用してきた王珊珊擁する中国相手に、序盤は前線から意欲的なプレスを仕掛けていきました。最後こそ勝ちたいという思いが伝わる走りでした。

前半10分、川村優理が右サイドの中島依美にミドルレンジのパスを送ると、オフサイドと思ってか、中国ディフェンスが足を止めたところを逃さず突き進み、ゴール前に鋭いクロスを上げます。田中美南が飛び込むも、足は届きませんでした。

26分には、田中美南が劉杉杉に止められたため得たFKを杉田亜未が生かします。壁の外を巻いていったボールは枠をとらえ、王飛にセーブされてゴールポストに当たります。セカンドボールを狙って高瀬愛実と川村が詰めていましたが、ボールは足元にこぼれません。クリアされたボールは京川舞がシュートを狙うも、呉海燕がブロックします。これが前半最大のチャンスでした。

逆に38分、山下杏也加のキックが中途半端になったところを王珊珊に拾われ、ペナルティエリアへの進入を許し、王霜にラストパスを送られます。幸い王霜がボールコントロールに失敗し、ファウルを犯したために救われました。

日本は後半頭から高瀬に代えて菅澤優衣香がピッチに入り、それとともに中島をボランチに移すなど、中盤の選手の配置換えを行いました。これが奏功して、シュートチャンスが増えてきました。

後半13分にはセンターサークル付近で中島と田中明日菜がはさんで王珊珊のパスミスを誘うと、菅澤がこれをキープして、有町紗央里、田中美南へと渡り、最後は右サイドでフリーになった京川がシュートを放ちます。ここは王飛がパンチングをして逃れられました。

続く15分、CKのクリアボールを川村が拾うとボールを動かし、有町からパスを受けた田中明日菜が中国の最終ラインの背後にボールを出します。それを菅澤がダイアゴナルな動きで受け、やや後方にいた中島に預けます。中島は有町に渡し、有町はファーサイドにクロスを上げました。クロスの落下地点にはエリア外から走り込んだフリーの川村がいて、ヘッドで合わせます。今度はポストを直撃し、王飛にキャッチされました。

佐々木則夫監督は、21分に増矢理花、38分に横山久美という攻撃にアクセントをつけられる選手を送り出し、状況打開を図ります。

すると横山投入直後、右サイドで京川が増矢とのワンツーを成功させると、ドリブルでカットインしてゴールに迫ります。そして中国ディフェンスを引き付けると、前にいた横山にラストパスを送りました。横山は力いっぱい右足を振り抜きますが、弾道が低く、王飛に防がれました。こぼれ球に反応した菅澤も苦しい体勢からシュートを打ちますが、趙容にブロックされます。

これが伏線となり、43分の横山は、グラウンダーのシュートではなく、体を投げ出してきた王飛の上を通るシュートを打ち、待望の先制点をもぎとります。中島のスルーパスに反応し、趙容のタックルをかわしてのゴールでした。

さらに48分、菅澤が前線に抜け出して懸命にキープして落とすと、そこに走り込んできた杉田がダイレクトで合わせ、コースを狙ったシュートで追加点を奪います。菅澤が体勢を崩した際にボールが腕に当たっていたようですが、そばにいた中国の選手は特にアピールせず、主審も笛を吹きませんでした。

これで勝負は決まり、完封勝利を挙げた日本は1勝2敗で大会を終えました。課題は残ったものの、攻守ともに試合を重ねるごとに成長し、この試合ではタイムアップの笛が鳴るまで粘り強く戦い、走り続けて勝ちました。実になでしこジャパンらしい、魂のこもった戦いでした。

キム・ミヌがこの試合を通じて最初のシュートを打つまでに15分かかりました。それまでは特筆すべき事項は特になく、日韓戦は渋い試合になりそうな予感さえしていました。

しかしこれを皮切りに前半20分にはチョン・ウヨンが、21分にはキム・シヌクがシュートを放ちます。

そして25分、韓国にPKが与えられます。キム・シヌクが倒れながら預けたボールを右サイドのイ・ヨンジェが受け取り、クロスを送ると、キム・ミヌと競り合った森重真人の左腕にボールが当たってしまったのです。これをチャン・ヒョンスがきっちり決めて、韓国が先制しました。

以降も日本は自陣でのファウルが続き、劣勢に立たされます。全体的な動きも重そうでした。

そんな中で38分、チョン・ウヨンのシュートをキャッチした西川周作がロングキックで前方にボールを送ると、空中戦で永井謙佑がイ・ジュヨンのファウルを受け、FKのチャンスを得ます。

キッカーの柴崎岳はゴール前に放り込むのではなく、左にいた槙野智章に渡し、槙野はゴールを狙うもブロックされます。こぼれ球を再び槙野が前方にふわりとしたボールを蹴り出すと、それを森重が落として倉田秋に繋ぎます。パスは少しずれましたが倉田がこれを生かして、山口蛍に渡します。フリーの山口は迷わず右足を振り抜き、ゴールネットを豪快に揺さぶりました。日本にとって最初のシュートが同点弾となったのです。

息を吹き返した日本は後半、守備で積極的に間合いを詰めるなどして、相手に自由を与えません。最終ラインの選手達は集中を保ち、最後は絶対にやらせない、体を張ったディフェンスをします。

攻撃ではカウンターが中心となり、何度かあと一歩のところまで韓国ゴールに詰め寄りました。後半20分には、柴崎岳が中盤から一気に永井の前方のスペースにボールを出し、追いついた永井はうしろから上がってきた倉田にパスを送るも、パスがうまく通らず、体勢を崩した倉田は力強いシュートを打つことができませんでした。

26分にはまたも柴崎がセンターサークルからスルーパスを出し、スピードを生かして走る浅野拓磨に通りましたが、シュートを打ちきれず、遠藤航に預けるもクロスは簡単にクリアされました。

さらに38分、倉田が高い位置からプレスをかけて、相手にクリアさせると、落下地点を予測した槙野がダイレクトで前線に蹴り出します。これが浅野に通り、後方からは山口と宇佐美貴史が援護に加わるも、浅野はシュートを打つタイミングを逃し、チャンスをふいにしてしまいました。

このように縦への意識は速くなっているものの、アタッキングサードでの攻めに迫力がありませんでした。もっと強引に積極的にシュートを打ってしまってもよかったかもしれません。

逆に韓国はセットプレーでチャンスをつくります。23分、チョン・ウヨンのFKをキム・ギヒが折り返し、最後はイ・ジェホンが頭で合わせると、シュートはクロスバーを直撃しました。こぼれ球はイ・ヨンジェがダイレクトでゴールを狙いましたが、枠を大きく外れました。

47分にはクォン・チャンフンが無回転FKを蹴り、日本ゴールを襲います。ここは西川が正面でパンチングして逃れました。

一方、韓国以上に勝利を渇望していた日本は終盤、川又堅碁を投入してロングボールを放り込み、パワープレーを仕掛けましたが、ものにすることはできませんでした。

結局、試合は1対1のドローに終わり、現体制での公式戦初勝利はなりませんでした。ただ今大会の出来で、ワールドカップ予選のシンガポール戦から逆風が吹き始めている、就任して半年足らずのヴァイッド・ハリルホジッチ監督を責める気にはなれません。武漢にいない海外組を含めて、チーム全体に戦い方が浸透しきっていない中なので、もう少し長い目で見たいところです。

ワールドカップで歴史的初勝利を挙げ、ベスト16に終わったメンバーを揃えた韓国に対し、主力不在の日本の佐々木則夫監督は北朝鮮戦から大幅にメンバーを入れ替えて臨みました。今回のなでしこジャパンももちろん勝ちに拘ってはいたでしょうけれど、両者のこの試合に対する温度差からして、始まる前から苦しい展開になることは容易に想像できました。

案の定、自陣でのボールロストが目立っていた前半、それでも均衡を破ったのは日本でした。

前半30分、中島依美のCKの流れで競り合いが続き、最後はキム・ドヨンのヘッドでのクリアを中島がダイレクトで合わせて右足を振り抜くと、ボールはクォン・ハヌルに当たってゴールに吸い込まれていきました。

これでリズムをつかめるかというとそうでもなく、40分には有町の弱いパスをクォン・ハヌルに取られると、縦パスを送られ、日本陣内で3対3の状況をつくられます。どうにか攻撃を遅らせることができましたが、チョン・ソルビンがフリーのイ・ミナにパスを送ると、そのままシュートを放ちました。幸いボールは枠を外れていきます。

このようにシュートを打たれない場合でも、しばしばペナルティエリア内に進入を許しては緊張感を高めなければならないようなピンチに陥っていた前半でした。

後半の序盤は田中美南が仕掛けてCKを奪ったり、京川舞が迷いなくミドルシュートを打つなど、前半以上に攻撃への意欲、積極性が見られました。

しかし9分、悪い形で失点を喫します。韓国陣内での味方FKの流れからCBに近い位置にいた薊理絵のパスが猛然と走ってきたチョ・ソヒョンにカットされ、そのままドリブルで持ち込まれてシュートを許しました。DFの枚数は足りていましたが、阻止できませんでした。

18分、悪い流れを変えるべく、佐々木監督はチームキャプテンの川村優理を投入します。川村の展開力と積極的な攻撃参加で日本は息を吹き返します。27分には自らミドルシュートを打っていきました。

そして菅澤優衣香が投入された直後の28分、後半最大のチャンスが巡ってきました。自陣深い位置で中島がカン・ユミからボールを奪い、前方にロングパスを送ります。ボールの行く先には菅澤がいて、安定したポストプレーで柴田華絵に繋ぐと、柴田はドリブルで突き進み、並走して追い抜いていった京川に預けます。京川はキム・スヨンのタックルを冷静にいなして丁寧にマイナスのクロスを供給しました。そこにはほぼフリーの柴田がいましたが、足はボールをとらえることができませんでした。

その後、36分には横山久美が最後の切り札として送り込まれ、相手ゴール付近で果敢にドリブル勝負を仕掛けていきます。

前半に比べれば決して悪い流れではなかった日本でしたが、アディショナルタイムに勝ち越し点を奪われます。京川がペナルティエリア付近でチャン・スルギを倒してFKを与えると、47分にチョン・ガウルが鮮やかな放物線を描くシュートを決めました。

なでしこジャパンは残されたわずかな時間でゴールを奪いに行くものの、決定機はつくれずに試合は終わりました。この本気の韓国とのゲームで結果を出せれば、選手達にとっては大きな自信になるはずでしたが、終わってみれば1対2の逆転負けでした。

最終戦は日本と同じく2連敗を喫したホスト国、中国との試合となります。果たして、なでしこの意地は見られるでしょうか。

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