負けてもおかしくない試合でした。
パワーと高さにものをいわせたイングランド相手に、なでしこジャパンは追い詰められました。チーム全体の重心も低く、いつものような流れるような崩しからアタッキングサードに持ち込んでシュート、という機会はなかなかつくれずにいました。一度も勝ったことがないという相性の悪さは、本当だと思わずにはいられませんでした。
開始早々のジョディー・テイラーのミドルシュートが、日本のゴール脇をかすめた時から厳しい戦いが始まりました。GKのカレン・バーズリーのロングキックを受け、ファーストトラップで熊谷紗希をかわしての一撃でした。
その後、イングランドのタイトな守備に手を焼き、日本は思うように攻撃の形がつくれません。たとえ中盤で回せたとしても最後のパスの精度が高くなく、相手に脅威を与えられずにいました。
逆に前半20分のステフ・ホートンの遠い位置から放つクロス性のFKや、23分のルーシー・ブロンズのロングスローからトニ・ダガンのパンチのあるシュートが襲い掛かってきました。
そんな状況の中、ゲームが動きます。31分、阪口夢穂がイングランドのお株を奪うようなロングパスを送ると、それを受けに走った有吉佐織をクレア・ラファティーが後方から倒してしまいます。倒した場所はペナルティエリアの外に見えましたが、主審はペナルティスポットをさしました。似たようなシーンは今大会のほかの試合でもあり、妙なスタンダードができつつあるのがうれしいやら怖いやらで、とりあえず今回は日本に幸運な判定となりました。
このPKをゆっくりとした助走で、少しブーイングを浴びつつも宮間あやが冷静に決めます。
しかし、貴重な先制点から6分後、今度はイングランドにPKが与えられました。CKの守備で大儀見優季がホートンを倒してしまったという判定が下されたのです。これをファラ・ウィリアムズに豪快に決められてしまいました。前半残り5分という嫌な時間での失点となりました。
後半に入るとさらにイングランドが襲い掛かります。特に後半17分から21分までは、際どいシュートを次々と食らってしまいました。
まず熊谷と阪口にはさまれながらも強引に打ったダガンのシュートがクロスバーをヒット。2分後、鮫島彩がジル・スコットにボールを奪われ、ジェイド・ムーア、エレン・ホワイトと繋がり、ホワイトの強烈なシュートを海堀あゆみがセーブ。さらに2分後、強烈なCKからのジル・スコットのヘッドがゴールをかすめました。
悪い流れを断ち切ってくれたのは、25分に投入された岩渕真奈でした。オーストラリア戦で殊勲のゴールを挙げた岩渕は、27分に宮間のパスを受けると、ドリブルでペナルティエリアに進入してクロスを上げ、28分には日本にとって後半最初のシュートを放ちました。
それでも完全に流れを取り戻すには至りません。33分にラファティーのクロスがバーを叩き、40分には3枚目のカードとして厄介なカレン・カーニーが投入され、44分にはホートンのFKでゴール前で混戦になるなど、油断できない時間が続きました。
そんな中で延長戦突入を覚悟した47分、思わぬ形でゴールが生まれます。熊谷がボールカットし、そのまま川澄奈穂美にパスを出すと、川澄はスピードを生かした得意のドリブル突破ではなく、アーリークロスを相手最終ラインの背後めがけて送りました。このボールがCBのローラ・バセットの足に当たり、バーズリーの頭上を越え、クロスバーに当たってゴールラインを割ったのです。リードはしたものの相手を思いやってか、川澄に笑顔はありませんでした。
試合はこのまま2対1で終わりました。どんなに苦しめられても運をも味方につけて粘り勝ちできるあたりは、さすがと言わざるをえません。
これで主要国際大会の決勝で再びアメリカと雌雄を決することとなりました。今回はアメリカサポーターが大挙して訪れることが予想され、ほぼアウェイの環境で戦うことになるでしょう。
それにしても、9位に終わった3月のアルガルベカップの不出来を思えば、予想だにしなかった展開です。組み合わせに恵まれたとも言われていましたが、早期敗退も考えられました。しかし、大事なところ、勝負どころで勝つ強さを彼女達は身につけていました。