決勝トーナメント1回戦の日本対ブラジルが描かれているこの巻では、2015年の終わりが近い今となっては懐かしさすら覚える8.6秒バズーカーとクマムシのネタのオマージュを挟みつつ、これぞ少年マンガ、と思わせてくれるファンタジーにあふれたプレーが次々と繰り広げられていきました。

まず見せたのは地元開催のワールドカップで負けられないブラジル。エースのネストールが鉄壁のディフェンスを誇るヒクソン・シウバのパスをわざわざ下がってカットし、自陣でボールを持つと、そのまま日本のゴールまでドリブルで進んでみせます。サイドラインでは森川竜司と山波健介を股抜きとヒールリフトでかわし、最後はイタリア戦での坂本轍平と同じように角度のないところからシュートを打ちました。

ボールは外側のサイドネットを揺らすにとどまり、得点には至りませんでしたが、ほぼ完璧な流れでした。この一連のシーンは、直後に森川がネストールとの1対1を制することの意味の大きさを表していました。

その次はディディーが見せます。巧みな演技でFKを奪うと、そこでは単なるおとり役ではなく、ボールに触っていないようで実はほんのわずかに触っていて、ネストールとのコンビで難なく勝ち越し点を奪います。イタリアのマルコ・クオーレのプレー以上にじっくり見ないとわからない、とても緻密で狡猾な動きでした。

もちろんそれで引き下がる日本ではありません。後半開始直後こそブラジルの勢いに負けて追加点を許してしまいますが、坂本琴音の提案した4-3-3、カルロ・グロッソ監督が「ステラシステム」と呼ぶ形に変え、一気に形勢を逆転させます。

このシステムはトップ下に人を立たせず、インサイドハーフと前の3人が自由自在にポジションを変え、5人でゴールに向かって星がきらめくイメージを共有。最終的にはゴールに通じる「星の通り道(ステラスポット)」を見つけ出し、フィニッシュに繋げるという攻撃です。実際にこれで1点を返しました。

ポジショニングを流動的にして相手を混乱させ、イメージ通りにボールを回すことで、特別な者にしか見えないステラスポットをいとも簡単に見つけることができているので、ブラジルに限らず、どんな相手であろうともいくらでも点を取れそうな無敵の攻撃に思えてしまいます。日本がミネイロンの惨劇を再現しそうな勢いがありました。

しかし、2回目は沖田薫のシュートをヒクソン・シウバがブロックしてこの巻は終わります。シウバも星の存在を感じられるプレーヤーのようです。サッカー王国にそういう選手がいなくてはおもしろくありません。1点ビハインドの日本がどのようにシウバを攻略するのかが、この試合の行方を大きく左右しそうです。